証券取引等監視委員会のサイトから
NO3「証券不公正取引の傾向:その2 インサイダー取引の増加等」
前回紹介した不公正ファイナンスの問題と並んで顕著な問題として、今回はまず、インサイダー取引の増加について紹介したい。
インサイダー取引は、証券不公正取引の中で最もポピュラーな問題であり、摘発される件数もこの数年で増加している。特に、2005年に導入された課徴金制度が本格的に運用されるにつれ課徴金納付勧告の対象となるインサイダー取引の件数の増加が顕著である。
17事務年度(課徴金納付勧告9件,告発:5件,合計:14件)
18事務年度(課徴金納付勧告9件,告発:9件,合計:18件)
19事務年度(課徴金納付勧告21件,告発2件,合計23件)
20事務年度(課徴金納付勧告18件,告発7件,合計25件)
H21.7-12(課徴金納付勧告20件,告発4件,合計24件)
典型的なインサイダー取引は、重要事実の当事者である会社の役員、従業員などによるものであり、このタイプのインサイダー取引は依然として後を絶たない。中には、取締役等による業務の適切な執行を監視する立場にある監査役によるインサイダー取引もある。インサイダー取引に関する上場企業の意識がかつてに比べると高くなってきたとはいえ、企業による情報管理態勢、インサイダー防止態勢の上でまだ課題がある。
しかし会社の役職員によるインサイダー取引以上に顕著なのが、上場企業と業務上の契約を締結している関係者(契約締結者)によるものである。
この数年でも、上場企業の監査をする公認会計士、広告を受注する印刷会社、due diligenceを行う業者等によるインサイダー取引が摘発されている。会社の内部者情報にアクセスできる特別な立場にあることを悪用したものとして、インサイダー取引規制の観点から問題であることは当然として、近年社会的にも認識が高くなっている適切な情報管理・使用の観点からも問題がある。
さらに、インサイダー取引のために利用された情報、重要事実として、株式公開買付(TOB)に関連するものが多く、摘発されるインサイダー取引の過半数以上がTOB関連のものである。
その背景として、近年の経済環境を反映して企業再編に絡むTOBの件数が増加していること、TOBの対象会社の株式には通常プレミアムがつくためTOBの公表前に当該株式を買っておけば確実に儲かることがあげられる。TOBに関与する関係者が他の重要事実の場合に比べ多数に上ることも重要な要因である。
買付企業、対象企業の役職員のみならず、多くの場合投資銀行や証券会社が務めるFinancial Advisor (FA)、法律事務所、税理士、監査法人、due diligenceの業者、印刷会社等関与する関係者は数十人から100人以上の規模になることも少なくない。
また、インサイダー取引に限らず、不公正取引一般の傾向として、パソコンや携帯電話によるネット取引が多くの場合利用されていることもここ数年の傾向である。ネット取引では証券会社と非対面で取引を行えることから、不公正取引を行うことの罪の意識が希薄であることがその理由と考えられる。
さらに、海外の証券口座からの注文や、海外SPCやプライベートバンク口座名での証券取引、海外籍のヘッジファンドや機関投資家等が関係するクロスボーダー取引が、不公正取引に利用されることもきわめて多くなってきている。外為法の撤廃を含めた規制緩和、IT技術の発達により、日本の市場での不公正取引の当事者が日本国外にいるケース、あるいは日本国内居住者であるにもかかわらず外国人の投資家のような外観で取引を行うケース(いわゆる「黒目の外人」)が非常に増加している。
金融技術の発達により、不公正取引に利用される商品、取引形態・手法も、例えばderivative等の複雑な商品、Direct Market Access (DMA)等の高度な手法が珍しくなくなっている。
上記のような不公正取引の傾向に適切に対応し監視を行うために、証券取引等監視委員会としては、人材、ITシステム等のインフラ、ノウハウ等の面で、日々時代の最先端を目指して努力しているところであるが、その点の詳細については、別の機会に譲りたい。
(文中、意見にかかわる部分は筆者の個人的見解である。)
・筆者紹介 佐々木 清隆
東京都出身。1983年東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)等海外勤務を経て、2005年証券取引等監視委員会事務局特別調査課長。2007年7月より同委員会事務局総務課長。)
私見ですが、プロの仕手が仕込む場合は目立たないように行動し材料が出ると一気に走りますが、素人が仕込む場合は「がっついて」いて不自然な仕込みをしてしまう傾向があるように思います。