【QAあり】J-POWER、70年にわたる国内外での電気事業の実績をベースに、CN実現に向けポートフォリオ/ビジネスモデル変革へ
J-POWERをご存じですか?
菅野等氏(以下、菅野):J-POWER 電源開発株式会社代表取締役社長社長執行役員の菅野です。よろしくお願いします。
最初に、私どもJ-POWERについて少しPRさせていただきます。スライド右上をご覧ください。アーティストのオーイシマサヨシさんに、私どもの現場で歌と踊りの映像を撮っていただいています。当社ホームページのトップからご覧いただけますので、お時間がある時に聞いていただければ幸いです。
スライド左側の写真は「ダムカード」というものです。大きなダムには「ダムカード」が必ずあり、表面にダムの鳥瞰写真と裏面にそのダムのデータが記してあります。それぞれのダムの近くにあるダム管理所まで行かないと入手できないため、山や川を旅される方々で「ダムカード」を集めている方々がいらっしゃいます。
スライド下段に掲載している「音のソノリティ」は、日本テレビで日曜夜に放送している5分程度の番組です。いろいろな音を採集・収録した番組で、J-POWERグループで提供しています。
J-POWERはこんな会社です
菅野:数字面を少しご紹介します。「電源開発」という社名で、コミュニケーションネームは「J-POWER」です。創立が1952年で、2004年に民営化しています。創立から民営化までの間は政府の特殊法人でした。
連結の従業員については、現状では7,000名を少し超える規模です。国内にある設備出力は、1,807万キロワットです。この中で再生可能エネルギーについては、水力・風力・地熱・太陽光などを進めており、日本国内で再生可能エネルギーを営んでいる事業者としてはトップランナーだと自負しています。
海外事業についても、今までの延べ件数で64ヶ国に及んでおり、コンサルティング事業から実際の発電事業まで手広く手がけています。
連結経常利益の目標水準については、2026年度の目標に900億円を掲げています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):ご説明ありがとうございます。質問を挟みながらお話をうかがいたいと思います。まず、1952年に政府の特殊法人として誕生したということですが、設立の経緯や、当時の電力需要・電力の状況などを教えてください。
菅野:1945年に第2次世界大戦が終わってから日本の国土はかなり荒れており、経済復興するにあたっては、まず電力が必要だという時代でした。その電力を確保するためには、いろいろな発電所を作る必要がありました。特に河川の水力発電所を大規模に開発する必要があり、その際に民間ではまだ資金が足りないという時代でした。
そこで日本政府が出資し、資金については世界銀行を含め国際的な支援も受ける事業母体を作ることが求められました。法律に基づき電源開発株式会社が設立され、世界銀行等の資金も導入した上で大規模な電源開発を行ったというのが設立の経緯です。
坂本:その後、2004年に民営化していますが、この理由や経緯等についても教えてください。
菅野:2004年に至る前、政府が持っていた特殊法人である日本国有鉄道や、今のNTTである電信電話公社、日本たばこ専売公社などの一角に当社もありました。
当然ながら政府の役割を減らしていき、市場経済側に移すという大きな流れの中で、電力事業そのものもいろいろな意味で自由化が進んでいました。その中で、私どもについては地域の電力会社との健全な競争を営むという観点で民営化しようという政府の計画がありました。
その一環で私どもは民営化され、今は政府がまったく株を持っていない状態の完全な民間企業になりました。民営化から20年経っています。
坂本:国内設備は1,807万キロワットとのことですが、この規模は個人投資家の方々にはなかなかイメージしにくいと思います。「どのくらいの家庭が賄える電力量なのか?」などの規模感を教えていただけるとありがたいです。
菅野:大まかにお伝えしますと、日本全体の家庭用電力のおよそ5分の1を賄えるくらいの規模感です。J-POWERのシェアは、日本全体の電力の生産量の約8パーセントになると思います。
坂本:普段は、夜など電力をあまり使わない時間や、季節による需要の増減を調整しながら生産しているということですね。
菅野:おっしゃるとおりです。
国内電力事業
菅野:このスライドでは、国内の電力事業について日本地図に位置を示して紹介しています。小さく見えにくくて恐縮ですが、数が多い緑色が風力発電所です。
青い四角は水力発電所です。北海道の十勝川水系、新潟から福島の只見川・阿賀野川水系、静岡県の天竜川水系というようなかたちで、水系に沿って水力発電所を持っています。
赤い四角は火力発電所です。数は少ないですが、1つ1つの設備規模が大きいため、スライド左側の表の中で記載があるように9ヶ所で881万キロワットという規模になっています。
水力・風力・地熱は再生可能エネルギーという分類になります。合わせると88ヶ所となり数が多いですが、917.7万キロワットです。数が多い水力・風力・地熱発電所と、数が少ない火力発電所が、全体の出力規模としてはほぼ同じくらいになります。
それらに加えて、送電設備があります。日本の電力事業体制は戦後から地域分けされ、地域ごとに独占体制が長く続いていました。今は自由化されていますが、地域ごとの独占体制の中で、「北海道と本州」「本州と四国」「本州と九州」などを結ぶ役割を私どもが担ってきて、この島々を結ぶ送電線を開発してきた歴史があります。
坂本:水力発電所が多い理由は、日本の国土の特徴などもあると思います。それ以外にも理由がありましたら教えてください。
菅野:戦後まもなくの「電気が必要だ」という時代に、最初に考えられたのが、ダムを作って、そのダムの水を活用した水力発電に取り組むことでした。日本には急峻な山があり、落差が大きいという特徴があるため、ここをまず活用しようというのが戦後まもなくの一番の発想だったということです。
一番有名な黒部ダム(黒四ダム)は関西電力が開発したものですが、それと同様に、我々も会社創立期に静岡県天竜川の佐久間ダムを開発しています。こちらも有名な大規模開発です。そのように、川の落差を利用した水力発電から日本の戦後が始まったということだと思います。
坂本:それをずっと守ってきたということですね。
海外電力事業
菅野:世界地図に私どもの海外電力事業についてマッピングしました。一番規模が大きいのは、タイで行っている事業です。その他にインドネシア、米国、豪州で事業を行っており、今後の開発量が大きい地域としては、豪州および東南アジアだと思っています。
スライド左上に洋上風力発電所の写真を掲載していますが、イギリス沖合で洋上風力事業に資本参加しています。工事が始まる段階から私どものエンジニア社員を送り込み、洋上風力についてのノウハウを身につけて、今後の日本近海での洋上風力発電に活かそうと考えているところです。
坂本:海外事業はいつ頃から行っているのでしょうか?
菅野:先ほど法律に基づいて会社が設立されたとお話ししましたが、昭和30年代にその法律に改正が加えられ、海外での電気事業に関して当社が取り組むということが法律に盛り込まれました。
日本の電力体制は地域分割されて、それぞれの地域に対して責任を持つというかたちで電力事業が進んできたため、海外からいろいろな要請を受けた際に誰が対応するのかということに関して、まずは当社が行うことになったということです。
法律の中に盛り込まれた昭和30年代から始まり、その後、民営化の時期を迎えます。民営化の時期の前後に法律はなくなりましたが、海外での技術協力やコンサルタント事業に加え、自ら発電する事業に取り組んできたというのが現状です。
坂本:図を見ると、フィリピン、インドネシア、タイなど発展途上国が多いため、特殊法人だった時代はODAのような技術支援的な目的があったということで、民営化後は収益を稼ぐという意味での海外事業を進めているという理解でよろしいでしょうか?
菅野:そのとおりです。
坂本:海外事業では、水力・火力・風力発電といった区分ではどちらが多いですか?
菅野:海外でも、多いのはやはり火力発電というのが現状です。今後については、風力・水力発電といった再生可能エネルギーが多くなる予定です。
J-POWERグループの発電設備の概要(2024年3月末時点)
菅野:今お伝えした日本地図と世界地図に記載したものを円グラフで示しています。スライド左側の円グラフは、国内発電事業と海外発電事業の比率を表しており、およそ4分の3が国内、4分の1が海外となっています。
中央の円グラフは種類別の比率を表しており、水力・風力・ガス火力・石炭火力の割合はこちらに記載のとおりとなっています。
右側の円グラフは、建設中・開発中のプロジェクトについて示しています。すでにCO2を出さないものの開発に力を入れており、風力・太陽光・原子力が私どもの開発の中心になっていることがご覧いただけると思います。
株主還元
菅野:株主還元について、ここ数年の推移を示しています。民営化以降、当然ながら一般株主の方が出てきましたので、安定配当に努めています。民営化から20年が経っていますが、現在まで減配したという実績はありません。
利益規模が大きくなるにしたがい、配当の金額を少しずつ増やしています。グラフに示しているとおり、2020年度から2023年度までの4ヶ年の中で、75円から100円まで増配しています。今後、今年度を含む3ヶ年計画の中でも、目標としている利益規模を上振れさせることができれば、追加還元についても検討したいと考えています。
坂本:追加還元については、上振れした分は連結配当性向30パーセントを基準に行うというお話だと思いますが、もう少し出せるのであれば乗せるという考えもあるのでしょうか? 「増配を意識し、来年を見据えてスライドさせる」など、可能な範囲で教えていただけたらと思います。
菅野:基本的には900億円の経常利益を出せて、その上での純利益であれば100円の配当を安定的に行いたいと考えています。これで連結配当性向30パーセント程度だと思います。この利益がさらに上振れできた場合、その利益が何から生じたかにもよりますが、基本的には配当性向30パーセントを原則としながら配当を考えたいと思います。
3ヶ年の計画を立てていますので、この3ヶ年についてある種まとめた評価、3ヶ年の見通しが得られたところで、100円にプラスできる場合、プラス部分については3ヶ年まとめてで検討したいと思っています。
J-POWER概況 決算実績と見通し
菅野:ファイナンシャルのデータです。スライド左側のグラフは、販売電力量を示しています。電源別と国内・海外別で色を分けています。一番上の濃い緑色が海外での販売電力量です。ご覧いただくと、総量は800億キロワットアワーから900億キロワットアワーで、このうち国内分が先ほどお話しした国内での電力シェアの8パーセント程度ということになります。
中央のグラフは売上高、右側のグラフは経常利益を示しています。いずれも2022年度が少し大きく出ていますが、2022年度はロシアのウクライナ侵攻があった後の年度で、国際的に資源価格が非常に高騰した年です。当社は資源権益を持っているため、そこから得られる利益が非常に大きく膨らみました。したがって、こちらは少し一時的な要因があったと思います。
2024年上期が終わった現時点での予想については、売上高は1兆2,000億円程度、経常利益は900億円強を見込んでいます。
J-POWER概況 財務指標推移
菅野:財務指標の推移です。スライド左上のグラフは、当期純利益とROEの推移を表しています。先ほどお伝えしたとおり、2022年度は資源権益の利益があり、少し大きくなっています。配当については先ほどお伝えしたとおりです。
自己資本比率はおかげさまで着実に増加しており、目途としていた30パーセントを超すことができています。併せて、DEレシオは確実に下がってきたところです。
坂本:自己資本比率については、電力会社はどちらかというと低く、調達しやすい制度になっている部分があると思います。御社はけっこう高くて、足元も上昇している状況です。現時点で妥当と考える自己資本比率の水準がありましたら、そのイメージを教えてください。
菅野:前の3ヶ年計画の中で目標としていた30パーセントは超えることができました。今後、自己資本としてどのくらいが必要かということについては、この3ヶ年の中のさまざまな投資計画の進捗を見ながら、あらためて見極めたいと思います。ただし、30パーセントを少し超える程度で、一定程度十分なところはあると考えています。
当社グループの主要な事業領域
菅野:スライドの図は、私どもの事業を簡単に表したものです。発電事業、送変電事業、資源の権益を含む電力周辺関連事業、そして海外で行っている事業が主な事業領域です。
発電事業については、大きく分けて言いますと、CO2を出さない再生可能エネルギー電源、CO2を出す火力電源があり、さらに原子力電源も開発を行っています。
送変電事業については、先ほどお伝えしたとおり、日本各地を結んできた歴史があります。これから再生可能エネルギーが大量に入ってくると、電力が生産される場所と消費される場所が異なることになり、これを結ぶ送電線ネットワークが一段と必要になってきます。そこについて、私どもとして活躍できる余地があると思っています。
多くの方がご存じだと思いますが、本州は電力の周波数が50ヘルツの地域と60ヘルツの地域に分かれています。これは明治期に導入された機器の違いによるものです。
現状、50ヘルツと60ヘルツに分かれている中で電力を行き来させるためには、周波数を変換する必要があります。私どもは電力を広く融通し合うために必要な周波数変換設備を有しており、このようなところでも今後活躍できると思っています。
海外事業については、当然ながらアジア、それとパシフィックを舞台に拡大していこうと考えているところです。
国内の主な電力販売の流れ
菅野:国内の主だった電力販売の流れについてご説明します。図の中央にJ-POWERグループを置いています。炭鉱権益を持っている豪州などから燃料を輸入し、当社の発電所で発電します。燃料の要らない水力・風力等で発電した電力も含め、地域の電力会社に販売しています。
販売先は、旧一般電気事業者である東京電力や中部電力など地域の電力会社、あるいはJEPX(日本卸電力取引所)です。JEPXは電力の取引を司る機関です。
市場に出すと言いますが、市場に拠出しています。市場にはさまざまな方が買いに来ており、毎日、翌日分の電気の値段を30分単位で決めて取引が行われています。そこから需要家に届くことになります。
また、一部、小売事業者への電力販売があります。J-POWER 電源開発は社員数がそれほど多くないため、小売営業までのマンパワーは少ないのですが、例えばKDDIなどとの合弁によって小売事業に参画しています。
坂本:収益についておうかがいします。電力会社は総括原価方式のように、かかったコストをもとに電力価格を決めて収益を作っていくかたちですが、御社は単純に発電コストから売電価格を引いたものが収益となるのでしょうか?
菅野:旧一般電気事業者との契約については、私どもは料金を2つに分け、いわゆる固定費的な料金と燃料等の変動費的な料金を頂戴する長期契約を締結しています。その中には当然、私どもの利益相当分があります。
一方で、卸電力取引所での取引は、電気の価格がマーケットの状況でその都度決まります。我々はマーケットの価格をシミュレーションで予測し、きちんと利益が出るかどうかを確認した上で発電し、販売を行っています。
坂本:電力会社は一般の方の小売価格の部分が固定されているといった条件があるため、収益がぶれて赤字になってしまうことがけっこうあります。御社はそのあたりのリスクをだいぶ抑えて経営しているのでしょうか?
菅野:過去4年の中で、市場の電力価格が資源価格と同時にボラタイルに増減し、私どもとしても一部赤字を生じるような場面もありました。
そのような経験も踏まえて、さまざまな意味の先物の活用、あるいは次の1週間、1ヶ月の電力需給のシミュレーションを行った上で販売しています。シミュレーションの精度が高ければ、きちんとした販売を行い、マージンを得ることができます。
国内再生可能エネルギー事業
菅野:国内再生可能エネルギー事業の今後の取り組みについてご説明します。現在、水力・陸上風力・洋上風力・地熱発電があり、さらに太陽光発電についても建設中のものがあります。
今後、国内再生可能エネルギーの発電電力量を増やしていきます。目標は、現状の100億キロワットアワーを少し超えるところから、2030年度までに40億キロワットアワー増やすことです。かなりハードルは高いのですが、この目標を持って取り組んでいます。
先ほどお伝えしたように、販売先としては電力会社、あるいは卸電力取引所がありますが、それ以外に大口の需要家に電気を直接販売するコーポレートPPAという手法があります。PPAとは電力販売契約という意味です。特定の企業に我々発電事業者から直接販売することについても取り組んでいく考えです。
坂本:こちらはすでに行われていますか?
菅野:一部始まっています。
大間原子力発電所計画
菅野:CO2を出さない電源の中で非常に大規模なものは、原子力発電です。青森県の下北半島の突端にある、マグロで有名な大間町で原子力発電所計画を持っています。
2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故の際、建設中だったのですが、工事を一時休止し、現在は福島の事故を踏まえて見直された新しい安全規制に対しての適合性審査を受けているところです。
坂本:御社は大変長い歴史を持っていますが、2008年から大間原子力発電所計画に取りかかられたということで、他の電力会社と比較すると非常に遅い段階で取り組まれています。このタイミングで取り組まれた背景について教えてください。
菅野:原子力部門はかなり初期からあり、さまざまな検討を行ってきました。ただし、研究していた原子炉のタイプは、今、日本で広く使われている軽水炉とは違うタイプのものでした。
2008年から計画しているものは、日本で一番使われている軽水炉で、最新型のものです。他の一般電気事業者や国とも話し合った結果、大間原子力発電所計画を見直し、炉型を変えてこのような取り組みになっています。
建設が進んでいる最中に2011年の福島第一原子力発電所事故が起こったため、もう一度安全審査を行っている状況です。
GENESIS松島計画
菅野:GENESIS松島計画についてご説明します。基本的には、火力電源をCO2を出さない電源に改造する取り組みです。
石炭を蒸し焼きにすると、水素と一酸化炭素という気体が出てきます。その水素と一酸化炭素を活用してガスタービンと蒸気タービンの両方を回し、発電する、今までの普通の石炭火力とは違うものにトランジションするということです。
この技術は広島県で実証済みのため、長崎県の松島にある古いタイプの発電施設を改造して技術を導入します。これにより、まずはCO2の排出量を減らせます。
加えて、ガスの中からCO2だけを簡単に取り除くことができるようになります。CO2を取り除き、さらにはそのCO2を貯留できるようになり、地下に埋め込むことができれば、大気中に出すCO2を減らせます。
気候変動問題で一番大きな問題になっているのは大気中のCO2を増やすことですが、それを防げるということです。いわゆる脱炭素火力に取り組む最初のプロジェクトになります。
現在は環境アセスメント中ですが、近々の年度中に着工し、改造工事を進めていきたいと考えています。
電力ネットワーク増強への貢献
菅野:電力ネットワーク増強への貢献についてです。日本は大きな島が海を挟んでいます。それに加え、地域によって50ヘルツと60ヘルツという周波数帯域の違いがあります。この間を結ぶ役割を果たしてきましたが、現状でも50ヘルツと60ヘルツの間を行き来できる電力をより増やすための増強工事を行っています。
坂本:送変電事業に関して、御社は全国で発電しているため、そこを行き来させるための送電線でもあると思います。それを他社が使う場合もあると思いますが、その時の収益の上げ方について教えていただけたらと思います。
菅野:電気事業は、発電の部分と、実際に電気を使うお客さまに小売りする部分は完全に自由化されており、規制はありません。一方、送電ネットワークについては、さまざまな事業者が同じ場所に建てることは非合理的なため、独占が認められています。ただし、規制があります。
私どもの送変電事業については、いわゆる原価主義ということで、かかるコストとフィーというかたちでの料金規制があります。そのような意味では、すでに出来上がっている送電線に関しては、ローリスク・ローリターンの典型的な事業だと思います。
グローバルな事業拡大とJ-POWERグループの総合力
菅野:グローバルにさまざまな事業を拡大していきます。これまで歴史的に行ってきた事業は、設備を建設し、その設備を長期間運用する中で料金をいただくという事業です。
今後は一部、開発した段階で資産そのものを譲渡し、一気にキャッシュインを実現して次の開発に向かうというものです。このようなことがヨーロッパや米国ではすでに行われており、我々も米国ではそのような事業を行っています。
今後はこのようなタイプの、開発を行い、事業権益を譲渡して得たキャッシュで次の開発に向かっていくことを一部増やしていこうと考えています。そのようなことができる力が私どもにあるということをお伝えしたいと思います。
中期経営計画2024-2026の位置付け
菅野:当社の未来についてです。まずこの3ヶ年の「中期経営計画2024-2026」の位置付けについてご説明します。私どもが策定した「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」をもとに、長期的にはカーボンニュートラルに持っていくという2050年の目標に向けてロードマップを着実に進めていくことを考えています。
その中で、2030年のCO2排出量を2013年度比で46パーセント減らすという目標を持っています。これは日本政府の温室効果ガス削減比率と同じ比率で減らすということです。
その手前の2024年から2026年では、足元の利益をきちんと上げながら、2030年代に向けて、さらには2050年代のカーボンニュートラルに向けて進む考えです。
目指す事業ポートフォリオ 2030年代
菅野:実際にどのようなアセットを考えていくかについてご説明します。現状の2023年度末のアセットは、スライド左側の図のとおりです。バブルの大きさが金額、簿価とお考えください。それがスライド右側の「事業ポートフォリオ 2030年代」のようにアセットが入れ替わります。
2030年代には、国内CO2フリー電源が非常に大きくなります。これは国内のすでにある水力・風力・地熱などのリニューアブルエナジーに加え、原子力電源が運転開始できた段階で、国内においてCO2フリー電源が一番大きくなるということです。
一方で、国内の火力電源については、一部トランジションを進めながら、減らすものは減らすことを考えています。海外でもCO2フリー電源とトランジション電源の資産構成になることを目指して、2030年代に向けて進んでいきます。
経営目標
菅野:これを財務指標の目標で表したのがスライドの図です。上段に、2030年代に目指すべきROE、ROIC、自己資本比率を掲載しています。
ROEは8パーセント以上を目指します。実際に稼働できている資産でのROICは3.5パーセント程度、自己資本比率は30パーセント程度です。自己資本比率はすでに30パーセントを超えているため、これを維持しながら新たな投資を行っていきます。
2030年代の大きな目標を達成するために、2026年度の段階で経常利益900億円程度を目指します。そうすると、親会社帰属純利益は620億円程度になります。この時、ROEはまだ5パーセント程度です。この段階ではまだ稼働していないアセットがかなりあるため、ROE全体が低いのですが、稼働資産ROICは3.5パーセントを目指します。
これを維持できると、2030年代には2026年度で稼働していない原子力発電所などが稼働し、ROE8パーセントを実現すると考えています。
キャピタル・アロケーション2024-2026
菅野:これらを達成するため、この3年のキャピタル・アロケーションをスライドの図に示しました。グローバルな再生可能エネルギーの開発、国内外のリニューアブルエナジーの開発で2,000億円を見込んでいます。電力ネットワーク増強、先ほどお伝えした50ヘルツと60ヘルツの間を結ぶことなどで、600億円を計画しています。
また、長崎県松島で行う改造工事で火力電源をCO2を出さない電源に移行するため、火力トランジションで300億円程度を見込んでいます。
さらに、すでにある発電設備の更新を行わないと発電能力の維持ができないため、設備更新に関する投資と、原子力への投資を記載しています。株主還元も加え、キャッシュアウトの内容を示しました。
BLUE MISSION 2050 ロードマップ
菅野:これらをまとめて「”BLUE MISSION 2050”」と呼んでいます。2050年に実質的にカーボンニュートラルを実現するため、その手前である2030年にCO2排出量を2013年度比でマイナス46パーセントにすることを目指します。さらにその手前、2025年にCO2排出量を920万トン減らすという目標がありますが、こちらはだいたい目途が立ったと思っています。
それを実現するための縦軸については、まずCO2フリー電源の拡大、再生可能エネルギーの活用と原子力発電所の実現を掲げています。さらに、火力電源のゼロエミッション化や、水素の活用を広げることを考えています。
加えて、電力を融通し合うための電力ネットワークの増強と充実が必要だということを縦軸に置いています。これらを2050年に向けて着実に実行したいというのが我々のロードマップです。
トランジションに向けた投資
菅野:トランジションに向けた投資をどのように行うのかをご説明します。設備投資規模については、2023年度が約1,200億円、2024年度は約1,900億円の見通しです。2023年度は約40パーセント、2024年度は55パーセントを火力トランジション、リニューアブルエナジー、電力ネットワークへの投資として使います。
資本効率改善については、東京証券取引所から上場企業への1つのミッションとして与えられています。今までは開発した設備をずっと所有して営業していましたが、これからは開発した後、資産を譲渡して売却益を獲得することも考えていきます。そういうことによって、資本効率を上げていきたいという考えです。
株主様とのコミュニケーション
菅野:株主のみなさまとのコミュニケーションについてご紹介します。一定の株を保有している方々に向けて「J-POWER Shares」という会員組織を作っています。こちらでプレスリリースや決算の数値などをお知らせしています。
また、施設見学会も行っています。「現場を見たい」というご要望が多く、実際の現場をご案内したり、Web上でバーチャル見学会を実施したりすることもあります。
スライド右側の画像は自然の風景のカレンダーです。私どもは毎年カレンダーを作っており、一定の株を保有している方々にアンケートをお願いして、ご回答いただいた方へお送りしています。今、ちょうど2025年度のカレンダーをお送りしている最中です。
カレンダーについては、日本各地で「ずっと使っているよ」という声が多くあります。私どもは電気を商品としており、BtoCではないところもありますが、カレンダーはご愛用いただいているといったところがあります。
ご説明は以上になります。
質疑応答:中国事業の現状について
坂本:「ホームページには2011年以降の中国事業について載っていません。現状を教えてください」というご質問です。
菅野:中国でも数十万キロワットの事業に関わっています。しかし、中国はインフラ事業に関して50パーセント超の権益を渡せない制度になっているため、増やすのは難しいと考えており、現状維持程度ということです。
ただ、中国は大きなマーケットですので、今後も関係を維持しながら、またチャンスを狙いたいと思います。
質疑応答:再生可能エネルギーの安定供給に関する課題について
坂本:「カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでおり、今後も再生可能エネルギーを増やすというお話がありました。一方で、再生可能エネルギーだけで電力の安定供給ができるのかという課題や不安を持っている投資家も多いと思います。このあたりの御社の考えを教えてください」というご質問です。
水力はある程度コントロールしやすいと思いますが、自然のものですので、それ以外の部分での苦悩や工夫がありましたら教えてください。
菅野:再生可能エネルギーの中で、太陽光と風力は天候に左右されます。太陽光は夜間に発電ができません。そのような不安定性をカバーリングするためには、蓄電機能が必要になってくると思います。
蓄電機能の一番大きなものとして、揚水発電所があります。余った電気で水を下から上に汲み上げておき、電気が足りない時に上から落とす揚水発電が、蓄電機能として一番大きなものです。最近はバッテリーの開発も進んでいますので、揚水発電とバッテリーの事業にも取り組んでいきたいと思っています。
それでも、太陽光と風力での発電の割合が大きくなってくると変動が大きくなります。そのため、調整する機能が必要になります。それについては火力電源が一番使いやすいため、CO2を出さない火力電源にトランジションし、それを調整力として活用します。
原子力発電をある程度のベースとし、再生可能エネルギーを最大限に導入して、さらには火力電源で調整するということです。我々としてはこの3つとも必要だと考えているため、先ほどお話ししたロードマップにあるような取り組みを行っています。
質疑応答:豪州の炭鉱について
坂本:「豪州の炭鉱についてです。採炭量の減少が予想されるというお話もありますが、御社が持っている権益の残りの採掘できる年数や、業績への影響などのイメージを教えてください」というご質問です。
菅野:豪州の炭鉱の採掘期限は、残り十数年です。それを見越す一方で、私どもの火力電源では徐々に石炭の消費量は減っていくと思っています。
坂本:効率が良くなってくるということですね。
菅野:あるいは完全にCO2を減らすために、稼働を止める発電所も出てきます。そのようなことを踏まえ、石炭の生産と消費を両睨みしながらソフトランディングしたいと思っています。世界中でCO2を減らす取組みが進む中で、炭鉱の石炭の生産量もある程度の比率で減っていくことについては計算に入れています。
質疑応答:老朽化した発電所の売却益について
坂本:「老朽化した発電所を売却しているようですが、これにより生まれたキャッシュをどこに使いますか?」というご質問です。
菅野:現在、米国で所有していたガス火力発電所の売却手続きに入っています。いろいろ許認可がありますが、売却が実現してキャッシュが入手できたら、米国や豪州での再生可能エネルギーの開発に充てたいと思っています。先ほどお話しした株主還元についても一部検討した上で、新たな開発資金にしたいと思います。
質疑応答:今後の原子力発電所建設の構想について
坂本:原子力発電所について、自民党でも国民民主党でも推進が掲げられています。私個人としては、このあたりはスムーズに進んでいくと思っています。
今開発している大間原子力発電所は当然進めると思いますが、次の原子力発電所の構想を入れつつ事業を進めているのでしょうか? 将来の原子力発電所の立ち位置と御社のシェアの問題も含めて教えてください。
菅野:我々にとっては、大間原子力発電所が最初の原子力発電所になります。適合性審査にかなり時間を要しており、地元の方には「早くしろ、いつまでかかるのか」とお叱りも受けています。
そのため、まずは大間原子力発電所の適合性審査を終えて、工事を再開し、運転を開始します。これが最優先のため、そこから先については今のところ具体的に検討していません。
質疑応答:新しい分野への進出、投資、M&Aの可能性について
坂本:「新しい分野への進出や投資、M&Aの可能性を教えてください」というご質問です。
インフラ各社、特に通信はいろいろなシナジーがあるため、あまり関係なさそうな会社をM&Aしているところも見かけます。御社は本業に関わる部分の投資はもちろん行うと思いますが、M&Aはあまりイメージが湧きません。権益という意味ではあるかもしれませんが、そのあたりも含めて投資について教えてください。
菅野:実は2024年7月に豪州で1社を買収しています。これは豪州でリニューアブルエナジーを開発していた会社です。特にアジア・パシフィックでは、再生可能エネルギーに取り組む事業体が資金を必要としています。規模が小さくても非常に見込みのいいプロジェクトを行っている場合、M&Aの可能性はあると思います。
日本国内では、スタートアップで取り組んでいるところにシナジーが見出せることがあれば、我々も参画したいと思っています。
例えば水の事業です。水道も電力と並ぶインフラであり、息の長い事業です。あるいは、かなり先の課題になりますが、核融合です。こういった技術開発に取り組んでいる方に一部出資させていただいています。
私どもが持っている経営の特性や企業としての競争力が活かせる分野が電力以外にもあれば、日本国内でもスタートアップと力を合わせることはあると思います。
質疑応答:PFIなどの取り組みについて
坂本:御社はかなり早い段階から海外で水力や火力などいろいろな電力設備を作ってこられて、今後は作った後に売却する場合もあるといったお話がありました。日本国内でも海外でも、PFIなどではかなり活躍できるところだと思います。このあたりの取り組みについて教えてください。
菅野:例えば、浄水場などの水道事業をすでにPFIで行ってきたところもあります。海外でもいろいろなファイナンスの工夫をしないと、資金を集めるのは難しいところがありますので、それに関してはいろいろな意味ですでにノウハウを持っています。
事業に政府が関わったり、他の民間企業と一緒に行ったり、あるいは政府に土地や設備を用意してもらい運営だけ民間で行うといったいろいろなかたちが考えられます。
さらに、現在我々が行っているプロジェクトの中にいわゆるBOTスキームがあります。この場合、我々が建設して20年間運転した後、相手の政府にすべてトランスファーします。このように、いろいろなかたちでホストカントリーと関わりがある事業にも取り組みたいと思っています。
坂本:ありがとうございます。おもしろいお話が聞けたと思います。
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