村上春樹カタルーニャ講演『非現実的な夢想家として」

☆プリ☆彡さん
☆プリ☆彡さん

全文をいくつかに分けて掲載します ①~④まであります  (文字数オーバーで一度に載せられなかった)

 

(わたしが作家としての村上春樹の、春樹フリークであることは、何回か、日記に書いてきました。

エルサレムに続いて、二つ目の、世界に向けた村上春樹のスピーチです。

賛否はあるでしょう。発信するということは、そういうことです。

お時間があるときに、お目をとおされてくだされば幸いです)

 

村上春樹は今回日本語でスピーチしました。

それは、翻訳されることなく、わたしたち日本に向けて直截に届くようにとのスピーチであったからだと受け取っています

 

 

「非現実的な夢想家として」①

 僕がこの前バルセロナを訪れたのは二年前の春のことです。サイン会を開いたとき、驚くほどたくさんの読者が集まってくれました。長い列ができて、一時間半かけてもサインしきれないくらいでした。どうしてそんなに時間がかかったかというと、たくさんの女性の読者たちが僕にキスを求めたからです。それで手間取ってしまった。

 僕はこれまで世界のいろんな都市でサイン会を開きましたが、女性読者にキスを求められたのは、世界でこのバルセロナだけです。それひとつをとっても、バルセロナがどれほど素晴らしい都市であるかがわかります。この長い歴史と高い文化を持つ美しい街に、もう一度戻ってくることができて、とても幸福に思います。

 でも残念なことではありますが、今日はキスの話ではなく、もう少し深刻な話をしなくてはなりません。

 ご存じのように、去る3月11日午後2時46分に日本の東北地方を巨大な地震が襲いました。地球の自転が僅かに速まり、一日が百万分の1.8秒短くなるほどの規模の地震でした。

 地震そのものの被害も甚大でしたが、その後襲ってきた津波はすさまじい爪痕を残しました。場所によっては津波は39メートルの高さにまで達しました。39メートルといえば、普通のビルの10階まで駆け上っても助からないことになります。海岸近くにいた人々は逃げ切れず、二万四千人近くが犠牲になり、そのうちの九千人近くが行方不明のままです。堤防を乗り越えて襲ってきた大波にさらわれ、未だに遺体も見つかっていません。おそらく多くの方々は冷たい海の底に沈んでいるのでしょう。そのことを思うと、もし自分がその立場になっていたらと想像すると、胸が締めつけられます。生き残った人々も、その多くが家族や友人を失い、家や財産を失い、コミュニティーを失い、生活の基盤を失いました。根こそぎ消え失せた集落もあります。生きる希望そのものをむしり取られた人々も数多くおられたはずです。

 日本人であるということは、どうやら多くの自然災害とともに生きていくことを意味しているようです。日本の国土の大部分は、夏から秋にかけて、台風の通り道になっています。毎年必ず大きな被害が出て、多くの人命が失われます。各地で活発な火山活動があります。そしてもちろん地震があります。日本列島はアジア大陸の東の隅に、四つの巨大なプレートの上に乗っかるような、危なっかしいかっこうで位置しています。我々は言うなれば、地震の巣の上で生活を営んでいるようなものです。

 台風がやってくる日にちや道筋はある程度わかりますが、地震については予測がつきません。ただひとつわかっているのは、これで終りではなく、別の大地震が近い将来、間違いなくやってくるということです。おそらくこの20年か30年のあいだに、東京周辺の地域を、マグニチュード8クラスの大型地震が襲うだろうと、多くの学者が予測しています。それは十年後かもしれないし、あるいは明日の午後かもしれません。もし東京のような密集した巨大都市を、直下型の地震が襲ったら、それがどれほどの被害をもたらすことになるのか、正確なところは誰にもわかりません。

 にもかかわらず、東京都内だけで千三百万人の人々が今も「普通の」日々の生活を送っています。人々は相変わらず満員電車に乗って通勤し、高層ビルで働いています。今回の地震のあと、東京の人口が減ったという話は耳にしていません

なぜか?あなたはそう尋ねるかもしれません。どうしてそんな恐ろしい場所で、それほど多くの人が当たり前に生活していられるのか?恐怖で頭がおかしくなってしまわないのか、と。

 日本語には無常(mujo)という言葉があります。いつまでも続く状態=常なる状態はひとつとしてない、ということです。この世に生まれたあらゆるものはやがて消滅し、すべてはとどまることなく変移し続ける。永遠の安定とか、依って頼るべき不変不滅のものなどどこにもない。これは仏教から来ている世界観ですが、この「無常」という考え方は、宗教とは少し違った脈絡で、日本人の精神性に強く焼き付けられ、民族的メンタリティーとして、古代からほとんど変わることなく引き継がれてきました。

 「すべてはただ過ぎ去っていく」という視点は、いわばあきらめの世界観です。人が自然の流れに逆らっても所詮は無駄だ、という考え方です。しかし日本人はそのようなあきらめの中に、むしろ積極的に美のあり方を見出してきました。

 自然についていえば、我々は春になれば桜を、夏には蛍を、秋になれば紅葉を愛でます。それも集団的に、習慣的に、そうするのがほとんど自明のことであるかのように、熱心にそれらを観賞します。桜の名所、蛍の名所、紅葉の名所は、その季節になれば混み合い、ホテルの予約をとることもむずかしくなります。

 どうしてか?

 

33件のコメントがあります
21~33件 / 全33件
プリマムさん、こんばんは(^o^)

村上春樹の講演全文、しっかりと読ませてもらったよ。

僕達もしっかりと真剣に考えていくべきだね。
夜景にやんわりと咽ぶサックスの音色って合いますね!

ただ六本木ヒルズの夜景が宇宙基地みたいなド迫力で、
ちょっと怖かったですが(汗。

 >エヴァンゲリオンがお好きかと思いました

名前は知っているものの、わたしはガンダムとかそっち系はさっぱりで。

アムロとシャアくらいしかわからずです・・・。

コテコテの理系?

コテコテの大阪人という言い方は聞いたことありますがおもしろい言い方ですねー

 

わたしはてっきり、エヴァンゲリオンがお好きかと思いました

 

エヴァンゲリオンの日本中の電力を集めろーっていうのを、

前フレンズのソルトさんが教えてくれて

もう泣きながら観ましたもんね、東電の日記の中の、私の中にもありますけど

「日本中の電力を集めろー」ですよー感動です

がんばれ、東電☆会社の意地を見せろよー

踏ん張れ東電☆ ここの会社は優秀な頭脳は集まっておらんのかどうなのか

東電に告ぐ☆

「日本中、否、世界中の頭脳を集めよー」

 

話がそれました‥‥

 

夜景は、僕らの音楽とはちょい違うなーと

 

僕らの音楽http://www.youtube.com/watch?v=OsEuy1xdjJ4

 

この夜景はしぶい☆

 

え、いや、わたしはコテコテの理系人間で、
作家になろうだなんて大それた野望はみじんもありません(汗。


 >「わたしたちは、こうしてあり地獄から這い上がった~☆」

この日記読んでましたよ。

発想の愉快さに爆笑してしまいました(笑)!

サイン会には呼んでくださいねー。

 >前の短い間のプロフですけど、エヴァの綾波レイ みたいかな~?と

 >ちがったっけ?フィギュアみたいなのかなと。


実は、わたしも良く知らない・・・(汗)。

今の画像もそうですが、気に入った画像をネットから拾って使ってるだけで、
これも、どこの夜景だかわかってなかったりして(笑)。


あらまー

 

NF2さんも作家志望でいらしたことが?

ここは、(みん株は)実は未来の作家が、たくさんおられますのよー

 

これから、読ませていただきますね☆

 

しかし、NF2さんも、面白い人っちゃね~

いろんな顔があるんですね? 謎☆

 

わたしは、そのうち、株で成功してにゃんママさんと共著で

 

「わたしたちは、こうしてあり地獄から這い上がった~☆」

みたいな体験記を書こうじゃないって、言ってるんですよ

 

サイン会には何を着ようかなー

と妄想中☆

 

そういえば、前の短い間のプロフですけど、エヴァの綾波レイ みたいかな~?と

ちがったっけ?フィギュアみたいなのかなと。

 

 

「こいつがなんだかくらいわかってるよな」


 非常階段の鉄柱を背に、座り込んだ銀縁デブが小刻みに首を縦に振った。


 邦彦は包みのひとつを開いた。耳掻き一杯ほどの緑の結晶。『スパーク』だ。アルミホイルであぶって煙を吸い込めば、目が飛び散るような世界にトリップできる。原料は市販の漢方薬と解熱剤。どこかのバカが合成方法を見つけてインターネットに公開した。厚生労働省の動きがのろいおかげで、今じゃ、あちこちで出回っている。『スパーク』を売るのは気の弱いガキどもだ。いじめの代わりに売らされている。いじめるやつからすれば、殴り飛ばして親から金を引き出させるより、はるかに効率よく稼げる。


「これはお前が作ったのか」


 首が横に振られた。


「お前は誰かに言われてこれを売ってるんだろ」


 首が縦に振られる。


 邦彦はしゃがみ込んで、血でてかった銀縁デブの顔に目線を合わせた。背中の下で硬い違和感が強くなる。ガキとヤクザの違いを決定づけるもの。邦彦はジャケットの後ろに右手を回すと、ベルトに挟んだ拳銃を引き抜いた。銃口を銀縁デブの頬に突き当てる。細かった銀縁デブの目が大きく見開かれた。視線は拳銃に釘付けになっている。邦彦は拳銃の先で銀縁デブの頬をぴたぴたと叩いた。


「いじめっ子とヤクザってのはな、世界が違うんだよ。やつらは遊びだが、おれたちはこれが仕事だ。わかるか。おれたちはこれでメシ食ってんだよ。必要ならば殺しもやる」


 銀縁デブの目が血走った。時間が経っても通り過ぎるものではないことを悟った目。これでいい。ここからが腕の見せどころだ。邦彦は深く息を吸い込むと、乱れた金髪をかきあげて整えた。サングラスを外して胸から下げる。軽くため息をつくと銀縁デブの肩に手を回した。


「なあ、お前もこんなことはいやなんだろ? おれだって、お前を痛めつけたところで何にもならねぇ。お前に『スパーク』を売らせているやつらの名前を吐いちまえよ。おれがそいつらを片付けてやる。そうすれば、お前も楽だろう。やつらに仕返ししてやりたいんじゃないか」


押さえ込んだ柔らかめの声。銀縁デブの目が泳いでいる。だが、さっきのような弱さは無い。目つきに力が入っている。手ごたえを感じた。


 




「お前、何年生だ」


「高一」


「じゃあ、このままだとあと二年はいじめが続くわけだ」


 銀縁デブが唇を噛んだ。行ける。あともう少しでこいつは落ちる。邦彦は唇を舐めた。


「薬はおれたちの商売だ。お前たちにこんなものを売られちゃ困るんだよ。それはわかるよな」


 首が縦に振られた。


「おれたちは職業ヤクザだ。おまえにゃ、連中を消すことはできないだろうが、おれたちには簡単なことだ。連中がいなくなれば、おれたちは商売を荒らされなくなる。お前はいじめから解放される。そうだろ?」


 銀縁デブの目に力がこもり涙が流れた。嗚咽。完全に掛かった。腹の中で笑いが漏れた。


「つらくて……、つらくて……。親にも言えなくて……。もう生きているのがイヤで……。でも、自殺なんか怖くてできなくて……。自殺ネットに書き込むつもりで……


 銀縁デブが爆発するように泣き始めた。想定外の言葉に心が惹かれた。


「自殺ネット? なんだそりゃ」


「お金さえ払えば誰かが自分を殺してくれる闇サイトで……。でもお金が必要で……。だから、包みから少しずつ『スパーク』をかき集めて……。それを売ったお金が貯まったら、サイトに申し込むつもりで……


「そのサイトはどこにあるんだ」


「そんなのケータイのネットにいくらでもある……。お金だけ取られる偽のサイトもたくさんある……


「どうやって本物を見分けるんだ」


「どれが本物かなんてわからない……。まだ、いろんなサイトの説明を読んでるだけで……、どうやって見分けるかなんてわからない……


 自殺ネットが存在する。引き込まれそうな話だった。だが銀縁デブはまだ大したことをつかんでいない。闇の世界を知らないガキが、闇の仕事屋を見分けることなど到底無理な話だ。自分で調べた方がはるかに早い。脱線した話に時間を使うわけにはいかなかった。誰かに見られると厄介だ。


邦彦はポケットから手帳を取り出すと何も書いていないページを開いて、ペンと一緒に銀縁デブに差し出した。


 


「お前にそんな闇サイトはもう必要無い。おれたちが連中を片付けてやる。そこに連中の学校名と名前を書け。学年とクラスも忘れんなよ」


 銀縁デブが次々と名前を書き始めた。目がぎらついている。邦彦は腹の底で笑った。


 名前は八つ並んだ。


「他にお前みたいに売らされているやつはいるのか?」


「三人いる」


「そいつらの名前も書け」


 更に三つの名前が追加された。


「この八人の役割を説明しろ」


「貴之がリーダーで、『スパーク』を仕切っているのが秀一。あとは取り巻き」


 まだ涙声でしゃくりあげているが、話そうとする自発的な意志が感じられた。すがるような目。「何でも言うから、こいつらを消してくれ」と言っているようだった。


「じゃあ、秀一ってのが『スパーク』を作っているのか?」


 銀縁デブが頷いた。邦彦は秀一と書かれたところに丸印をつけた。


「秀一ってのはどんなやつだ。どこで『スパーク』を作ってるんだ」


「秀一は学年でトップの成績なんだ。科学オタクで、家にいろんな実験キットを持ってる。真空蒸留装置まで持ってるって言ってた。父親が製薬会社の研究員なんで、色々と実験方法を教えてくれるらしい。父親は秀一が家でスパークを作っていることなんか知らない」


「月にどれくらい捌いてるんだ」


「他の三人がどれくらい売ってるかは知らないけど、僕は月に二百万円から三百万円売ってる」


 ざっと見積もって、四人で月に一千万。年間にすれば楽に一億を突破する。しかも材料費は大してかからない。丸儲けだ。ヤクの売人なんかバカらしくなるような数字だ。


「連中のバックにはどこかの組織がついているのか?」


「そんなの無いよ。全部あいつらだけでやってる」


「そうか、じゃあ連中を殺しても、どこの組にもいちゃモンをつけられることはないわけだな」


邦彦はゆっくりと立ち上がるとサングラスをかけた。


 


「ただ、お前はおれの顔を見ちまったな」


 


はっとした顔で銀縁デブが邦彦を見上げた。邦彦は唇の端を吊り上げて笑った。もう我慢すること何も無い。押し殺していた凶暴さを開放する時が来た。腕と足の筋肉には弾けんばかりにs暴力が充満している。銀縁デブの腹を思い切り蹴り上げた。銀縁デブは倒れこむと再び亀になった。かまうことはない。


 


邦彦は右足を振りあげると銀縁デブの肩を蹴った。腕を蹴った。足を蹴った。体中を駆けめぐる暴力が狂喜の声を上げている。銀縁デブの後ろ髪をつかんで引き立たせた。銀縁デブが両腕で顔を覆った。その上から拳銃のグリップで思い切り殴りつけた。金属の塊が肉に食い込む鈍い感触。もう手加減する必要は無い。力いっぱい何度も殴りつけた。殴るたびに銀縁デブの鼻と口から赤い血が飛び散った。銀縁デブが座り込んで邦彦の右足にしがみついた。


 


「助けて……


邦彦は両手で非常階段の手すりを握ると、右ひざごと銀縁デブの頭を階段の鉄柱に叩きつけた。銀縁デブはしがみついたまま離れようとしない。頭に血が上った。力いっぱい何度も叩きつけた。飛び散る血。しがみついていた銀縁デブの体がずるりと落ちた。銀縁デブの顔が刷毛で拭いたように邦彦の黒皮のパンツを血で赤く染めた。血がついた太ももからざわざわとした嫌悪感が駆け上がってきた。全身に怒りが突き抜けた。


 


仰向けに倒れた銀縁デブの顔を蹴った。腹を蹴った。胸を蹴った。肋骨が折れる感触。冷たい快感が背骨を突っ走った。ところかまわず蹴り続けた。


 


汗が吹き出て息が上がった。仰向けに倒れている銀縁デブの胸を踏みつけた。だぶついた脂肪の感触。銀縁デブの口からゴボリと血が噴きだした。腫れ上がった目は虚ろになっていた。意識を失いかけている。


 


半開きになった口から立ちのぼる白い湯気。その口を目がけて銃口を叩き込んだ。白い前歯が飛び散った。虚ろだった銀縁デブの目に光が戻った。首を横に振りながら邦彦を見上げている。血走った目玉が震えている。懇願の目。邦彦は冷たく笑った。銀縁デブが、くわえさせられた拳銃を口から引き出そうと邦彦の腕をつかんだ。


 


「いじめられるやつはなあ、どこに行ってもいじめられるんだよ」


 引き金を引いた。くぐもった爆音。銀縁デブの顔面から目玉が飛び出し、頭の下で赤い血だまりが爆発した。銃身が吐き出した薬きょうが足元で軽い金属音を立てた。銀縁デブが死線を飛び越え、あっちの世界に降り立った足音のようだった。


ぽっかりと開いた銀縁デブの口から白い煙が立ち昇る。生臭い血の匂いと硝煙の刺激臭が鼻を突いた。拳銃を引き抜くと、銃口が銀縁デブの口から光る糸の尾を引いた。銀縁デブのセーターで銃口を拭った。ぬるぬるとした粘液の感触。むかついた。頭の中で血がざわついた。銀縁デブの腹に銃口をめり込ませ何度も引き金を引いた。小さな破裂音。銀縁デブの死体が大きくバウンドする。笑いが漏れた。満足感が満ちていく。体中を駆けめぐっていた凶暴さが熱を引き、鎮まっていった。


 


拳銃を腰に差すとあたりを伺った。だれも出てくる様子は無い。口に突っ込んで撃った銃声など、ここではドラムの音が漏れたくらいにしか誰も思わない。邦彦は足元に散らばった『スパーク』をかき集めてポケットに突っ込んだ。


 


 携帯電話を引き抜くと、メモリーから番号を探し出して送信ボタンを押した。拳に乾いた血が貼り付いていた。三回の呼び出し音で相手が出た。


「ウェイ……


 不機嫌そうな中国語。


「楊さんか?」


「さわたさん、勘弁してくたさいよ。今、何時たと思ってる」


 死体処理専門の中国人。『だ』と『た』が曖昧な日本語がうっとおしい。


「死人が出た。死体を片付けてくれ。今すぐだ」


「さわたさん、こんな時間に予告も無しに人を殺すなんて。処分しろって言われても困るよ」


「ふざけんなよ。こいつは組の仕事だ。いっぺん死んでみるか、あぁ!」


ため息と沈黙。


 


「場所は、渋谷の『ヴィズ』ってクラブの非常階段だ」


 ため息。


「三十分以内に若いやつ連れていくよ」


「わかった。後は頼んだぞ」


 邦彦は携帯電話を切るとタバコを取り出し火をつけた。


 楊がくれば安心だ。楊は跡形も無く死体を片付ける。死体が無ければここの連中は誰も騒がない。無関心。銀縁デブが店にいたことなどだれも気にはしていない。ここはそういう世界だ。親が騒いだところで、行方不明だけでは警察はまともに動かない。それだけ犯罪が増えている。無関心。ここだけじゃない。誰もが面倒なひとごとは見て見ぬ振りを決め込んでいる。自分のちっぽけな満足を囲い込むことしか頭に無いやつらで溢れている。邦彦。隣に住んでいるやつの顔さえ知らない。


短くなったタバコを足元に投げ捨てた。水に触れた火が消える音。血溜りが足元にまで広がってきていた。振り返って銀縁デブの顔を見た。飛び出した眼球が、ねっとりと光る繊維の尾を引いて頬の上で宙吊りになっていた。眼球を失った空洞。底無しの暗闇のようだった。首筋を怖気が走った。


 


 


 

村上春樹は『ノルウェイの森』と『海辺のカフカ』を読みかけたことがあるんですけど、

どーも、没入できなくて途中で放り出してしまいました。

 

あのスローな時間の流れと独特な世界観がどーも受け付けられなくて。

 

でも、いずれあの人はノーベル賞取るんでしょうね。

 

 

わたしは、以前、原稿用紙80枚くらいの短編向けの新人賞に応募したことがあります。

 

西村京太郎、山本一力、宮部みゆき 、石田衣良、海月ルイなどを輩出した

オール讀物の新人賞。

 

結果は、一次選考を通過し、雑誌に名前が載りました。

 

当然のごとく、二次は落ちましたけど(汗。

 

気を良くして

 「じゃ、今度は長編行ってみようかー!」

と、『四日間の奇蹟』の浅倉卓弥や『チームバチスタ』の海堂尊を輩出した

賞金1,200万円の宝島社が主催する「このミステリーがすごい」大賞を狙って書き出したものの、

一発目でオール讀物の一次を通過したという変な達成感でやる気がうせ、

100枚チョイ書いたあたりで放り出してしまいました。

 

熱しやすく、冷めやすい。

 

興味を持つと徹底的にやるものの、

ある程度目的を達成すると、急に興味が無くなるんですよねー。

 

悪いクセです。

 

つい数年前のことなのに、なんか懐かしいなー。

 

PC見たら、書きかけの原稿残ってるー!(笑)

 

出だし載せますので、気が向いたら読んでみてくださいねー。



 




 

 

3Days Before 邦彦 at Shibuya 22:00


 

 暗闇にダンスビートが爆発した。目が痛いほど強烈な照明がフロアの中央を写し出す。交錯する赤や緑のカクテルライト。狂ったように踊り出す人ごみ。DJ交代の休憩が終わった。ミラーボールがでたらめに光を反射する。胸板がぶち抜かれるようなドラムとベースの大音響。抜けるようなボーカルが宙を飛び回わる。ユーロビート。白人の音楽の下で黄色い猿が踊り狂っている。

 ガキばかりが集まる渋谷のクラブ。これで四軒目だが、まだ当たりはない。沢田邦彦は入り口に近い席のスツールに腰を下ろすと、サングラスを外した。ジンライムのグラスをテーブルの上に置く。グラスの中で円形にできた波がドラムの振動に合わせて踊り始めた。左腕のロレックス。二年前、組長の盃を受けた時に城島からもらったお下がりだ。十時半を指している。

よどんだ空気。立ちこめたタバコの煙に甘い香りが混じっている。マリファナ。誰かがとろけた目をして原色に彩られた世界に浸っている。 


薄暗いフロアの隅に目を凝らした。カクテルライトの照り返しが不規則な色で人の塊を写し出している。腐ったガキどもの顔。


フロアを見つめて突っ立っているやつ。女を探して目を走らせているやつ。ナンパされるのを待っている女たち。


フロアを流し見る邦彦の目が異物を見つけてとまった。赤いチェックのセーターに坊ちゃん刈りのデブ。銀縁のメガネまで掛けている。年は十五、六。イケてる連中の群れに入ってきたダサいやつ。

髪を金髪に染めたカップルにおどおどと何かを渡している。五百円玉ほどの小さな包みが光を弾いた。アルミホイル。金髪の男は受け取った包みをポケットに入れると尻から財布を抜き出した。当たりだ。邦彦はジンライムを舐めながら細めた目だけで銀縁デブの動きを追った。


銀縁デブは金を受け取ると隣のカップルに移った。男の頬に顔を近づけ何かを言っている。男は、目の前に座る女に向かって手招きすると、女の耳元で何かを言った。紫に塗った長いネイルの上でビーズが光を乱反射する。ぼうっとしていた女の目がぎらついた。男が銀縁デブに向かって、指を二本突き立てた。ふたつの包みと札が一枚交換された。万札。ひと包み五千円。このペースでいけば、銀縁デブは一晩で二十は捌いている。一晩で十万から十五万。売人顔負けの売り上げだ。


 邦彦はジンライムをひと飲みにするとサングラスを掛けて席を立った。ガキ向けに仕立てた甘ったるい味に胸がむかついた。

 フロアを出てトイレに入る。重低音が消え、反響で輪郭を失った女性ボーカルの高い声だけが耳に入った。洗面所の鏡に写った自分の姿。金髪に染めた髪に細身の黒のサングラス。ジャケットとパンツはD&Gの黒皮。長身に分厚い胸板。二十一歳の年齢はガキの溜まり場をうろつくにはきつくなってきたが、フロアの連中に混ざってもまだイケてる方のはずだ。顔を斜めに構えて鏡を見た。サイドバックの前髪が乱れていた。これから神聖な死の儀式が始まる。邦彦はジャケットの内ポケットから櫛を抜き出すと、金色の髪を整えた。

 個室に入ると扉を閉じた。フタが半分欠けた洋式便所。卑猥な落書きで埋め尽くされた壁。邦彦は右手を腰の後ろに回した。ジャケットの下。ベルトに挟んだ拳銃を引き抜いた。黒い銃身が冷たい艶を放つ。血と暴力を欲したどす黒い塊。城島の獰猛な目つきと似ていた。城島が言った。「ガキが勝手に薬を捌いてやがる」。城島が吼えた。「見つけだして潰してこい!」。ヤクザの世界で上の命令は絶対だ。それがルールだ。中坊時代に城島に仕込まれたヤクザのルール。骨の髄まで滲み込みこんでいる。城島―――幹部。邦彦―――盃を受けて三年目の下っ端。城島の命令には逆らえない。

ゆっくりと銃身をスライドさせる。鋼鉄の歯が噛み合う金属音。薬室に弾丸が装填された。銃を腰に戻すと個室を出た。


 


 フロアに戻ると銀縁デブは茶髪のカップルに声を掛けていた。赤、青、オレンジ。気違いみたいなライトがフロアを交錯する。爆発するダンスビートが邦彦のひりついた凶暴さをかき立てる。腕の中で暴力を欲した血管がのた打ち回った。

邦彦は銀縁デブの後ろに立つと肩を叩いた。弾かれたように振り向いた銀縁デブの体がテーブルにぶつかり、グラスが床に落ちた。ダンスビートの爆音でグラスが割れる音は聞こえない。銀縁デブがおびえた目つきで邦彦を見上げた。女は立ち上がりもせずふくれっ面で酒が掛かった靴を振っている。茶髪の男が立ち上がって邦彦にガンを飛ばしてきた。邦彦は銀縁デブの後ろ髪をつかむと引き寄せて言った。


「痛い目にあいたくなかったらついて来い」

 銀縁デブのおびえた目が泳いでいる。

「これどうしてくれんだよ!」

 茶髪が銀縁デブを押しのけ邦彦の前ににじり出た。邦彦は銀縁デブから手を離すと、サングラスを外して茶髪と向き合った。目の奥をにらみつける。いきがっていた茶髪の目におびえが走った。大したやつじゃない。黙って胸倉をつかみ上げた。驚きの目。茶髪の顔面に拳を叩き込んだ。鼻の骨が折れた感触。茶髪の体はスツールごと後ろに吹き飛んだ。振り抜いた拳から心臓に向かって快感が突き抜けた。女が引きつった顔で叫んだがダンスビートにかき消されて何も聞こえない。周りのやつら。無関心な冷たい目。見て見ぬふりを決め込んでいる。ここはそういう世界だ。他人の痛みに興味を示すやつなど誰もいない。サングラスを掛けると銀縁デブのベルトの背をつかんで引っ張り出した。がたがたと震えている。お前の地獄はこれからだ。

 銀縁デブを連れてフロアの外に出た。廊下の突き当たりにグリーンに光るライトが見える。非常口。銀縁デブを引っ張って廊下を突き進んだ。スチール製の重いドアを開くと凍りついた夜気が吹き込んだ。薄っぺらな鉄板でできた非常階段。銀縁デブが外に出ることを拒んで足を突っ張った。

「許してください!」

 おびえた目。顔から汗が噴き出している。黙って銀縁デブの顔をにらみつけた。銀縁デブの喉がひくついた。ベルトをつかんだ手に力を込めて強引に引きずり出した。

非常階段の踊り場に出ると重いドアを閉めた。壁を叩くようなドラムの低い音だけが聞こえる。はるか下にある駐車場のライトが白い光を放つだけであたりに人影は無い。銀縁デブと邦彦だけを切り取って空間が閉じていた。


 邦彦は銀縁デブの胸倉をつかみ上げた。

「あそこで何をしてたんだ」

 銀縁デブは下を向いたまま何も言わない。つかんだ胸倉を引き寄せてにらみつけた。

「ヤクザ相手にだんまりが通るとでも思ってんのか、こら!」

 ヤクザという言葉に反応し、銀縁デブが邦彦の顔を見上げた。おびえと懇願に震える目。

「すみませんでした。許してください」

「だめだ。許せねぇな」

 どす黒い声の響きに、銀縁デブの顔から血の気が引いた。銀縁デブは震えたまま何も言わない。丸々と太った顔に細い目。いじめてやりたくなる顔。心が躍った。筋肉にたまった凶暴さが爆発しようとする。城島の顔が浮かんだ。蛇のような目。「金にならねぇことやってんじゃねぇ!」城島の声がこだまする。まだだ。まだ爆発させるわけにはいかない。奥歯を噛み締め湧き上がる凶暴さを腹の底に押し込んだ。まずはこいつに話をさせなくてはならない。ひかえめの力で右の拳を銀縁デブのどてっ腹にぶち込んだ。銀縁デブが腹を押さえてうずくまった。下を向いたまま苦しそうにうめき声を上げている。いじめるやつがそそられる典型的なタイプ。殴りかかりたくなる衝動を飲み下した。

「見てたんだよ。お前が何をしてたかくらいわかってる。さっさと吐いちまえよ」

 銀縁デブはうずくまったまま固まっている。つま先で軽く顔面を蹴り飛ばした。銀縁メガネが飛び、非常階段の上に落ちた。ぱらぱらとした軽い金属音。割れたレンズが非常階段の上を飛び散っている。

「全部吐けば帰してやる。さっさと言え」

銀縁デブは固まったまま口をつぐんでいる。予想はしてた。この程度で口を割りはしない。最近のガキはヘタなヤクザより打たれ強い。それだけいじめの檻が締めつけている。ヤクザのヒエラルキーより重厚ないじめの輪。


「ふざけてんじゃねぇぞ、こら!」

銀縁デブの腹を蹴り上げた。銀縁デブは前のめりに倒れ込むと体を丸めて亀になった。わき腹を腕で守り暴力に耐えるためだけの姿勢。いくらでも殴れと言っている。むかついた。相当いじめられ慣れている。暴力などなんとも思っていやしない。時間が経てば開放されると割り切っている。岩のような硬さ。叩き割らなければ先に進まない。全身を駆けめぐる凶暴さが開放しろと吼えた。奥歯を噛み締め押し殺した。


「立て、こら!」

銀縁デブの後ろ髪をつかんで引き立たせると顔面に拳を叩き込んだ。銀縁デブが両手で顔を覆う。その上から何度も殴りつけた。銀縁デブの顎から血が滴り落ちた。


 後ろ髪をつかんだまま銀縁デブの顔を引き寄せた。血と涙でぐしゃぐしゃになった顔が冷たい空気の中で白い湯気を上げていた。生臭い血の匂い。吐き気がした。抵抗する気を奪うには充分だ。

邦彦は銀縁デブのポケットに手を突っ込むと包みを探した。銀縁デブは顔の血を拭うだけで、ポケットを漁る邦彦の手を拒もうとはしなかった。


包みは右のポケットに入っていた。かなりの量がある。鷲掴みにしてポケットから掻き出した。手を離すと銀縁デブは崩れ落ちた。足元に落ちた包みをつま先で数えた。五十個はある。残っているだけでも二十五万円分。


 

ヤッホー☆

カフカさん

 

世界は今回のことについて、村上春樹が何を言うか固唾をのんで待っていた☆

ありがとう世界☆

発言の場を、ありがとう、バルセロナ☆

 

\(o ̄▽ ̄o)/

 

政治家が何を世界に向けて言ったのかというのを、不勉強でスマソ~知らないので、

どこかにあったら、(世界に向けての、今回の災害について誰が何を発言したのかってのを)また載せます。

 

今回の村上春樹のスピーチも、放送局によっては、取り上げたり、無視したり、

異なる姿勢があったようで、これから調べて、それがどんなもんであっても、報道しないと決めたマスコミは、これから、まゆつばで、わたしも聞こうと思いますデス

 

村上春樹は、日本の知的財産だぞ☆ ←わたくしの素直な気持ち

寝言いってんじゃねえぞ、こら~

 

気持ちいいコメント見つけました

◎村上春樹に感動できない人間は、現代社会で知的な人間と呼ぶことはできない。

知的な内面と、生活と、過去をもった人間とは、村上春樹の世界にアイデンティティを

コミットする人間である‥‥

 

もっと書いてあったけど、いろいろね、反村上春樹の人が見たら、人間じゃないみたいなことが書いてあるから、また私ココで通報されちゃうかもなので

ここを↓

http://critic5.exblog.jp/15738154/

 

もちろん、どんな意見もたくさんの分母の中の小さい分子かもしれやんが

わたしは、同じ分子の数がどんなに少なくても、少数派、あっぱれ~~☆と思ってますので、この方がどなたかは知りませぬが、あっばれ~~あっばれ~~♪と

熱い鼓動で血液がドクドクと流れて駆け巡ってまいりました

 

村上春樹は、日本の知的財産だぞ☆

寝言いってんじゃねえぞ、こら~

 

なんてね。

カフカさんのおっしゃること、もうもうもう、わかりますとも☆

 

そして冷房なしの夏なんて、無理ぃ~あたしぃ~と思う自分を、ぶん殴って

自分で自分をボコボコに殴り倒してやりますわ~~

もう一回大声で叫んでおこう

 

村上春樹は、日本の知的財産だぞ☆

寝言いってんじゃねえぞ、こら~

 

ま、お上品さをわすれておりましたことよ☆  

ありがとう、カフカさん☆

 

(退会済み)

こんにちは!

プーリーさん。

 

経済活動と個々の小さな幸せを天秤にかけて、どちらを選択するのか。

今の快適な生活を手放して、古典的な生活を模索するのか。

たぶん、90%の生活者は現在の生活を望むでしょう。

そして、政府やマスコミも許さないでしょう。

 

日本人は、精神的な偽善者が多いので、本音と建前を使い分けるでしょう。

「被災者は可愛そうだけど、わたしの生活レベルは落としたくない」

サクラやホタルやモミジは、美しいけれど、それはそれ。

冷房の効いた中で、快適な暮らしを望み続けるでしょう。

 

絶対安全。

チェルノブイリやスリーマイル島のことがあっても、絶対安全を唱えてきました。

人間、絶対という言葉を使う人間ほど危ないことはありません。

絶対実行する。絶対返す。絶対愛する。

そんな人間に限って、簡単に裏切るもんです。

 

駄文・・失礼しました。

 

 

かぞえ歌  ミスチルの歌に映像

 

http://www.youtube.com/watch?v=-Qk_vq-dA88

 

それは日本が長年にわたって誇ってきた「技術力」神話の崩壊であると同時に、そのような「すり替え」を許してきた、我々日本人の倫理と規範の敗北でもありました。我々は電力会社を非難し、政府を非難します。それは当然のことであり、必要なことです。しかし同時に、我々は自らをも告発しなくてはなりません。我々は被害者であると同時に、加害者でもあるのです。そのことを厳しく見つめなおさなくてはなりません。そうしないことには、またどこかで同じ失敗が繰り返されるでしょう。

 「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませんから」

 我々はもう一度その言葉を心に刻まなくてはなりません。

 ロバート・オッペンハイマー博士は第二次世界大戦中、原爆開発の中心になった人ですが、彼は原子爆弾が広島と長崎に与えた惨状を知り、大きなショックを受けました。そしてトルーマン大統領に向かってこう言ったそうです。

 「大統領、私の両手は血にまみれています」

 トルーマン大統領はきれいに折り畳まれた白いハンカチをポケットから取り出し、言いました。「これで拭きたまえ」

 しかし言うまでもなく、それだけの血をぬぐえる清潔なハンカチなど、この世界のどこを探してもありません。

 我々日本人は核に対する「ノー」を叫び続けるべきだった。それが僕の意見です。

 我々は技術力を結集し、持てる叡智を結集し、社会資本を注ぎ込み、原子力発電に代わる有効なエネルギー開発を、国家レベルで追求すべきだったのです。たとえ世界中が「原子力ほど効率の良いエネルギーはない。それを使わない日本人は馬鹿だ」とあざ笑ったとしても、我々は原爆体験によって植え付けられた、核に対するアレルギーを、妥協することなく持ち続けるべきだった。核を使わないエネルギーの開発を、日本の戦後の歩みの、中心命題に据えるべきだったのです。

 それは広島と長崎で亡くなった多くの犠牲者に対する、我々の集合的責任の取り方となったはずです。日本にはそのような骨太の倫理と規範が、そして社会的メッセージが必要だった。それは我々日本人が世界に真に貢献できる、大きな機会となったはずです。しかし急速な経済発展の途上で、「効率」という安易な基準に流され、その大事な道筋を我々は見失ってしまったのです。

 前にも述べましたように、いかに悲惨で深刻なものであれ、我々は自然災害の被害を乗り越えていくことができます。またそれを克服することによって、人の精神がより強く、深いものになる場合もあります。我々はなんとかそれをなし遂げるでしょう。

 壊れた道路や建物を再建するのは、それを専門とする人々の仕事になります。しかし損なわれた倫理や規範の再生を試みるとき、それは我々全員の仕事になります。我々は死者を悼み、災害に苦しむ人々を思いやり、彼らが受けた痛みや、負った傷を無駄にするまいという自然な気持ちから、その作業に取りかかります。それは素朴で黙々とした、忍耐を必要とする手仕事になるはずです。晴れた春の朝、ひとつの村の人々が揃って畑に出て、土地を耕し、種を蒔くように、みんなで力を合わせてその作業を進めなくてはなりません。

 

一人ひとりがそれぞれにできるかたちで、しかし心をひとつにして。

 その大がかりな集合作業には、言葉を専門とする我々=職業的作家たちが進んで関われる部分があるはずです。我々は新しい倫理や規範と、新しい言葉とを連結させなくてはなりません。そして生き生きとした新しい物語を、そこに芽生えさせ、立ち上げてなくてはなりません。それは我々が共有できる物語であるはずです。それは畑の種蒔き歌のように、人々を励ます律動を持つ物語であるはずです。我々はかつて、まさにそのようにして、戦争によって焦土と化した日本を再建してきました。その原点に、我々は再び立ち戻らなくてはならないでしょう。

 最初にも述べましたように、我々は「無常(mujo)」という移ろいゆく儚い世界に生きています。生まれた生命はただ移ろい、やがて例外なく滅びていきます。大きな自然の力の前では、人は無力です。そのような儚さの認識は、日本文化の基本的イデアのひとつになっています。しかしそれと同時に、滅びたものに対する敬意と、そのような危機に満ちた脆い世界にありながら、それでもなお生き生きと生き続けることへの静かな決意、そういった前向きの精神性も我々には具わっているはずです。

 僕の作品がカタルーニャの人々に評価され、このような立派な賞をいただけたことを、誇りに思います。我々は住んでいる場所も遠く離れていますし、話す言葉も違います。依って立つ文化も異なっています。しかしなおかつそれと同時に、我々は同じような問題を背負い、同じような悲しみと喜びを抱えた、世界市民同士でもあります。だからこそ、日本人の作家が書いた物語が何冊もカタルーニャ語に翻訳され、人々の手に取られることにもなるのです。僕はそのように、同じひとつの物語を皆さんと分かち合えることを嬉しく思います。夢を見ることは小説家の仕事です。しかし我々にとってより大事な仕事は、人々とその夢を分かち合うことです。その分かち合いの感覚なしに、小説家であることはできません。

 カタルーニャの人々がこれまでの歴史の中で、多くの苦難を乗り越え、ある時期には苛酷な目に遭いながらも、力強く生き続け、豊かな文化を護ってきたことを僕は知っています。我々のあいだには、分かち合えることがきっと数多くあるはずです。

 

日本で、このカタルーニャで、あなた方や私たちが等しく「非現実的な夢想家」になることができたら、そのような国境や文化を超えて開かれた「精神のコミュニティー」を形作ることができたら、どんなに素敵だろうと思います。それこそがこの近年、様々な深刻な災害や、悲惨きわまりないテロルを通過してきた我々の、再生への出発点になるのではないかと、僕は考えます。我々は夢を見ることを恐れてはなりません。そして我々の足取りを、「効率」や「便宜」という名前を持つ災厄の犬たちに追いつかせてはなりません。我々は力強い足取りで前に進んでいく「非現実的な夢想家」でなくてはならないのです

 

人はいつか死んで、消えていきます。しかしhumanityは残ります。それはいつまでも受け継がれていくものです。我々はまず、その力を信じるものでなくてはなりません。

 最後になりますが、今回の賞金は、地震の被害と、原子力発電所事故の被害にあった人々に、義援金として寄付させていただきたいと思います。そのような機会を与えてくださったカタルーニャの人々と、ジャナラリター・デ・カタルーニャのみなさんに深く感謝します。そして先日のロルカの地震の犠牲になられたみなさんにも、深い哀悼の意を表したいと思います。(バルセロナ共同)

 

 

3

 

僕がここで言いたいのは、爆撃直後の20万の死者だけではなく、生き残った人の多くがその後、放射能被曝の症状に苦しみながら、時間をかけて亡くなっていったということです。核爆弾がどれほど破壊的なものであり、放射能がこの世界に、人間の身に、どれほど深い傷跡を残すものかを、我々はそれらの人々の犠牲の上に学んだのです。

 戦後の日本の歩みには二つの大きな根幹がありました。ひとつは経済の復興であり、もうひとつは戦争行為の放棄です。どのようなことがあっても二度と武力を行使することはしない、経済的に豊かになること、そして平和を希求すること、その二つが日本という国家の新しい指針となりました。

 広島にある原爆死没者慰霊碑にはこのような言葉が刻まれています。

 「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませんから」

 素晴らしい言葉です。我々は被害者であると同時に、加害者でもある。そこにはそういう意味がこめられています。核という圧倒的な力の前では、我々は誰しも被害者であり、また加害者でもあるのです。その力の脅威にさらされているという点においては、我々はすべて被害者でありますし、その力を引き出したという点においては、またその力の行使を防げなかったという点においては、我々はすべて加害者でもあります

 

 そして原爆投下から66年が経過した今、福島第一発電所は、三カ月にわたって放射能をまき散らし、周辺の土壌や海や空気を汚染し続けています。それをいつどのようにして止められるのか、まだ誰にもわかっていません。これは我々日本人が歴史上体験する、二度目の大きな核の被害ですが、今回は誰かに爆弾を落とされたわけではありません。我々日本人自身がそのお膳立てをし、自らの手で過ちを犯し、我々自身の国土を損ない、我々自身の生活を破壊しているのです。

 何故そんなことになったのか?戦後長いあいだ我々が抱き続けてきた核に対する拒否感は、いったいどこに消えてしまったのでしょう?我々が一貫して求めていた平和で豊かな社会は、何によって損なわれ、歪められてしまったのでしょう?

 理由は簡単です。「効率」です。

 原子炉は効率が良い発電システムであると、電力会社は主張します。つまり利益が上がるシステムであるわけです。また日本政府は、とくにオイルショック以降、原油供給の安定性に疑問を持ち、原子力発電を国策として推し進めるようになりました。電力会社は膨大な金を宣伝費としてばらまき、メディアを買収し、原子力発電はどこまでも安全だという幻想を国民に植え付けてきました。

 そして気がついたときには、日本の発電量の約30パーセントが原子力発電によってまかなわれるようになっていました。国民がよく知らないうちに、地震の多い狭い島国の日本が、世界で三番目に原発の多い国になっていたのです。

 

 そうなるともうあと戻りはできません。既成事実がつくられてしまったわけです。原子力発電に危惧を抱く人々に対しては「じゃああなたは電気が足りなくてもいいんですね」という脅しのような質問が向けられます。国民の間にも「原発に頼るのも、まあ仕方ないか」という気分が広がります。高温多湿の日本で、夏場にエアコンが使えなくなるのは、ほとんど拷問に等しいからです。原発に疑問を呈する人々には、「非現実的な夢想家」というレッテルが貼られていきます。

 そのようにして我々はここにいます。効率的であったはずの原子炉は、今や地獄の蓋を開けてしまったかのような、無惨な状態に陥っています。それが現実です。

 原子力発電を推進する人々の主張した「現実を見なさい」という現実とは、実は現実でもなんでもなく、ただの表面的な「便宜」に過ぎなかった。それを彼らは「現実」という言葉に置き換え、論理をすり替えていたのです。

 

 

2

 どうしてか?

桜も蛍も紅葉も、ほんの僅かな時間のうちにその美しさを失ってしまうからです。我々はそのいっときの栄光を目撃するために、遠くまで足を運びます。そしてそれらがただ美しいばかりでなく、目の前で儚く散り、小さな灯りを失い、鮮やかな色を奪われていくことを確認し、むしろほっとするのです。美しさの盛りが通り過ぎ、消え失せていくことに、かえって安心を見出すのです。

 そのような精神性に、果たして自然災害が影響を及ぼしているかどうか、僕にはわかりません。しかし我々が次々に押し寄せる自然災害を乗り越え、ある意味では「仕方ないもの」として受け入れ、被害を集団的に克服するかたちで生き続けてきたのは確かなところです。あるいはその体験は、我々の美意識にも影響を及ぼしたかもしれません。

 今回の大地震で、ほぼすべての日本人は激しいショックを受けましたし、普段から地震に馴れている我々でさえ、その被害の規模の大きさに、今なおたじろいでいます。無力感を抱き、国家の将来に不安さえ感じています。

 でも結局のところ、我々は精神を再編成し、復興に向けて立ち上がっていくでしょう。それについて、僕はあまり心配してはいません。我々はそうやって長い歴史を生き抜いてきた民族なのです。いつまでもショックにへたりこんでいるわけにはいかない。壊れた家屋は建て直せますし、崩れた道路は修復できます。

 結局のところ、我々はこの地球という惑星に勝手に間借りしているわけです。どうかここに住んで下さいと地球に頼まれたわけじゃない。少し揺れたからといって、文句を言うこともできません。ときどき揺れるということが地球の属性のひとつなのだから。好むと好まざるとにかかわらず、そのような自然と共存していくしかありません。

 ここで僕が語りたいのは、建物や道路とは違って、簡単には修復できないものごとについてです。それはたとえば倫理であり、たとえば規範です。それらはかたちを持つ物体ではありません。いったん損なわれてしまえば、簡単に元通りにはできません。機械が用意され、人手が集まり、資材さえ揃えばすぐに拵えられる、というものではないからです。

 

 僕が語っているのは、具体的に言えば、福島の原子力発電所のことです。

 みなさんもおそらくご存じのように、福島で地震と津波の被害にあった六基の原子炉のうち、少なくとも三基は、修復されないまま、いまだに周辺に放射能を撒き散らしています。メルトダウンがあり、まわりの土壌は汚染され、おそらくはかなりの濃度の放射能を含んだ排水が、近海に流されています。風がそれを広範囲に運びます。

 十万に及ぶ数の人々が、原子力発電所の周辺地域から立ち退きを余儀なくされました。畑や牧場や工場や商店街や港湾は、無人のまま放棄されています。そこに住んでいた人々はもう二度と、その地に戻れないかもしれません。その被害は日本ばかりではなく、まことに申し訳ないのですが、近隣諸国に及ぶことにもなりそうです。

 なぜこのような悲惨な事態がもたらされたのか、その原因はほぼ明らかです。原子力発電所を建設した人々が、これほど大きな津波の到来を想定していなかったためです。何人かの専門家は、かつて同じ規模の大津波がこの地方を襲ったことを指摘し、安全基準の見直しを求めていたのですが、電力会社はそれを真剣には取り上げなかった。なぜなら、何百年かに一度あるかないかという大津波のために、大金を投資するのは、営利企業の歓迎するところではなかったからです。

 また原子力発電所の安全対策を厳しく管理するべき政府も、原子力政策を推し進めるために、その安全基準のレベルを下げていた節が見受けられます。

 我々はそのような事情を調査し、もし過ちがあったなら、明らかにしなくてはなりません。その過ちのために、少なくとも十万を超える数の人々が、土地を捨て、生活を変えることを余儀なくされたのです。我々は腹を立てなくてはならない。当然のことです。

 

日本人はなぜか、もともとあまり腹を立てない民族です。我慢することには長けているけれど、感情を爆発させるのはそれほど得意ではない。そういうところはあるいは、バルセロナ市民とは少し違っているかもしれません。でも今回は、さすがの日本国民も真剣に腹を立てることでしょう。

 しかしそれと同時に我々は、そのような歪んだ構造の存在をこれまで許してきた、あるいは黙認してきた我々自身をも、糾弾しなくてはならないでしょう。今回の事態は、我々の倫理や規範に深くかかわる問題であるからです。

 ご存じのように、我々日本人は歴史上唯一、核爆弾を投下された経験を持つ国民です。1945年8月、広島と長崎という二つの都市に、米軍の爆撃機によって原子爆弾が投下され、合わせて20万を超す人命が失われました。死者のほとんどが非武装の一般市民でした。しかしここでは、その是非を問うことはしません。

 

☆プリ☆彡さんのブログ一覧