「花時(はなどき)」

昔、政権抗争に敗れ、都を追われて島流しとなった
順徳上皇は、紫色の可憐な花に大いに慰められたそう
です。4月頃から咲いている菊に似た小さなこの花は、
名を「都忘れ」といいます。

 神々がアフロディーテ(英名ヴィーナス)の誕生を
祝って創造した花、薔薇。その花も各地で芳香を漂わ
せ、初夏を華やかにしています。

 古代ローマ人は天井に薔薇を吊るし、その下での会
話は一切を秘密にするという習慣があり、「薔薇の下
で」と言うと「秘密にする」という意味が現在にも残
ります。欧米では宗教的、歴史的に特別な意味を持つ
薔薇の花は、数多くの映画で符号あるいは象徴として
登場します。

 また、各地で見頃を迎えつつあるポピーは、和名を
「ひなげし」といい、別名「虞美人草(ぐびじんそう)
」とも言います。「虞美人草」は女性の悲劇を描いた
夏目漱石の小説のタイトルでもありますが、古代中国
で項羽が劉邦との最後の戦い(垓下の戦い)に破れ、
項羽の愛姫であり絶世の美女であった虞姫が自刃し血
を流した場所に咲いた花と伝えられています。

 川端康成は「別れる男に、花の名を1つ教えておき
なさい。花は毎年必ず咲きます」との言葉を残しまし
た。たしかに花は様々なことを思い出させてくれます。

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