(前回より)
そして、彼女が来なくなったので、部屋の掃除も、いい加減になり、ごみも、次第に溜まってゆきました。
そう、それでは。それは、ある夏の日の夜のことでした。夜と言っても、丑三つ時の深夜です。蒸し暑い日でした。この蒸し暑さは、最近の夏は、毎年続き、クーラーをつけても、寝苦しい日々が、毎日でした。そこに戻りましょう。
その日も、蒸し暑く、寝苦しい日でした。ビールを飲んで、寝ましたが、かえって暑くて、寝苦しかった日です。その日は私の他は、借家人は誰も、いない日でした。皆、お盆で故郷へ帰っていったのです。
夕方には雷が鳴り、蒸し暑かったです。ふっと、夜中に目が覚めました。何故か、寝苦しかったのと、いやな予感がしたのです。雨音は止んでました。
かすかに、一番遠くのドアのきしむ音がしました。はてな、今日は誰もいない日なのに、どうしたのかな。こそドロか。あるいは、もう誰か帰ってきたのかな。
その時、聞き覚えのある声が、聞こえました。かすかな声ですが。
「いなーい。」
その声を聴いて、はっとしました。まぎれもない彼女の声です。空耳かと思っていると。
また、ドアの開く音。そして「いなーい。」
間違いありません。彼女です。
そして、また次のドア。「いなーい。」
次第に、近ずいてきます。
そして、隣の部屋です。「いなーい。」
わたしを、・・・。そして、どういう訳だ。身体が、動かない。全く動かない。
次は、私の部屋かと思っていると、鍵をかけたはずのドアの開く音がしました。
「ぎー ― ― 。」
(続く)