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―純国産のベースロード電源、エネルギーの多段階利用で地方創生にも貢献―
日本における 地熱発電開発が大きな転換点を迎えようとしている。11月19日付の読売新聞朝刊は「経済産業省は、再生可能エネルギーの拡大に向け、国内資源が豊富な地熱発電の開発を促す新たな支援に乗り出す」と報じた。地熱発電の開発では、多額の調査費用や地元との調整の難しさがネックとなっているが、記事によると政府系のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が初期調査を手掛けるほか、地元との協議も政府主導で行い、商用化の見通しが立つと判断すれば、事業者を公募するという。新たな支援策で地熱発電の開発が進めば、関連ビジネスへの恩恵も大きいだろう。
●ポテンシャルは世界3位
地熱発電はマグマで熱せられた高温の熱水や蒸気を用いる発電方法のこと。日本は世界有数の火山国であり、地熱発電の潜在的な発電能力は原子力発電所約23基分にあたる約2350万キロワットと、米国(約3000万キロワット)やインドネシア(約2780万キロワット)に次いで世界3位の規模があるといわれている。また、太陽光や風力など他の自然エネルギーに比べて天候などの自然条件による影響がなく、24時間安定して稼働できるというメリットがあり、純国産のベースロード電源として期待されている。
更に、地熱発電に適した土地が地方に多く、発電に使用した熱水がハウス栽培などに利用できるなど、エネルギーの多段階利用で地域経済へのメリットもあり、地方創生の側面からも注目されている。石破茂首相は第1次石破内閣発足時の所信表明演説で「原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化とあわせ、我が国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜く」と述べ、地熱発電の開発を推進する意向を示している。
●事業リスクの高さがネックに
その一方で、国内の地熱発電設備容量は2024年4月時点で51万キロワット強と、大型の原発1基にも満たない水準であり、ここ10年ほどはほぼ横ばい圏で推移している。また、日本国内の全発電電力量(自家消費含む)に占める地熱発電の割合は0.2%台後半で推移しており、同じ自然エネルギーである太陽光や風力発電に比べて低いのはもちろん、電源構成のなかで最も低くなっている。
ポテンシャルが高いのにもかかわらず、日本の地熱発電開発が進まなかった背景には、油田と同じで掘ってみないと正確な資源量がわからないという、事業リスクの高さがある。また、原子力発電や火力発電に比べて小規模のため国の開発支援が消極的であったことや、適地の多くが国立・国定公園内にあり、「自然公園法」によって開発が困難であったことなども挙げられる。
●次期エネルギー基本計画にも盛り込まれる予定
政府は21年10月に策定した「第6次エネルギー基本計画」で、30年度に発電電力量に占める地熱発電の割合を1%に引き上げるとしており、計画達成のためにも開発支援の必要がある。また、地方創生を重要政策の一つに掲げる石破政権にとっても地熱発電は重要な課題であり、開発支援の取り組みが今後強まることが期待される。地熱発電開発の予算も拡充される見通しだ。
前述の読売新聞の記事によると、年度内に改定する予定の次期エネルギー基本計画にも地熱発電の開発促進や国の支援方針が盛り込まれるとある。今後、株式市場でも「地熱発電」への関心が高まることが予想され、関連銘柄には注目が必要だろう。
●地熱発電開発の関連銘柄
注目されるのは、発電用タービンを手掛ける企業だ。開発が遅れている日本の地熱発電だが、地熱発電技術に関して日本企業は世界をリードしており、特に地熱発電所の心臓部といわれる地熱発電用タービンでは日本のメーカー3社(東芝エネルギーシステムズ、富士電機、三菱重工業)が世界シェア7割近くを占めている。
その1社の富士電機 <6504> [東証P]は、蒸気と熱水が混合した地熱液体から分離した蒸気でタービンを回して発電する「フラッシュ方式」と、沸点の低い媒体を熱交換器で加熱・蒸発させ、その媒体蒸気により発電を行う「バイナリー方式」の2つの発電方法のタービンを業界で唯一手掛けているのが特徴。これまでに地熱発電設備(蒸気タービン・発電機など)約90台を納入している。
三菱重工業 <7011> [東証P]は、世界的にも広く適用されている「二相流体輸送」と「ダブルフラッシュ方式」の組み合わせを世界で初めて投入した。また、これまで納入した100件以上の地熱発電所のうち、7割以上をEPC(設計・調達・建設)ベースで受注しており、設計・製作から建設まで一貫して提供できることが強みとされる。今年2月には地熱発電スタートアップの米ファーボ・エナジー(テキサス州)に出資。ファーボはシェール開発の掘削技術を応用し、従来は開発できなかった地域で地熱発電を実施する企業で、同事業の強化が期待されている。
第一実業 <8059> [東証P]は、地熱発電や工場排熱向けに小型バイナリー発電装置を販売。地熱発電では、大分県別府市や長崎県雲仙市の地熱発電所などで利用されている。
また、プラント大手も地熱発電への取り組みを強めている。日揮ホールディングス <1963> [東証P]が23年8月、地熱発電所建設プロジェクトを受注したと発表した。受注したのはレイテ島にあるバイナリー地熱発電所の付帯設備に関わるEPC役務で、フィリピンでは地熱発電開発が積極的に進められていることから、今後の事業展開への期待が持たれている。東洋エンジニアリング <6330> [東証P]は今年2月、PTメドコ・パワー・インドネシア社と、地熱エネルギー利用最適化における全体開発計画に関する覚書を締結しており、地下・地上のさまざまな関連技術を組み合わせた地熱フィールドの全体開発・最適化を進める構想の推進に貢献する。
新たに地熱発電ビジネスに取り組む企業も増えている。大同特殊鋼 <5471> [東証P]は、地熱発電システム用の耐食合金の開発に取り組んでいる。従来の地熱発電より深い大深度層の地層を掘ると、高温かつ塩化物イオンや硫化水素を含有する腐食性の高い地下水と接するため、金属が腐食しやすい。そこで、熱安定性に優れる耐食合金と、それらを使用した密閉技術の開発を22年にスタート。これには日本財団と海洋技術開発の国際コンソーシアムであるディープスターの連携技術開発助成プログラムによる支援を受けている。巴工業 <6309> [東証P]は地熱発電にも利用できるバイナリー発電装置の販売を開始しており、遠心分離機に次ぐ事業の柱へと育成する方針だ。
●地熱発電所運営企業にも注目
地熱発電所を運営する企業にも注目したい。
Jパワー <9513> [東証P]は、三菱マテリアル <5711> [東証P]、三菱ガス化学 <4182> [東証P]と共同で19年5月に山葵沢地熱発電所(秋田県湯沢市)の運転を開始。出力1万キロワットを超える大規模な地熱発電所としては23年ぶりの稼働となったことが話題となった。3社は24年3月に岩手県八幡平市で安比地熱発電所の運転を開始。更に宮城県大崎市で新たな地熱発電の開発を目指している。
これより規模は小さいが、新日本科学 <2395> [東証P]は15年から子会社メディポリスエナジーを通じて民間地熱発電事業を運営しており、年間約1000万キロワット時の電力量を安定供給している。アストマックス <7162> [東証S]は、再生可能エネルギー事業の一環として宮崎県えびの市で中規模地熱発電の事業化に取り組んでおり、27年度の運転開始を目指している。レノバ <9519> [東証P]は、熊本県南阿蘇村で「南阿蘇湯の谷地熱」が23年3月から稼働しているほか、北海道函館市で「函館恵山地熱プロジェクト」が進行中だ。
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