日本が加わる極東ロシアの石油開発事業を巡り、商社と日本政府が
事業継続で協調する。商社は3月上旬から水面下で政府に権益維持の利点
を主張。岸田文雄首相は3月31日の衆院本会議で
「撤退はしない方針だ」と明言した。エネルギー安全保障を重視し、
撤退を決めた米英とは一線を画すと内外に打ち出した。
日本が極東で権益を持つのは「サハリン1」「サハリン2」。
いずれも原油や液化天然ガス(LNG)の対日輸出拠点だ。
サハリン1には経済産業省のほか伊藤忠商事、丸紅など、サハリン2には
三井物産と三菱商事がそれぞれ出資する。2月28日には英シェルが
サハリン2から、3月1日には米エクソンモービルがサハリン1から撤退を
決めた。
米英企業の撤退直後から商社は政府との協議を始めた。
「撤退すれば国民負担が兆円単位で増える」
「撤退後に中国勢が権益を取りに来る可能性がある」。
]商社側は撤退リスクの大きさを説いた。
政府も撤退リスクと国際協調を崩すリスクの双方を考慮して
慎重に検討を進めた。そして最終的に「日本にとってエネルギーの
安定供給の生命線だという共通理解を得た」(政府関係者)。
1日には萩生田光一経済産業相が記者会見で、サハリン1、2、
三井物産などが参画する北極圏のアークティックLNG2についても
「撤退しない方針だ」と明かした。
日本は20年にLNG輸入量の8・2%、原油の4・1%をロシアから
輸入した。LNGはサハリン2でロシアからの輸入のほぼ全量を賄う。
原油はサハリン1と2でロシア産の約半分を占める。
LNGの場合、サハリン2の調達費はスポット(随時契約)
価格の数分の一。仮に撤退すれば、ただでさえ上昇基調の電気やガスの
価格がさらに高騰するのは避けられない。首相や経産相の発言の裏には、
国民生活への影響の考慮も透ける。
懸念は残る。ロシアのプーチン大統領は3月31日、米欧日など
「非友好国」の企業がロシア産天然ガスを購入する場合にルーブルでの
支払いを義務付ける大統領令に署名した。首相は1日の参院本会議で
ルーブルでの支払いを拒否する方針を表明。今のところサハリン2の
決済に影響はないが対ロ制裁が強まれば対日輸出にも響きかねない。
ロシアのウクライナ侵攻に解決の兆しが見えないなか、対ロ事業を
続けるリスクは日に日に強まる。経産省はロシア依存低減のため、
エネルギーや希少金属の安定供給の方法を検討する新組織を設けた。
国際協調の枠組みをさらに固めるためにも、代替調達先の確保は欠かせない。