・現在、生物多様性が脅かされている。森林伐採や都市化によって生息地が失われている。気温の上昇や異常気象が生物の生息環境に影響を与えている。化学物質やプラスチックごみによる環境汚染が生物に悪影響を及ぼしている。外来種が在来種を駆逐し、生態系のバランスを崩している。
・人口増加の影響も大きい。人口が増加することで、住宅地や農地の拡大が必要となり、森林や湿地などの自然生息地が破壊されている。増加する人口に対応するために、木材、水、鉱物などの自然資源が過剰に利用され、生態系のバランスが崩れている。
・人口増加に伴い、廃棄物や排水、化学物質の排出が増え、これが生物多様性に悪影響を及ぼしている。人口増加はエネルギー消費の増加を招き、温室効果ガス(GHG)の排出が増加している。これにより気候変動が進み、生物の生息環境が変化し、絶滅のリスクが高まっている。
・TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然環境や生物多様性に与える影響を評価し、その情報を開示するための国際的な枠組みである。企業が自然資本に依存している部分や、それに与える影響、リスク、機会を理解し、報告することを目的としている。
・TNFDは、気候変動に焦点を当てたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と連動しており、より広範な自然環境にフォーカスする。TNFDの枠組みを採用することで、企業は自然環境への影響を減らし、生物多様性の保全に貢献し、自然からのリスクを避けること目指す。
・TCFDは、4つの要素で構成されている。①ガバナンス:気候関連リスクと機会に対する組織のガバナンス構造、②戦略:気候関連リスクと機会が事業、戦略、財務計画に与える影響、③リスク管理:気候関連リスクの識別、評価、管理方法、④指標と目標:気候関連リスクと機会を評価・管理するための指標と目標、である。多くの日本企業が既にTCFDに賛同し、気候関連情報の開示を進めている。
・TNFDも同様で、主なポイントは、1)自然資本の評価:企業は、自社の活動が自然環境にどのように依存し、影響を与えているかを評価する。2)情報開示:評価結果を、透明性を持って開示し、ステークホルダーに報告する。3)リスク管理:自然関連リスクを適切に管理し、ビジネス戦略に組み込む。4)機会の活用:自然資本の保全や再生に貢献することで、新たなビジネスチャンスを創出する。
・そもそも自然資本とは、自然環境が提供する資源やサービスを指す。自然資本は、①資源の供給:原材料やエネルギー源として利用、②生態系サービス:水の浄化、土壌の肥沃化、気候の調整、③リスク管理:自然災害や気候変動によるリスクの軽減、を含む。
・この自然資本は、財務資本と相互に関連しており、持続可能な経営を実現するためには両者のバランスが問われる。自然資本を適切に管理することで、長期的な財務リスクを軽減し、企業価値を向上させることができる。また、自然資本の保全に投資することで、新たなビジネスチャンスを創出し、持続可能な成長を実現することもできる。
・その中で、生物多様性の保全は、企業の持続可能な成長とリスク管理に直結している。多くの企業は、自然資源に依存している。生物多様性は、水の浄化、土壌の肥沃化、気候の調整などの生態系サービスを提供する。
・生物多様性とは、地球上の生物において、1)遺伝的多様性:同じ種内での遺伝子の違い、2)種の多様性:異なる種の存在、3)生態系の多様性:異なる生態系の存在、が確保されることである。多様な生物が存在することで、エコシステムがバランスを保ち、環境の変化に対する適応力が高まる。
・生物多様性の恩恵として、多様な生物が存在することで、さまざまな食料を得ることができる。また、多くの医薬品は、植物や動物から抽出された成分を基に作られている。生物多様性は、水の浄化、土壌の肥沃化、気候の調整などの生態系サービスを提供する。さらに、自然の景観や生態系は、私たちの文化や精神的な豊かさにも寄与している。
・生物多様性保全の取り組みでは、ネイチャーポジティブが問われる。ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せる取り組みである。自然環境への負の影響を最小限に抑え、生物多様性を回復させる。これは、経済活動と自然環境保全の両立を図るための新たなアプローチである。
・企業がネイチャーポジティブに取り組むことで、1)自然関連のリスクを低減し、事業の安定性を高めることができる。2)持続可能な製品やサービスの開発を通じて、新たな市場を開拓することができる。3)環境に配慮した企業としてのブランド価値が向上し、消費者や投資家からの信頼を得ることができる。
・これを実現する4つのステップとして、1)自社と生物多様性の関係性を評価し、影響を把握、2)具体的な目標を設定し、実行計画を策定、3)設定した計画を実行し、進捗をモニタリング、4)結果を報告し、必要に応じて計画を見直す、ことが重要である。
・企業価値の評価に当たっては、第1に、自社の企業価値創造にとって、自然資本をいかに位置付けているか。その目標の位置づけを知りたい。第2に、将来達成したい目標に対して、どのように取り組んでいるか。その戦略を知りたい。第3に、戦略遂行が財務に与える影響について、リスクマネジメントの観点から知りたい。そして、第4に、それらを支えるガバナンスが確立されているか、を確認したい。
・その上で、企業価値への貢献を、定性的・定量的に把握したい。既に先進的企業から始まっているが、いずれ大きなトレンドとなろう。中堅企業・ベンチャー企業にとっては、直接関係ないと見られがちであるが、そうでもない。自社のパーパス(存在意義)に照らして、自然資本との関りにどう応えるか。納得できる活動を実践する企業に投資をしたい。
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