ちょいかぶおやじさんのブログ
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投資の中長期テーマに関するつぶやき③
前回はファンダメンタル環境に関する中長期テーマを考えましたので、今回は資本市場を巡る中長期テーマについて書いてみます。
2つの問題をずっと考えていますが、なかなか整理がつきません。生煮えですが、思いつくことを綴ります。ロジックの穴や現実認識の誤り、お助け情報など、ご指摘ご提供いただければ幸いです。
①高齢化は投資行動にどのような変化をもたらすか?
高齢者といっても、団塊の世代の大量退職あるいはセミ・リタイアは資本市場における需要サイドにどのようなインパクトを与えるのでしょうか。
高齢者にとっての不安は、年金問題で象徴されるように、会社からの一定収入が途絶える一方で、自分がいつまで生きるのか、わからない。ひょっとすると、結構元気で長生きするかも、と考えていると思われます。そうなると、健康のことも気になりますが、やはり、生活、カネ回りのことが気になるはずです。平日の昼間、会社に行かず、家にいることが多くなると思いますが、そうなると、平日昼間はアクティブ・シニアのデイ・トレーダーが活躍することになるのでしょうか。
そういう人々もいると思いますが、基本は、あまりリスクの高くない、債券投資に向かうはずですが、今のような低金利では、よほどの金融資産を持っていないと、低金利の債券投資(ましてや銀行預金などは話にならない)では、退職後の生活を充実したものにするための資金フローを確保することは到底できないということになります。
65歳までは、少なくともセミ・リタイアで、それなりの稼ぎを得ることはできるかもしれません。こうした人々は、おそらく、債券投資よりももう少しリスクも高いがリターンも高くなる可能性のあるものに投資することになると思われます。株式投資ですと、高配当の大型株を中心に投資をすることになるではないでしょうか。大型株の方が、中小型株よりも安定性もあり、開示情報に関しても信頼が置けます。流動性も心配ありません機関投資家の多くは、最低500億円以上、望ましい水準としては1,000億円以上の時価総額の会社の株式を投資対象としていますので、こうした会社の株式の株価形成は、他の中小型の株式に比べて適正である(適正とは本来の価値に基づいて価格形成が行われるという意味)可能性が高いと考えられているとも思われます(本当にそうか、疑問がないわけではありませんが、・・・・・)。
毎日の株価形成に関する情報を持たない個々のアクティブ・シニアたちは、「良い会社の株式を安い時に買って、途中に株価の乱高下があっても気にせず、長期的に保有して、株式市場がいずれその会社の良さに気づくのを待って、売却する」という長期投資というアプローチをなかなか採用できないと思われます。米国の金融経済学者のジェレミー・シーゲル教授の研究でも、長期で持てば、株式投資は債券投資よりも高いリターンをもたらし、しかも、インフレを調整すれば、リスクも債券投資よりも低くなる、ということです。しかし、アクティブ・シニアは、それほど長期間の投資・運用ができるのでしょうか。
単純な債券投資は好ましくない。かといって、株式投資もいまひとつ魅力的ではないし、リスクが高い。こんな感覚を多くのアクティブ・シニアが持っているのではないでしょうか。
ということで、投資信託ということになるわけですが、債券中心であれ、株式中心であれ、バランス型であれ、いまいちのリターン(しかも、アクティブ・シニアの場合、長期運用ができない可能性が高いので、長期運用に基づいてこそ高いリターンが期待できないという点も無視できないでしょう)に加えて、高い管理手数料を支払わされるので、多くの投資信託は魅力的とは思われません。
②投資ファンドの台頭は何を意味するのか?
そこで登場するのが、投資ファンドです。プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)と呼ばれるものです。
PEファンドとは、1980年代には存在すらしていませんでした。①起業・事業支援(ベンチャー・キャピタル)、②企業買収・再生・再公開(バイアウト・ファンド)、がPEファンドと呼ばれているものです。これらに、③ヘッジ・ファンド(買いと売りの両方のポジションを持つことによってリスクとリターンをマネージしながらリターンを上げるファンド)、④アクティビスト・ファンド(少数持分株式を買い取り、積極的に経営に関わることによって投資先企業の価値を向上させることを狙う投資ファンド)、などを加えて、PEファンドと呼んでも良いかもしれません。なぜなら、狭義のPEファンドも実際には③と④の投資活動を実施しているからです。
いずれにしても、狭義のPEファンドだけでも、米国を中心とするPEファンドの調達資金総額は、2006年だけでも1,315億ドルにも及んでいます。2006年末の大手PEファンド10社を合計しただけでも、総額7,154億ドルの資産規模を有しています。更に、これらの投資ファンドの運用会社が近年どんどん株式市場に上場しています。さらに、企業買収を目的とした「特定目的買収会社」(Special Purpose Acquisition Companies: SPACs)の上場も2003年以降活発化しています。SPACsは、会社発起人(スポンサー)がSECに会社登録し、IPO(株式公開)を行います。18~24ヶ月間の猶予期間中に買収対象企業を選定し、買収を行う、というものです。買収の際には、株主の80%の賛同が必要となっているようです。買収が猶予期間中に成立しない場合には、SPACsは解散され、IPO時に得た資金は、上場手数料などを差し引いた分が株主に戻される、というものです。
それにしても、PEファンドは本当に高い投資リターンを上げているのでしょうか?
米国の研究では、PEファンド全体の平均投資リターンは、市場全体を若干下回る水準に留まっているようです。欧州のPEファンドの収益率は、中間値で0.3%、上位平均値で29.1%、下位平均値で17%のマイナス、という結果が報告されています。大手PEファンドのリターンは高いことが、PEファンドへの注目の理由なのでしょう。(このあたりのPEに関する情報に関しては、以下を参照してください。
http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2007/pdf/cs20070802.pdf )
上場できるPEファンドは投資実績のある大手ばかりですし、SPACsのリターンの可能性に比べてリスクは限定されますので、やはり、上場PEファンドや上場SPACsは、アクティブ・シニアには非常に魅力的な投資対象なのではないでしょうか。長期運用をせずに、高いリターンを得られる可能性のある投資先なのです。それなりに高いリターンが得られる可能性のある通常の投資信託、特に株式中心の投資信託がその仕事を果たすためには、それなりの運用期間が必要なのです。
ということは、団塊の世代の高齢化が株式投資の短期化につながっている、ということになります。団塊の世代は、自分が働けなくなった分、持っているおカネに働いてもらわなければならないのです。短期的に運用成績を求める傾向が強くなるのは当然なのかもしれません。こうしたニーズに対応して、投資信託の運用の短期志向が強まったのではないでしょうか。短期志向の強い株式投資は、投資先企業の長期的・潜在成長力や収益力を評価しませんので、市場で形成される株価は本来の企業価値よりもかなり低い水準に放置される可能性が高まるのでないでしょうか。こうした株価と本来価値とのギャップが構造的に生じてきているところに、PEファンドが台頭し、上場PEや上場SPACsが盛行し始めている、ということなのではないでしょうか。
そして、上場PEファンドの巨大化が進み、上場PEファンド自体が他のPEファンドのポートフォリオを構築・運用していくことになるのではないでしょうか。そして、そうした上場PEファンドの評価は非常に単純で、投資利回り・配当率だけということになり、アクティブ・シニアという個人投資家にとっては極めて魅力的な投資対象となるのです。
しかし、問題は、そうした上場PEや上場SPACsが日本の株式市場には存在しない、ということです。日本の個人投資家は、これらの上場PEなどに投資しようとしたら、為替リスクを負うか、外貨ベースの生活を行うために海外に一定期間少なくとも移住しなければならない、ということでしょいうか。
ホリエモンや村上ファンドなどから投資ファンドは金儲けの巣窟のように捉えられ、投資ファンドを毛嫌いする傾向が日本にありますが、日本の高齢化を考えれば、高齢化時代とは「おカネに働いてもらう時代」ですので、投資ファンドの育成は日本にとって必要不可欠な問題だと思うのです。年金問題の解決も投資リターンの問題に深く関係します。東大総長の最近に本のタイトルにあるように、人口減少、高齢化、信号機や道路など社会インフラのリノベーション・ニーズの高まり、環境問題、エネルギー問題、食糧問題など、日本は社会的「課題先進国」ですが、日本がこうした課題先進国から課題解決先進国になるためには、日本に社会全体のリスク負担能力を高め、様々な課題解決に向けて様々なリスクの高い投資や事業創出が行われなければなりません。高齢化はリスク負担力の低下を意味しますし、最近のニートや正規雇用者減の動きなども、社会全体のリスク負担力・チャレンジ力の低下を示唆します。
それにしても、何故、大手のPEファンドは高い投資リターンを上げられるのでしょうか?
単に、株式市場あるいは公開・未公開、株式・債券などを含む広義の資本市場における価格形成上の誤り(ミスプライシング)が大きいことをうまく利用してリターンを達成しているのであれば、PEブームも一過性といえるかもしれません。株価形成が許せる範囲で適正に行われているのであれば、株式投資リターンは長期運用の必要はないはずです。シーゲル教授の研究結果は、どうも適正な株価形成が短期的にはされていない、適正な株価形成が行われるためには、悲観と楽観のサイクルを何度か(その中にはバブルがあるかもしれません)経た後で初めて実現する、ということを意味しているのでしょうか。だとすると、株式市場のミスプライシング以外に、PEファンドの高いリターンの源泉があれば、PEファンドの存在は肯定されなければならないと思います。PEファンド、特に大手PEファンドの高リターンの秘密をを吟味せずに、PEファンドの賛否は論じられないと思います。
・・・と、ここまで考えながら論点を書いていったら、かなりの長文になってしまいました。一度に読むには長すぎると思われますので、とりあえず、ここでやめます。次回のテーマは、大手PEファンドの高リターンの秘密、ということですが、本当にそんなことがわかるのか、・・・・。
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