―米国とともに株式資本主義の道を歩む―
今、我々は空前のAI(人工知能)革命、既存の世界秩序の無能化という二つの歴史的現実に直面している。トランプ・マスク氏はこの閉塞感ある時代に、大変革を打ち出そうと身構えている。その変革の理念とは、筆者流に解釈すれば「資本主義が正義、資本主義なき民主主義は虚構」というものである。
2025年とはそのような変革の時代の幕開けの年となるだろう。その下で米国株式はバブルと見られるほどの株高に向けて跳ね上がるだろう。日本株は米国株とともに最も安心感のある投資対象として、世界の注目を集めるだろう。米国株式バブルへGO、日本株長期上昇波継続、日米金利は高止まり、ドル指数強含み、ドル円はレンジの動きとなるだろう。
(1)明白な米国優位……・2025年、なぜ米国でバブル的株価上昇が期待できるのか
●トランプ勝利の経済政策的意義
AI革命は劇的な生産性の向上により、企業部門(特にマグニフィセント・セブンなどの巨大ハイテク企業)に著しい「超過利潤=過剰貯蓄」を与える一方、労働者への分配が滞り、格差を拡大させるという問題を引き起こした。この企業部門に蓄積されている超過利潤をいかに経済システムに還流させ、成長(=新規需要と雇用創造)につなげるかが、米国経済が直面する最重要の課題である。
企業の内部資金(純利益+減価償却費)は、1960年代から1990年代まで、GDP(国内総生産)の10~12%で推移していた。それが、最近では14~16%で推移するようになっている。他方、企業の設備投資は長期にわたってGDP比10%程度で推移しており、企業部門の資金余剰が顕著になっている。この企業余剰をどう再分配し、新規需要と雇用につなげるのか。
その経路としては、①政府による企業・富裕者増税と社会的弱者に対する財政支援、②株式・資本市場を通した企業の利益還元、③強制的賃金引き上げ、労働分配率引き上げの3つが考えられ、①、③は政府による介入、②は市場経済を通した再配分と整理できる。
先の米国大統領選挙での明確な論点は、ハリス・民主党の「大きな政府・弱者優遇論による増税路線」と、トランプ・共和党の「小さな政府・アントレプレーナー支援論に基づく減税路線」の対立であり、まさにこの核心を巡っての国民選択を問うものであった。そして、トランプ・共和党の勝利により米国の方向性は定まった。
これまでのところ企業による配当の増加、企業による自社株買いなどの株主還元が著しく高まり、潤沢な企業貯蓄は経済システムに還流してきた。この株主に対する還元の高さが米国の株高を支えてきたが、トランプ政策はそれを一段と強めるものとなる。規制緩和の中心が金融部門に集中しており、トランプトレードの中心が金融株であったことは、それを如実に物語る。また、トランプ氏はイーロン・マスク氏を政府効率化省DOGE(Department of Government Efficiency)のトップに指名し行政の効率化と予算削減を行うが、それも小さな政府路線の帰結といえる。
●トランプ・マスク氏が始める「資本主義再建」革命
格差・分断という現実は、他の国では容易に反資本主義・反市場経済、社会主義礼賛につながるが、米国ではむしろ市場と資本主義を強化する路線に収斂したことは、注目に値する。
このように整理すると、トランプ・マスク氏の経済革命は左右両極が非難する新自由主義どころか、もっと激しい究極の自由主義(=リバタリアニズム)であり、大きな思想革命を伴っていることに気づかされる。それは市場と資本主義に対する強い信頼に起因している。AI革命はコストの透明性を大きく高め、市場機能を効率化した。いわば「神の見えざる手」を著しく強化した。それがトランプ・マスク流の究極のリバタリアニズムを可能にしている。
●2025年、米国はバブルへGO
株式市場に目を転ずると、現在は1995年に多くの点で類似している。1995年は1996年12月の根拠なき熱狂(グリーンスパン議長)を経て、2000年のITバブルに向かう上昇相場の起点であった。
類似点とは、①利上げ終了後に高い実質金利が維持されたこと、②長期金利も抑制されイールドカーブのフラット化が長期化したこと、③ドル高が続いたこと、④技術革新(当時はインターネット革命、今はAI革命)の進行が旺盛な投資を牽引したこと、などである。
現在、米国株式はPER23倍、益回りは4.3%と10年国債利回りとほぼ同水準になっており、決して割安とは言えない。また、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレと株式のバブル化を警戒し、2025年の利下げ幅を抑えようとしている。この姿勢はかえって長期金利の頭を抑えるので、1995年以降と同様に、イールドカーブのフラット化が長期化することになる。そうした環境の下で、AI革命とトランプ・マスク氏のリバタリアン革命により、人々の強気度は高まっていく。米国株式はバブル色を帯びつつ、騰勢を強めていくと予想される。
(2)日本株の魅力、超割安、好需給、株価革命を推進するM&Aブームの曙光
●日本の好位置、魅力的バリュエーション
日本株式も、米国株に劣らない魅力を備えている。それは魅力的なバリュエーションと好需給である。国際分散投資における長期資産配分に際しては、資産価格サイクル(スーパー・バブルサイクル)が重要である。資産価格の上昇下落の循環は、各国毎に10~数10年の固有の周期が観測でき、投資家にとって幸運なことに、この資産価格サイクルは国によって全く位相が異なっている。よって、サイクルの高値にある国の資産を売って、底値にある国の資産を買えば、長期的運用成果を大きく高めることができる。
主要国の資産価格サイクルをたとえると、中国赤信号、米国青から黄色への境目、日本青信号となる。中国は史上空前のバブルのサイクルのピークを過ぎたところにあり、不動産価格の底入れははるか先であろう。資産投資は抑制し、「cash is King」に徹するべきだ。中国政府はバブル対策として10兆元の地方融資平台などの隠れ債務の肩代わりを発表したが、バブルの規模からすれば焼け石に水に過ぎない。
中国で求められる不良債権の最終処理額は膨大なものである。①地方融資平台の債務残高66兆元(=1300兆円)、②家計債務の累積額(2009~2022年)10兆ドル=70兆元、③中国国内の売れ残り新築物件の在庫は9000万戸(単価2000万円と見積もっても1800兆円=90兆元)などから、ざっと見積もっただけでも60兆元、GDP比約6割の処理が必要である(ちなみに日本の場合、地価はピークから8割下落して底入れした。この間に発生した不良債権は100兆円、対GDP比20%の不良債権が処理された)。
米国では資産価格は概ねフェアバリューにあり、金利急騰が起きれば、直ちにバブル化する、黄色信号寸前の状態にある。リスクテイクには警戒心が望まれる場面である。それらに対して日本は、バブル崩壊後の底入れからしばらく経った局面であるが、資産価格は割安水準にある。日本における投資リスクは日本株を持たざるリスクであり、ほぼすべての投資主体は日本株を執拗に買い続けざるを得なくなる。
●高リターンの日本株に向かって資金は流れ続ける
日本の株価は著しく割安なので、今後さらに上昇していくことはほぼ確実である。株価の最もピュアで正確な物差しは国債利回りとの比較であるが、日本株式は現在、株式益回り6%、国債利回り1%と国債に比して著しく大きなリターンを提供している。1990年の日本のバブル時の両者が株式益回り2%、長期金利8%であったことと比較すると、天と地の逆転が起こっていることが分かる。1990年は株価が著しく割高(=正のバブル)であったのに対して、現状は著しく割安(=負のバブル)状態にある。
しかしながら、日本家計の資産配分は著しく非合理的で、年金・保険を除く金融資産の71%が利息ほぼゼロの預貯金に眠っている。他方、配当だけで2%、内部留保を含めれば6%のリターンがある株式と投資信託は27%のウェイトに過ぎない。
ちなみに、米国は株・投信が77%、現預金は17%と全く逆の構成になっており、米国家計は株高により大きな資産形成を続けている。米国家計の純資産はリーマン・ショック(世界金融危機:GFC)直後の2009年の59兆ドルから2023年末には156兆ドルと14年間で97兆ドル(対GDP比3.5倍)という巨額の資産形成を実現し、それが堅調な消費をもたらしている。
日本でも、岸田政権による個人株式投資の減税枠の拡大(NISA[少額投資非課税制度]改革)がきっかけになり今後、現預金から株投信へと、怒涛の資金シフトが起こり、株高を加速させるだろう。
●日本株を持たざるリスク
すべての投資主体が「日本株を持たざるリスク」を真剣に考えざるを得なくなっている。まず最大の買い主体の外国人投資家であるが、外国人は昨年来、世界主要市場で最も値上がりした日本株の比率を高めるどころかほぼすべてを売ってしまい、再度日本株がアンダーウェイトになっている。今後は再び買い増す動きが強まると予想される。
消極的だった国内投資家は、大幅に日本株を買い増す必要に迫られている。個人投資家はNISA改革が始まり2024年1~6月で10.1兆円を買い付けた。年間では20兆円、前年比4倍増のペースである。今のところこの大半が海外投信だが、日本株へのシフトが起きるだろう。
企業は、PBR1倍以下の是正を求める金融庁、東証の要求に押されて自社株買いに走っている。年間20兆円、前年比倍増ペースが続いている。更に年金など機関投資家はインフレ定着、金利上昇の下でこれまで最大の投資項目であった日本国債の投資比率の引き下げを迫られており、株式シフトを余儀なくされている。政府は株式投資で大成功を収めた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方針を、国家公務員共済組合連合会(KKR)など公的年金運用の分野に広げていくことを公言し始めた。
このようにこれまで鳴りを潜めていた国内投資家が、数十兆のペースで日本株を買う趨勢となっている。植田ショック、石破ショック後の株価の急回復は、そうした投資家の買い出動が牽引した。国内投資家層に厚みが出てきたことにより、外国人の短期筋に翻弄された市場が安定性を高めていくだろう。
●日本にM&Aブーム勃発、株水準訂正の推進力に
1988年のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)によるRJRナビスコ買収に象徴される米国の買収ブームは、2000年のドットコムバブル形成に向かう株高を準備したが、今の日本に同様の動きが起きている。
東証・金融庁によるPBR(株価純資産倍率)1倍以下の企業への是正要求、日本経済新聞の「私の履歴書」へのKKR創業者ヘンリー・クラビス氏(30年前は米国でも野蛮人と言われていた)の登場など、日本の政策と企業社会のM&A受容姿勢への変化は驚くばかりである。
カナダ企業であるアリマンタシォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]の買収提案は、資本の効率性をないがしろにし、低株価を放置してきた日本の株式市場に大きく活を入れるものになるだろう。日産自動車 <7201> [東証P]・ホンダ <7267> [東証P]の経営統合も、台湾電機大手の鴻海精密工業による日産買収の意向が伏線となっている。
日本は米国が進む株式資本主義に急速にシフトしている。それは海外投資家の日本株買い、企業による自社株買いを通して、日本株のバリュエーション革命を推進するだろう。
※<後編>へ続く
株探ニュース
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