首相が自然エネルギー懇談会を開催して、その中で「自然エネルギー庁」を創設して、太陽光や風力発電を今後のエネルギーの柱にするという。首相の最後のあがきだから、まったく無視してもいいのだが、ここまで世論に迎合しているのを見て、あいた口がふさがらない。
今後のエネルギーをどうするのか、いいかげんな評論家のいう世論に振り回されて、日本のエネルギー政策が、とんでもない方向に曲げられてしまっているような気がしてならない。
どう考えても、これからのエネルギーに原子力をはずしてしまったら、日本の電力コストは、今の2倍3倍に跳ね上がることは間違えない。それどころか、ここ4~5年の電力受給は賄えず、その皺は企業にいくことになろう。
ドイツ・イタリアの動きだけ見て、脱原子力が世界の方向なんて考えるのは、あまりに国益を無視している。域内で電力購入が当たり前になっているヨーロッパと違い、日本の足りないエネルギーは、石化資源を輸入してまかなわなければならない。原油の価格が今の価格で安定している保証はどこにもない。
結局、節電の話しになり、結果的には企業の海外逃避を後押しすることになる。アメリカ、ロシア、中国、フランス(戦勝国ばかりだが、軍事力で世界を支配している国)は、原子力推進の方向を変えていない。
彼らは原子力をコントロールすることをよく知っているからだ。仮に日本が脱原子力だと騒いでみたところで、これらの国で原子力発電が増えてくれば、危険は日本に及ぶし、コスト競争力でも世界に遅れを取ってしまう。
ここでのエネルギー政策は、方向性を出してはいけない。福島原発事故で世界がもっとも知りたがっているのは、復旧対策でもなければ安全な運転方法でもない。長期に及ぶ人的被害の影響だ。おそらくロシアでもアメリカでも、動物実験ではある程度の安全性の確認はしているだろうが、これから先の日本の動きを注意深く観察している最中だ。
日本は、原爆唯一の被害国であると同時に、安全といわれた原発の被害国にもなってしまった。これらの不幸を無駄にしないためにも、ここはじっと耐えることだ。1年もすれば、原子力事故の人的被害状況がはっきりしてくる。ここではむしろ、安全な原子力エネルギー確保に向け、研究を後押しすることだ。
エネルギー不足で経済の発展はない。それどころか雇用不安から社会が乱れ、人口が減り、やがて自然だけが美しい江戸時代のような国になってしまうだろう。
そのとき、世論はどうなっているだろうか。あのときの首相は歴史の鏡となっているだろうか。