「地政学上の理由から、基地は沖縄になければならない」と「解説」する人が
よくいるが、間違いである。米軍の現在の技術力からすれば、中国を仮想敵と
みなす場合でも、沖縄に必要なのは、有事の際に使える港と滑走路だけであり、
軍隊が常駐している必要はない(実際、米軍は冷戦後、沖縄本島より下地島の
空港を有事利用したがった)。米国はここ数年、中国を戦略的パートナーと
みなす傾向を強め、日本以上に中国を重視している。日本も、中国との東アジ
ア共同体を作る方向に進んでいる。もはや中国は日米の敵ではない。これは地
政学的な大転換であるが、米軍の沖縄駐留は必須だという人ほど、この地政学
的な変動を全くふまえずに(意識的に無視して)語っている。茶番である。
http://tanakanews.com/b0605okinawa.htm
アメリカのアジア支配と沖縄
▼米軍買収策第2弾としてのSACO
世界各国の政府の中には、米軍の駐留費を負担するどころか、逆に米軍から
空港使用料を徴集している国もある。以前に沖縄選出の議員が国会で質問した、
中央アジアのキルギスタン政府が同国駐留米軍基地の「空港使用料」を引き上
げた話が象徴的だ。対照的に日本は、米軍に対して巨額の金を払って、わざわ
ざ日本に駐留してもらっている。キルギス政府は「米軍を駐留させてやってい
る」という態度だが、日本は「米軍に駐留していただいている」という態度で
ある。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a164281.htm
米軍基地使用料に関する質問主意書 照屋寛徳
世界の中にはフィリピンのように、議会の決議で駐留米軍に出ていってもら
ったところがいくつもある。フィリピンは日本より米国への依存が強いにもか
かわらず、米軍を基地から追い出した。しかも、米軍を追い出した後も、米国
とフィリピンの関係は大して悪くなっていない。普天間の基地問題を解決する
には、第3海兵遠征軍を日本国外(米本土)に移すよう、日本の国会で決議す
れば良いだけである。フィリピンの前例を考えれば、海兵隊に出ていってもら
っても、日米関係はさほど悪化しない。
▼官僚支配を終わらせる日米関係の改定
8月末の総選挙で、日本の政権が自民党から民主党に代わった。民主党政権
は、鳩山首相がオバマ大統領の来日に際して何度も「日米同盟は日本にとって
最重要」と繰り返し、黒幕の小沢一郎は、元大蔵省次官の斎藤次郎を日本郵政
の社長に据え、財務省人脈を重用している。これらのことからは、民主党政権
も自民党と同様に、対米従属と官僚支配の構図を変えるつもりがないかのよう
に見える。
しかし、これらはおそらく上っ面の化粧である。鳩山が「日米同盟重視」を
ことさら繰り返すのは、対米従属プロパガンダ機構と化しているマスコミから
の攻撃を抑えるためだろう。小沢が財務省人脈を重用するのは、官僚機構の資
金関係の諸権限を財務省に集中させ、小沢自身が財務省上層部を握ることで、
小沢がかねてからやりたかったことをやるための布石だろう。
小沢は何をしたいのか。私が見るところでは、恩師だった田中角栄を殺した
官僚支配に対する仇討ちとしての、官僚機構からの権力剥奪である。個人的な
恨みもあるだろうが、それよりも、官僚機構が田中角栄を殺して自民党を恫喝
し、対米従属戦略を通じた官僚支配を確立した構造を解体し、日本を官僚主導
から政治主導に戻そうとしているのだと考えられる。官僚は選挙で選ばれてい
ないが、政治家は選挙で選ばれるので、官僚支配を破壊して日本を政治主導に
戻すことは、日本の民主主義を取り戻すことでもある。
鳩山政権が掲げているのは「対等な日米関係」「(日中を主軸とする)東ア
ジア共同体」「普天間基地問題は沖縄県民の意志を尊重して決める(すでに県
民の総意は県外国外移転で固まっている)」「日米地位協定も見直す」「日本
への米軍の核兵器持ち込みについて調査して発表する」「官僚支配を終わらせ
る」などだ。これら全体を見ると、鳩山政権は対米従属(日本が米国より弱い
立場にある日米関係)をやめようとしている観が強い。対米従属の象徴は、不
平等な地位協定を含む日米安保条約である。鳩山は、日米安保体制を壊そうと
しているという指摘が、すでに米国側から出ている。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/eo20091111a1.html
A good time to remember the ANZUS alliance's fate
日本が対米従属をやめて、日米安保体制も事実上破棄すると、米国の威を借
りて日本を支配していた官僚機構の権力が失われてしまう。だから、外務省な
どはプロパガンダ機能を全開し、マスコミは「オバマは素晴らしいが鳩山はダ
メだ」といった論調を展開し、鳩山政権を引きずり下ろそうとしている。
これに対する鳩山政権の対抗策は「基地は要らない」とはっきり言い始めた
沖縄県民の盛り上がりが本土に飛び火するのを待つことだ。だから鳩山は「普
天間問題の解決には時間がかかる」と言いつつ、のらりくらりしている。これ
は、単なる私の推測ではない。東京の民主党本部が、沖縄県民に立ち上がって
ほしいと思っているというメッセージが沖縄の側に伝えられてきたという話を、
私は今回の沖縄で聞いた。
http://tanakanews.com/091104okinawa.htm
沖縄から覚醒する日本
普天間問題が解決しないまま時間がたつほど、この問題は「沖縄の問題」か
ら「日本の問題」へと発展し、本土を巻き込んだ議論になる。マスコミも官僚
の傀儡から脱しうる。マスコミは、時間稼ぎをする鳩山を非難しているが、こ
れはマスコミが官僚傘下にあることを示す好例だ。本来は「良い機会だからじ
っくり在日米軍のことを議論しよう」という論調がマスコミに広がっても不思
議ではないが、そんなことにならないのは、マスコミがプロパガンダマシンと
化しているからだ。のらりくらりと揺れる鳩山政権は支持率が下がるだろうが、
自民党はひどく壊滅してしばらく復活しそうもないので、支持率が下がって
も政権の再交代にはならない。
鳩山政権の思惑どおり、普天間の移設問題の議論はまだまだ続くだろう。そ
のうちに、日米関係そのものが再検討されていくことになりうる。米オバマ政
権は隠れ多極主義なので、日本の自立とアジア協調策を歓迎している。日本が
不平等な日米同盟を解消できれば、従来より対等な日米の協調関係が結べるだ
ろう(縛りのある「同盟」にはならない)。来年にかけてドルの崩壊感が強ま
りそうなので、政治と経済の両面で、日本の国家戦略が問い直されていきそう
だ。日本の国内情勢を分析することが、国際情勢分析の大事な一つの柱になっ
てきた。