◆アメリカ社会の実情を理解したトランプの勝利は必然
今回はまず事前の予想を覆してトランプ氏が大勝した米大統領選に触れないわけにはいかない。この結果がなぜ生じたのかを検証して、アメリカの現状を理解しなければ、今後の投資戦略などは立てようがないからだ。アメリカ国内の知人たちに改めて問いかけたところ、この結果は驚くべきものではないという返答が多かった。
何より物価が高すぎる。ロサンゼルスでは普通の定食やラーメン1杯が日本円にして1万円でハンバーガー1個が3000円。マクドナルドはもう少し安いがそれでもランチのセットが2000円。少し前は日本の2倍の物価だと言われていたが、いつの間にか日本の3倍以上に跳ね上がっている。
一方、多くのアメリカ人の給与はそれほど上がっていない。住宅購入費は高騰しているし、ローンの金利も高いまま。それでいて不法移民を優遇して国の補助金を注ぎ込んでいる。LGBTQへの対応も行き過ぎで、学校教育の現場まで混乱している。いい加減にしてほしい、というのが一般的なアメリカ人の意識だったのだ。
そうした実態を考えれば、ハリス氏の選挙戦はまったくピントが外れていた。最終盤に人気歌手を投入して無党派層にアピールしようとしたが、これなどは完全に逆効果だ。日々の生活が苦しくなっていると感じている多くの人々にとっては、やはり「民主党はセレブの党なんだ」と、アンチテーゼの思いしか湧かなかったのではないだろうか。
その意味では、テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏の嗅覚には敬服せざるを得ない。ご存じのように、いまの時代、SNSは多くの人々にとって欠かせない情報源になっている。陰謀論をはじめ、信ぴょう性の乏しい情報も溢れていることは確かだが、そこには大手メディアが報じない、庶民の本音も表れている。
例えば、トランプ氏は9月、世界中のセレブに児童買春を斡旋した容疑で収監され、2019年に獄中で自殺した富豪のジェフリー・エプスタインが持っていた顧客リストの調査、公開に意欲を示す発言をした。これは日本人にはあまり知られていないが、アメリカ人なら誰でも知っている関心の高いテーマで、いま、SNS上ではこのトランプ発言を後押しする投稿が飛び交っている。もし公表されれば、アメリカの大金持ち(民主党の支持者で大口献金者も多いと思われる)がどんなことをやっているのかが明らかになる"爆弾"とも言えるリストなのだ。
マスク氏がいち早く、トランプ氏支持を打ち出したのは、こうした社会の実情を敏感にかぎ取っていたからではないだろうか。その意味では、10月になってから自身がオーナーを務める「ワシントン・ポスト」紙でトランプ批判を封印したアマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏の行動も正しかった。リベラルな論調で知られる同紙では、この決定によって多くの記者や読者が離れていったとのことだが、それは些末なことに過ぎない。
◆トランプ政権になってアメリカは環境大国への道を進む?
ともあれ、今後、世界の秩序はトランプ氏を中心に、大きく変わっていく。民主党の政策に同調していたハイテク企業の経営者も、軌道修正を余儀なくされるだろうし、外交関係もこれまでの歴史的な経緯を無視して、トランプ流のディール外交が繰り広げられることになる。すでに「アメリカの半導体ビジネスを盗んでいる」として台湾に対して強硬な発言をしたことによって、台湾積体電路製造(TSMC)の株価が下落するなどの影響が出ている。
だが、半導体メーカーに関して言えば、台湾企業を冷遇してインテルやアドバンスト・マイクロ・デバイセズなどのアメリカ企業を厚遇するかと言えば、それは現在の技術力、生産能力の差から考えて無理があるだろうし、おそらくリアリストのトランプ氏もそのあたりの状況は分かっているのではないか。
したがって、あるとするならTSMCの3ナノメートル(nm)以下の最先端工場をアメリカに建設することを要求する。その代わり、アメリカは台湾防衛の義務を果たす、といった取引になるのではないだろうか。台湾とアメリカでは、人件費に大きな差があるため、あくまでTSMC次第だろうが、こうしたシナリオなら現実味がある。
要するに、企業にしても投資家にしても、これから始まる"トランプの時代"に早く慣れることが重要なのだ。そして、自国第一主義のトランプの時代に買うべきなのは、やはり米国株と言えるだろう。中でも大統領選挙の大功労者であるイーロン・マスク氏が何をするのかが焦点になる。トランプ政権はEV(電気自動車)の購入補助金を廃止すると思われるが、これによって、アメリカでEVを生産販売し続けることができる会社は、補助金なしでも黒字が維持できるテスラのみになる可能性がある。
知られているように、本来、トランプ氏は環境規制に否定的な主張を繰り返してきたが、テスラの事業が拡大してEVが全米に普及すれば、規制などをしなくてもあっという間に大都市の空気がきれいになるのではないか。トランプ氏は不必要な規制には反対で、本質的に自由放任主義者だが、皮肉なことに環境を重視しているはずの民主党時代より、環境大国化に向けた大きな成果を示すことができるかもしれない。一方で、エネルギー分野の規制緩和が進めば、石油や天然ガスなどの生産が増え価格も下がり、AI向けデータセンター運営に大量な電力が必要となるハイテク各社や半導体メーカーにもプラスに働くだろう。
問題なのはトランプ氏の高関税政策だが、公表しているように中国向けの関税を60%に、その他の国向けの関税を10~20%に引き上げ、さらに移民を抑制するとなると、短期的にはインフレが進み、長期金利も上昇していく恐れがある。これは米国経済にはもちろんネガティブだが、来年以降、トランプ政権が発足して様々なところで政策の効果が表れるとしたら、どうだろうか。
いま、アメリカには約1億6000万人の労働者がいて、その多くが低中所得者だが、トランプ氏が常々公言しているように彼らの所得を引き上げることができれば、個人消費に与える影響は大きい。この部分をポジティブに捉えるなら、セクターを問わず、米国企業の多くは恩恵を受けるだろう。
そう考えればダウ工業株30種平均やS&P500株価指数などの主要指数には投資妙味があるだろう。特に株価平均型のダウは、時価総額加重平均型のS&P500 より特定の銘柄への依存度が低いので、トランプ効果がどこに出るか確定できない現在の段階では有効なのではないだろうか。
◆やはり強かったアマゾンとグーグル、オラクルにも期待、対するアップルは
次に大統領選前に決算が出揃ったハイテク各社の状況を見ていこう。前提として言えるのは、アメリカ国民が民主党にノーを突き付けたいま、これまで民主党寄りだったハイテク企業が政治姿勢を修正しなければならないということ。アマゾンはぎりぎりで中立に転換し、マイクロソフトはもとから政治的には中立だった。あとは、マーク・ザッカーバーグCEOが民主党支持を鮮明にしていたメタ・プラットフォームズや、アップル、アルファベットがどう動いていくか。
アップルを除いて業績は各社ともいい。前回、2024年4-6月決算で不調だったアルファベットはクラウド・サービスが好調に転じ、広告事業の利益率が市場予想以上に上昇している。クラウド事業ではマイクロソフトも堅調で、アマゾンのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はやっぱり強い。さらにエヌビディアのAI半導体の供給量が増えていくにしたがって、オラクル、セールスフォース、IBMなどのクラウド・サービス市場で"ティア2"と呼ばれる、準大手クラスのクラウド事業も着実に成長し、各社ともシェアを徐々に広げてきている。決算後の株価の反応はまちまちだが、中長期的に見て、AI相場の中心となっているクラウド大手企業、準大手企業はいずれも今後の成長が期待できるだろう。
中でもアマゾンは、AWSの好調に加えてEC事業の海外部門、特に欧州や新興国で売上高が伸びている。物流改革によって前年同期は赤字だった同部門の営業利益率も3.6%程度まで改善してきている。アメリカの人口は約3億3000万人で、この市場はほぼ充足しているが、人口約4億5000万人のEU、人口6億7000万人以上のASEANなどはこれからシェア拡大をしていく段階で、とにかく同社の海外市場は伸びしろが大きい。AWSも来年、25年以降に各社が開発に取り組んでいるAIソフトが企業に導入されるステージに入るが、そうなるとさらに事業機会が拡大していくだろう。
マイクロソフトは今期の研究開発費が膨らんでいるため、営業利益の伸びが当初の市場期待より鈍いが、「コパイロット」は着実に普及している。ただし、生成AIは「Chat(チャット)GPT」だけではないということが顧客に浸透し始めていて、例えばクラウド大手の中では下位のグーグル(アルファベット)や、その下のオラクルのほうが、融通が利くと考える企業も増え始めているのではないか。AIを導入しようとしているのは大手企業だけでも何百、何千もあり、その分、AIに対するニーズも多様なものがある。クラウド・サービス最大手のAWSは様々な生成AIをメニューに揃えていることが大きな売りになっているが、「チャットGPT」以外にもグーグルの「Gemini(ジェミニ)」など、各社のAIを試したいという企業が増えているのではないだろうか。
アップルに関しては、そろそろ見切り時かもしれない。株価はそれほど下がっていないがこれは、5月に発表した自社株買いの効力が続いているためだ。まだ見切りが付けられないという人は、来年発表される2024年10-12月期の決算で、「iPhone16」の販売状況を確認してから判断してもいいかもしれない。
◆注目のエヌビディア決算、来期は市場予測を大きく上回る可能性も
さて、最後に明日(11月20日:現地時間)未明に発表されるエヌビディアの2024年8-10月期(25年1月期第3四半期)決算について述べておきたい。今回の決算発表では来期のガイダンス(業績予測)は発表しないだろうが、おそらく来期、2026年1月期の売上高はかなり期待できるのではないだろうか。現時点の市場予測である売上高約50%増に対して、私の見立てでは50%増からそれ以上の2倍増というかなり高い売上高の伸びも期待できるのではないかと見ている。
足もとではデータセンターを増設する際の電力問題があるが、同社の次世代チップ、「Blackwell(ブラックウェル)」を搭載した「B200」は、リアルタイム推論処理性能が現行チップ、「H100」の15倍になると言われている。そこで「B200」をはじめとした「ブラックウェル」シリーズを待っている顧客が相当数いると考えられるのだ。「ブラックウェル」の潜在需要は、市場が織り込んでいるよりかなり大きいのではないだろうか。もちろん、金利動向には注意が必要だが、それさえクリアすれば、現在の140ドル前後の株価はまだまだ割安だろう。
エヌビディアを中心としたAI相場は来年以降も続いていくと思われる。ただし、時価総額トップの同社に好材料が出れば、ほかのAI関連銘柄が売られる場合があるので、そこには注意が必要だ。足もとで、フィラデルフィア半導体株指数は軟調に推移しているが、ひょっとしたら、この指数に連動したETFや投信を買うよりは、エヌビディアか同社関連の銘柄に絞って投資するほうが得策かもしれない。AIバブル崩壊といった悲観論もあるが、同社に関しては、今後も高い成長が見込まれる可能性が圧倒的に高い。ボラティリティ(株価変動率)の大きさを指摘する意見もある。だが、もはや同社はハイリスク銘柄とは言えないのだ。
【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト
1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998?2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。
株探ニュース
今回はまず事前の予想を覆してトランプ氏が大勝した米大統領選に触れないわけにはいかない。この結果がなぜ生じたのかを検証して、アメリカの現状を理解しなければ、今後の投資戦略などは立てようがないからだ。アメリカ国内の知人たちに改めて問いかけたところ、この結果は驚くべきものではないという返答が多かった。
何より物価が高すぎる。ロサンゼルスでは普通の定食やラーメン1杯が日本円にして1万円でハンバーガー1個が3000円。マクドナルド
一方、多くのアメリカ人の給与はそれほど上がっていない。住宅購入費は高騰しているし、ローンの金利も高いまま。それでいて不法移民を優遇して国の補助金を注ぎ込んでいる。LGBTQへの対応も行き過ぎで、学校教育の現場まで混乱している。いい加減にしてほしい、というのが一般的なアメリカ人の意識だったのだ。
そうした実態を考えれば、ハリス氏の選挙戦はまったくピントが外れていた。最終盤に人気歌手を投入して無党派層にアピールしようとしたが、これなどは完全に逆効果だ。日々の生活が苦しくなっていると感じている多くの人々にとっては、やはり「民主党はセレブの党なんだ」と、アンチテーゼの思いしか湧かなかったのではないだろうか。
その意味では、テスラ
例えば、トランプ氏は9月、世界中のセレブに児童買春を斡旋した容疑で収監され、2019年に獄中で自殺した富豪のジェフリー・エプスタインが持っていた顧客リストの調査、公開に意欲を示す発言をした。これは日本人にはあまり知られていないが、アメリカ人なら誰でも知っている関心の高いテーマで、いま、SNS上ではこのトランプ発言を後押しする投稿が飛び交っている。もし公表されれば、アメリカの大金持ち(民主党の支持者で大口献金者も多いと思われる)がどんなことをやっているのかが明らかになる"爆弾"とも言えるリストなのだ。
マスク氏がいち早く、トランプ氏支持を打ち出したのは、こうした社会の実情を敏感にかぎ取っていたからではないだろうか。その意味では、10月になってから自身がオーナーを務める「ワシントン・ポスト」紙でトランプ批判を封印したアマゾン・ドット・コム
◆トランプ政権になってアメリカは環境大国への道を進む?
ともあれ、今後、世界の秩序はトランプ氏を中心に、大きく変わっていく。民主党の政策に同調していたハイテク企業の経営者も、軌道修正を余儀なくされるだろうし、外交関係もこれまでの歴史的な経緯を無視して、トランプ流のディール外交が繰り広げられることになる。すでに「アメリカの半導体ビジネスを盗んでいる」として台湾に対して強硬な発言をしたことによって、台湾積体電路製造(TSMC)
だが、半導体メーカーに関して言えば、台湾企業を冷遇してインテル
したがって、あるとするならTSMCの3ナノメートル(nm)以下の最先端工場をアメリカに建設することを要求する。その代わり、アメリカは台湾防衛の義務を果たす、といった取引になるのではないだろうか。台湾とアメリカでは、人件費に大きな差があるため、あくまでTSMC次第だろうが、こうしたシナリオなら現実味がある。
要するに、企業にしても投資家にしても、これから始まる"トランプの時代"に早く慣れることが重要なのだ。そして、自国第一主義のトランプの時代に買うべきなのは、やはり米国株と言えるだろう。中でも大統領選挙の大功労者であるイーロン・マスク氏が何をするのかが焦点になる。トランプ政権はEV(電気自動車)の購入補助金を廃止すると思われるが、これによって、アメリカでEVを生産販売し続けることができる会社は、補助金なしでも黒字が維持できるテスラのみになる可能性がある。
知られているように、本来、トランプ氏は環境規制に否定的な主張を繰り返してきたが、テスラの事業が拡大してEVが全米に普及すれば、規制などをしなくてもあっという間に大都市の空気がきれいになるのではないか。トランプ氏は不必要な規制には反対で、本質的に自由放任主義者だが、皮肉なことに環境を重視しているはずの民主党時代より、環境大国化に向けた大きな成果を示すことができるかもしれない。一方で、エネルギー分野の規制緩和が進めば、石油や天然ガスなどの生産が増え価格も下がり、AI向けデータセンター運営に大量な電力が必要となるハイテク各社や半導体メーカーにもプラスに働くだろう。
問題なのはトランプ氏の高関税政策だが、公表しているように中国向けの関税を60%に、その他の国向けの関税を10~20%に引き上げ、さらに移民を抑制するとなると、短期的にはインフレが進み、長期金利も上昇していく恐れがある。これは米国経済にはもちろんネガティブだが、来年以降、トランプ政権が発足して様々なところで政策の効果が表れるとしたら、どうだろうか。
いま、アメリカには約1億6000万人の労働者がいて、その多くが低中所得者だが、トランプ氏が常々公言しているように彼らの所得を引き上げることができれば、個人消費に与える影響は大きい。この部分をポジティブに捉えるなら、セクターを問わず、米国企業の多くは恩恵を受けるだろう。
そう考えればダウ工業株30種平均やS&P500株価指数などの主要指数には投資妙味があるだろう。特に株価平均型のダウは、時価総額加重平均型のS&P500 より特定の銘柄への依存度が低いので、トランプ効果がどこに出るか確定できない現在の段階では有効なのではないだろうか。
◆やはり強かったアマゾンとグーグル、オラクルにも期待、対するアップルは
次に大統領選前に決算が出揃ったハイテク各社の状況を見ていこう。前提として言えるのは、アメリカ国民が民主党にノーを突き付けたいま、これまで民主党寄りだったハイテク企業が政治姿勢を修正しなければならないということ。アマゾンはぎりぎりで中立に転換し、マイクロソフト
アップルを除いて業績は各社ともいい。前回、2024年4-6月決算で不調だったアルファベットはクラウド・サービスが好調に転じ、広告事業の利益率が市場予想以上に上昇している。クラウド事業ではマイクロソフトも堅調で、アマゾンのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はやっぱり強い。さらにエヌビディア
中でもアマゾンは、AWSの好調に加えてEC事業の海外部門、特に欧州や新興国で売上高が伸びている。物流改革によって前年同期は赤字だった同部門の営業利益率も3.6%程度まで改善してきている。アメリカの人口は約3億3000万人で、この市場はほぼ充足しているが、人口約4億5000万人のEU、人口6億7000万人以上のASEANなどはこれからシェア拡大をしていく段階で、とにかく同社の海外市場は伸びしろが大きい。AWSも来年、25年以降に各社が開発に取り組んでいるAIソフトが企業に導入されるステージに入るが、そうなるとさらに事業機会が拡大していくだろう。
マイクロソフトは今期の研究開発費が膨らんでいるため、営業利益の伸びが当初の市場期待より鈍いが、「コパイロット」は着実に普及している。ただし、生成AIは「Chat(チャット)GPT」だけではないということが顧客に浸透し始めていて、例えばクラウド大手の中では下位のグーグル(アルファベット)や、その下のオラクルのほうが、融通が利くと考える企業も増え始めているのではないか。AIを導入しようとしているのは大手企業だけでも何百、何千もあり、その分、AIに対するニーズも多様なものがある。クラウド・サービス最大手のAWSは様々な生成AIをメニューに揃えていることが大きな売りになっているが、「チャットGPT」以外にもグーグルの「Gemini(ジェミニ)」など、各社のAIを試したいという企業が増えているのではないだろうか。
アップルに関しては、そろそろ見切り時かもしれない。株価はそれほど下がっていないがこれは、5月に発表した自社株買いの効力が続いているためだ。まだ見切りが付けられないという人は、来年発表される2024年10-12月期の決算で、「iPhone16」の販売状況を確認してから判断してもいいかもしれない。
◆注目のエヌビディア決算、来期は市場予測を大きく上回る可能性も
さて、最後に明日(11月20日:現地時間)未明に発表されるエヌビディアの2024年8-10月期(25年1月期第3四半期)決算について述べておきたい。今回の決算発表では来期のガイダンス(業績予測)は発表しないだろうが、おそらく来期、2026年1月期の売上高はかなり期待できるのではないだろうか。現時点の市場予測である売上高約50%増に対して、私の見立てでは50%増からそれ以上の2倍増というかなり高い売上高の伸びも期待できるのではないかと見ている。
足もとではデータセンターを増設する際の電力問題があるが、同社の次世代チップ、「Blackwell(ブラックウェル)」を搭載した「B200」は、リアルタイム推論処理性能が現行チップ、「H100」の15倍になると言われている。そこで「B200」をはじめとした「ブラックウェル」シリーズを待っている顧客が相当数いると考えられるのだ。「ブラックウェル」の潜在需要は、市場が織り込んでいるよりかなり大きいのではないだろうか。もちろん、金利動向には注意が必要だが、それさえクリアすれば、現在の140ドル前後の株価はまだまだ割安だろう。
エヌビディアを中心としたAI相場は来年以降も続いていくと思われる。ただし、時価総額トップの同社に好材料が出れば、ほかのAI関連銘柄が売られる場合があるので、そこには注意が必要だ。足もとで、フィラデルフィア半導体株指数は軟調に推移しているが、ひょっとしたら、この指数に連動したETFや投信を買うよりは、エヌビディアか同社関連の銘柄に絞って投資するほうが得策かもしれない。AIバブル崩壊といった悲観論もあるが、同社に関しては、今後も高い成長が見込まれる可能性が圧倒的に高い。ボラティリティ(株価変動率)の大きさを指摘する意見もある。だが、もはや同社はハイリスク銘柄とは言えないのだ。
【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト
1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998?2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。
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