「ドル安vs円安」で米金利に注目
Posted by 吉田 恒 2009年10月19日 10:37
ドルは対ユーロなどで年初来の安値を更新している。一方円も、対豪ドルなどで年初来の安値更新となっている。ドル円は、ある意味ではそんな「ドル安vs円安」の綱引きになっているともいえるだろう。この綱引きにおいて、「ドル安」に軍配が上がれば、対円でもドルは年初来安値87円台を割り込むことになる。そうではなく、「円安」に軍配が上がるなら、8月上旬の97円台から続いてきたドル安・円高がいったんドル高・円安へ戻ることになる。どちらのシナリオになるか、最近にかけての米金利反発が一段と広がるかが一つの鍵を握りそうだ。
「下がり過ぎ」修正の米金利=ドルの行方でも鍵握る
9月に入ってから、ドルは90円を割り込み、ドル安・円高が広がった。例年、9月の動きは、秋相場を先取りしていることが多い。その意味では、これは年末にかけて一段とドル安・円高が進む前兆の可能性が高いと考えられる。
それでなくても、ドルは全体的に下落傾向が続いており、対ユーロなどでは年初来の安値を更新。総合力を示す実効相場も年初来安値を更新し、2008年3月に記録した史上最安値にさえ肉迫してきた。このような全体的なドル安の流れに含まれる形で、対円でもドルは一気に年初来安値更新となってもおかしくない。
ただ一方で、円もドル以外の通貨に対しては決して強くない。むしろ対豪ドルなどでは、円も年初来安値更新となっている。このような「ドル安vs円安」の綱引きの結果、9月以降一段と広がってきたドル安・円高も足踏みに入ったといった言い方も可能かもしれない。
そもそも、8月上旬から続いてきた円高・ドル安は、すでに40営業日を大きく過ぎ、経験的には「制限時間オーバー」で一段落する局面といえる。その中で、CFTC(米商品先物取引委員会)統計などによると、円は「買われ過ぎ」気味になっており、その修正で円売りが入ってもおかしくない状況にあることも確かだ。
このように見てくると、大きな流れは円高・ドル安の中にあるとして、そのまま目先もドル一段安で年初来の対円安値を一気に更新していくか、それともいったん調整で円安・ドル高への揺り戻しが大きく入るのか、どちらに転んでも不思議ない微妙な状況にあるといえそうだ。
こういった中で、ドル円との相関性が高い米金利の動きは一つの手掛かりになるのではないか。一時3.1%台まで低下した米長期金利は、その後3.4%を越えて反発してきた。この裏には、この間の米長期金利が短期下がり過ぎの状況にあり、その反動が入ったということがあるだろう。
それでは、米長期金利がもう下がらず、むしろさらに一段と上昇するようなら、それと相関性の高いドル円は円安・ドル高への揺り戻しを広げる可能性が高まるだろう。また、必ずしも相関性が高いわけではないが、米金利がさらに上昇するかは、対ユーロや実効相場のドル安に歯止めがかかる可能性を考える上でも鍵を握りそうだ。
「謎の米金利低下」は終わったのか
Posted by 吉田 恒 2009年10月15日 12:10
CFTC統計によると、投機筋の米10年債ポジションは、5月下旬に18万枚もの大幅ショート(売り持ち)になっていたのが、最近は1万枚のショートに急縮小した。5月下旬の米国債格下げ思惑で「米国債売り」を仕掛けた投機筋が、その後は一転買い戻しを最近にかけて展開してきたことをうかがわせる結果といえるだろう。
投機筋の米国債買い戻し一巡
ところで、そういった中で米10年債利回り(長期金利)も低下傾向が続いてきた。米10年債利回りの90日移動平均線からのかい離率は、6月初めにはプラス30%にも拡大し、短期上がり過ぎとなっていた。ところが、その後プラスかい離率は縮小、さらに8月後半からは一転して90日線を下回り、マイナスかい離率は10月初めには10%まで拡大した。
こんなふうに見ると、米国債格下げ思惑が広がる中で、5月末・6月初めにかけて投機筋が米国債の「売られ過ぎ」拡大に動く中で、異常な短期上がり過ぎになっていた米長期金利が、その後は投機筋が米国債の「売られ過ぎ」見直しに動く中で、最近は一転米長期金利「下がり過ぎ」になっていたということだろう。
ところで、投機筋の米国債「売られ過ぎ」は修正が一巡、米国債への投機筋のポジションはほぼニュートラルに戻ったようだ。ここから一転して投機筋が米国債の「買われ過ぎ」拡大に向かうようなら、投機筋の米国債買いはさらに続くことになるが、果たしてどうだろうか。
巨額の米財政赤字の中で、需給懸念がくすぶる米国債の利回り低下がこの数ヶ月続いてきたことはちょっとした「謎」だったが、それがこれまで見てきたように「売られ過ぎ」の反動に伴う米国債買い戻しだと考えれば納得できるところではある。それからさらに、財政赤字にもかかわらず、米国債買いのリスクをとりにいくかといえば、それは微妙ではないか。
そもそも、米国債利回り、長期金利も最近にかけて「下がり過ぎ」になっていたことを考えると、米国債買い、米金利低下の「謎」は終わった可能性があるのではないか。
米金利、短期下がり過ぎの修正
上述のように、米長期金利は、短期の行き過ぎをチェックする90日移動平均線からのかい離率が、10月初めにかけて一時マイナス10%まで拡大した。90日線からのかい離率が±10%を越えるのは、基本的に行き過ぎを示しているから、これは米長期金利が短期下がり過ぎになっている可能性をうかがわせた。
ところで、問題なのは、経験的に見ると短期の行き過ぎは中長期トレンドに原則的に逆行しないということ。米長期金利は、今年初めの2%で中長期の大底打ち、上昇トレンドに転換した可能性が高いと考えられたため、そうであれば、それと逆行する短期下がり過ぎ、つまり90日線からのかい離率がマイナス10%を大きく越えていく可能性は低いはずだった。
先週、主要国の中で豪州が最初の利上げに動き、さらにバーナンキFRB議長の「利上げ発言」などをきっかけに、米長期金利は上述のように急上昇となったが、これによりこの間の米長期金利が短期下がり過ぎの状況にあった可能性が再確認されたといえるのではないか。そうであれば、米長期金利は目先3.2%を下回る可能性は低いだろう。
今回、「100年に一度の危機」一服後の株高でも米金利の低下傾向が続いてきたことを、米銀などの債券シフトの影響によるもので、2003年の日本でみられたことに似ているとして、「日本化現象」との指摘もあった。ただこの2003年の日本の長期金利も、短期下がり過ぎ一巡後は急反騰に転じた。その意味では、米長期金利が、90日線の3.5%を上回っていく可能性も注目されるのではないか。