【書評】 『大和燃ゆ 上・下』八木荘司著

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■豊潤な古代史の世界味わう

 本書は『遥(はる)かなる大和』『青雲の大和』に続く、古代史3部作の完結編である。物語のメーンとなっているのは、白村江(はくすきのえ)の戦い。天智2(663)年、朝鮮半島の白村江で、大和・百済(くだら)連合軍と唐・新羅(しらぎ)連合軍が激突した海戦のことである。

 理想の国家を目指して中臣鎌足(なかとみのかまたり)と中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)が決起した、大化の改新から十数年後。朝鮮半島に手を伸ばす大国、唐の動きに危機感を抱く鎌足は、戦力の増強や情報収集を始めた。しかし友好国の百済が、唐に落とされてしまう。このまま半島が唐に支配されれば、次に狙われるのは大和だ。百済の残存勢力と連帯した鎌足たちは、中大兄皇子の弟の大海人皇子(おおあまのおうじ)を大将軍に起用し、国家を挙げての総力戦を決意した。未曽有の危機に、大勢の人々が、熱く立ち上がる。だが一方で、美貌(びぼう)の才媛(さいえん)・額田姫王(ぬかだのおおきみ)を利用した陰謀が進行。さまざまな問題を抱えながら鎌足たちは、唐との戦いに挑むのだった。

 本書だけでも物語を楽しめるが、できれば前2作を先に手に取ってほしい。なぜなら作者は白村江の戦いを、前2作で描いてきた、大化の改新を経て改革された国家の力を試す場としているからだ。十数年の歳月と、たくさんの人々の血を流した改革により、いかに国家が変わったのか。3部作の締め括(くく)りに、白村江の戦いを持ってきた理由は、ここにある。

また、3部作を通じて、国家と国家の関係は戦ではなく、友誼(ゆうぎ)によって築かれるべきだという主張がなされている。本書を読めば納得していただけるだろうが、白村江の戦いの全貌を、堂々と描き切った作者だからこそ、その主張は強い説得力を持つ。現代の日本でも有効なメッセージを、真摯(しんし)に受け止めたいものである。

 などと書くと堅苦しい内容に思われるかもしれないが、そんなことはない。白村江の戦いの迫力に興奮し、陰謀により引き裂かれた額田姫王と大海人皇子の切ない恋に涙する。エンターテインメントとしての面白さも抜群。豊潤な古代史の世界を、とことん味わうことができるのだ。
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