NQNニューヨーク 森安圭一郎
20日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日ぶりに反落。ギリシャ国債の格下げを嫌気したほか、決算内容が低調だった小売株の一角が売られた。ダウ平均は週間ではほぼ横ばい。4月末に高値を付けた後は一進一退で、好悪の材料が混在する米景気の方向性を探る展開となっている。
「スプリング・セリング・シーズン」が盛り上がらない。米国の住宅販売の話だ。厳しい冬が終わり、建築現場のつち音とともにモデルハウスの来客も増える春季は、住宅業界の書き入れ時のはずだった。
ところが米商務省が今週発表した4月の住宅着工件数は季節調整済みの年換算で52万3000戸と前年同月比で23.9%の大幅減。建設中の物件数は統計開始以来の最低だ。4月の中古住宅販売件数も前年比12.9%減った。需要が供給に追いつかず、売れ残りの在庫は月間販売ペースの9.2倍に積み上がった。
米政府が住宅購入者への税優遇を打ち切ったのは1年前の4月末。金融危機後の緊急措置を解除しても、需要は自然と上向いてくるだろうというオバマ政権の読みは完全に外れた。各種の住宅統計は2009年前半に付けた危機後の最低水準を割り込む「二番底」が現実味を帯びている。
厳しい業界環境の背景にあるのは「差し押さえと高い失業率、住宅ローン貸し出し基準の厳格化だ」。住宅大手DRホートンのドナルド・ホートン会長は、営業赤字に転落した1~3月期決算の声明でこう指摘した。
中でも深刻なのが、差し押さえ住宅在庫のだぶつきだ。金融危機で銀行が差し押さえた大量の物件が格安で中古市場に出回り、住宅価格相場を押し下げる。「もっと安くなる」とみた消費者は買い控え、購入の意思がある人もローンの貸し渋りに遭う。価格はさらに下がるという悪循環だ。
安い中古住宅が増えると、新築物件への需要はしぼむ。バークレイズ・キャピタルによると、本来なら年間160万戸程度あるはずの米住宅着工が100万戸程度、削られている計算になるという。
業界団体、全米不動産協会(NAR)のロン・フィップス代表は返済能力のある人に融資しない金融機関の姿勢を批判するとともに「住宅ローンの頭金比率を20%に引き上げようとする規制強化の動きも住宅市場に急ブレーキをかけかねない」と警戒する。建設業者、銀行、政府が責任を押しつけ合う構図だが、互いにため息をつくばかりで解決策はいっこうに見えてこない。
住宅建設投資は米国内総生産(GDP)の2%強に過ぎないが、GDPの7割を占める個人消費への波及効果が大きい。
今週発表が相次いだ小売業の2~4月期決算。百貨店が好調だった一方で、日曜大工用品を扱うホームセンター大手のホーム・デポとロウズ、家電販売に強いシアーズ・ホールディングスは軒並み減収となった。いずれも住宅業界との連動性が高い。ロウズとシアーズの株価は年初来でともに2%安と相場の足を引っ張っている。
ブーム・バスト・アンド・ビヨンド(ブームと破裂、その先は)――。ある調査機関が6月上旬にニューヨークで開く住宅市場セミナーの題名だ。寝具や生活用品販売を手掛け、住宅関連の有力銘柄であるベッド・バス・アンド・ビヨンド社のもじりだと想像が付く関係者は多いだろう。ことほどさように株式市場への影響も大きい米住宅情勢。相場の波乱要因として再浮上するリスクは高まっている。