高級魚のトラフグを温泉水で養殖する試みが、栃木県那珂川町で進められている。同町でわき出る温泉が、海水魚の養殖に適していることに着目した。11年度の商品化を目指しており、海のない栃木がフグ産地として知られるようになる日も近い?
県北東部の那珂川町は、アユの漁獲量日本一の那珂川が東西に流れ、人口は約1万9000人。同町で水質や土壌を調べる会社を経営する野口勝明さん(53)は、温泉水の分析を手掛けるうち、含有している塩分濃度に着目した。温泉水の濃度は1.2%で「生理食塩水とほぼ同じ濃度で養殖に適している」と話す。海水魚の養殖に適していると判断し、「高級で利益が出そう」なトラフグ養殖を思いついた。
08年11月、県水産試験場や宇都宮大農学部の技術支援を受け、地元企業などと共同で「那珂川町里山温泉トラフグ研究会」を結成。廃校になった小学校の教室内に養殖用プール(直径4メートル、深さ1メートル)を五つ造り、地元からわき出た温泉水をトラックで運び入れ、1200匹ほど試験飼育している。
温泉水を使った養殖の最大の利点は生育が早いこと。通常、海上養殖は出荷まで1年半かかるとされる。しかし、温泉養殖は1年程度で出荷できるという。年間を通じ水温を23~24度に保てるため、水温低下に伴う冬場の食欲の落ち込みを防げることなどが主な理由だ。
肝心の味はどうか。塩分濃度が3.6%程度の海水養殖に比べ、塩分濃度が低い温泉水で養殖したフグは肉が軟らかいのが難点だった。このため、海水で一定時間泳がせるなど試行錯誤を続け、徐々に改善されているという。早くも千葉県内の料理店など首都圏を中心に問い合わせが10件ほど寄せられている。
11年度中には町内に加工場を備えた養殖施設の建設を考えており、1万匹(約10トン)の出荷が目標という。野口さんは「来年は寅(とら)年なので、それにあやかってもっとPRしたい。将来的には『栃木と言えば、トラフグ』と言われるようになりたい」と話している
毎日新聞