三種の神器
NHKの連続テレビ小説「梅ちゃん先生」を欠かさず観ている。
戦後の焼け野原からの復興~高度成長期へと向かう昭和20年~30年代の東京の下町、蒲田を舞台に、ヒロインの梅子の成長を家族や町の人々との関わりあいのなかで描く群像劇である。先週の放映では、そんな梅子の町にテレビがやってくる。
食事処「みかみ」の主人が妻に無断でテレビを買ってしまったことからひと悶着起こるのだが、その顛末はここでは端折(はしょ)るとして、筆者が感動したのは以下の場面である。
食事処「みかみ」の主人が、娘が自分の料理が美味しくないと言っているのを聞いてしまう。娘は父親に聞かれたことに気づく。
「お父さん…」
「俺の作る飯、そんなにまずいか?」
「ううん、まずいなんていってない」
「そうか…ハハハ。テレビ、返すか」
そう言うと「みかみ」の主人はとぼとぼと帰ろうとするが凄い勢いで引き返してきてこう言うのだ。
「いやいや、そういう事じゃないじゃないんだよ!やっぱりテレビ観たいだろ!?」
そう、誰もがテレビを観たがった時代があった。昔のテレビは観音開きの木製ケースのなかに鎮座している「三種の神器」のひとつだった。
シャープは来月9月15日で創業100周年を迎える。ホームページには記念サイトが作られ「シャープ100年史」が公開されている。そのなかで「オンリーワンヒストリー」というコンテンツがあって、同社が開発してきた「オンリーワン」のプロダクトの数々が誇らしげに紹介されている。テレビの項目を開くとこう書かれている。
<国産第1号テレビ<TV3-14T> 日本におけるテレビ時代の幕を開いたのが1953年の当社によるテレビの量産化です。(中略)52年末に国産第1号テレビを発売、53年には他社に先駆け量産を開始しました。価格は175,000円、当時の初任給が高卒で5,400円の時代でした。「一家に一台」をめざし、量産によるコストダウンを進め、お求めやすい価格をリードしたのも当社です。>
なんという皮肉だろう。それから60年の年月が流れた今日、シャープを筆頭に日本の電機メーカーはそのテレビのせいで瀕死の重傷に喘いでいる。「量産によるコストダウンを進め、お求めやすい価格をリードした」結果、待っていたのは会社の屋台骨が傾くほどの苦境。シャープの創業者、早川徳次のものづくりの精神は「他社にまねされるものをつくれ」。それを愚直に押し進めた結果の苦境でもある。まさに皮肉としか言いようがない。
シャープ創業100周年を1カ月後に控えた終戦記念日の8月15日。その日に放映された「梅ちゃん先生」が、まさに食事処「みかみ」の主人がテレビを買う話の回だったわけだが、同じ15日の日経新聞1面にはこういう記事が載った。「ソニー、TV販売2割減、シャープも3割超 デジタル製品 下方修正相次ぐ」
ソニーとシャープの今年度のテレビの販売計画はそれぞれ前期比21%減の1550万台、35%減の 800万台。ソニーは欧州や中国の需要が今後も冷え込むとし、シャープもエコポイント制度終了などによる内需低迷が想定以上であることを理由に挙げた。
続く17日には「シャープ 主要事業売却」との見出しで、シャープがコピー機やエアコンなどの事業を売却する検討に入ったことが大々的に報じられた。亀山工場の分離も検討するという。液晶パネルや白物家電などに経営資源を集中し、生き残りを図るという。液晶は分かるが「白物家電?」と思う読者もおられるだろう。だが、冷蔵庫や洗濯機はテレビなどの値崩れに比べれば、まだ「値持ち」がよく利益率が高いのだ。そう、かつての「三種の神器」と言えば、テレビ・冷蔵庫・洗濯機だった。白物家電はシャープの「十八番(おはこ)」、ある意味、本来の姿に立ち返るのだとも言えるだろう。
戦後の焼け野原からの復興~高度成長期へと向かう昭和20年~30年代の東京の下町、蒲田を舞台に、ヒロインの梅子の成長を家族や町の人々との関わりあいのなかで描く群像劇である。先週の放映では、そんな梅子の町にテレビがやってくる。
食事処「みかみ」の主人が妻に無断でテレビを買ってしまったことからひと悶着起こるのだが、その顛末はここでは端折(はしょ)るとして、筆者が感動したのは以下の場面である。
食事処「みかみ」の主人が、娘が自分の料理が美味しくないと言っているのを聞いてしまう。娘は父親に聞かれたことに気づく。
「お父さん…」
「俺の作る飯、そんなにまずいか?」
「ううん、まずいなんていってない」
「そうか…ハハハ。テレビ、返すか」
そう言うと「みかみ」の主人はとぼとぼと帰ろうとするが凄い勢いで引き返してきてこう言うのだ。
「いやいや、そういう事じゃないじゃないんだよ!やっぱりテレビ観たいだろ!?」
そう、誰もがテレビを観たがった時代があった。昔のテレビは観音開きの木製ケースのなかに鎮座している「三種の神器」のひとつだった。
シャープは来月9月15日で創業100周年を迎える。ホームページには記念サイトが作られ「シャープ100年史」が公開されている。そのなかで「オンリーワンヒストリー」というコンテンツがあって、同社が開発してきた「オンリーワン」のプロダクトの数々が誇らしげに紹介されている。テレビの項目を開くとこう書かれている。
<国産第1号テレビ<TV3-14T> 日本におけるテレビ時代の幕を開いたのが1953年の当社によるテレビの量産化です。(中略)52年末に国産第1号テレビを発売、53年には他社に先駆け量産を開始しました。価格は175,000円、当時の初任給が高卒で5,400円の時代でした。「一家に一台」をめざし、量産によるコストダウンを進め、お求めやすい価格をリードしたのも当社です。>
なんという皮肉だろう。それから60年の年月が流れた今日、シャープを筆頭に日本の電機メーカーはそのテレビのせいで瀕死の重傷に喘いでいる。「量産によるコストダウンを進め、お求めやすい価格をリードした」結果、待っていたのは会社の屋台骨が傾くほどの苦境。シャープの創業者、早川徳次のものづくりの精神は「他社にまねされるものをつくれ」。それを愚直に押し進めた結果の苦境でもある。まさに皮肉としか言いようがない。
シャープ創業100周年を1カ月後に控えた終戦記念日の8月15日。その日に放映された「梅ちゃん先生」が、まさに食事処「みかみ」の主人がテレビを買う話の回だったわけだが、同じ15日の日経新聞1面にはこういう記事が載った。「ソニー、TV販売2割減、シャープも3割超 デジタル製品 下方修正相次ぐ」
ソニーとシャープの今年度のテレビの販売計画はそれぞれ前期比21%減の1550万台、35%減の 800万台。ソニーは欧州や中国の需要が今後も冷え込むとし、シャープもエコポイント制度終了などによる内需低迷が想定以上であることを理由に挙げた。
続く17日には「シャープ 主要事業売却」との見出しで、シャープがコピー機やエアコンなどの事業を売却する検討に入ったことが大々的に報じられた。亀山工場の分離も検討するという。液晶パネルや白物家電などに経営資源を集中し、生き残りを図るという。液晶は分かるが「白物家電?」と思う読者もおられるだろう。だが、冷蔵庫や洗濯機はテレビなどの値崩れに比べれば、まだ「値持ち」がよく利益率が高いのだ。そう、かつての「三種の神器」と言えば、テレビ・冷蔵庫・洗濯機だった。白物家電はシャープの「十八番(おはこ)」、ある意味、本来の姿に立ち返るのだとも言えるだろう。