井関農 Research Memo(1):2023年12月期は増収減益、海外事業が引き続き好調

配信元:フィスコ
投稿:2024/04/10 14:31
*14:31JST 井関農 Research Memo(1):2023年12月期は増収減益、海外事業が引き続き好調 ■要約

井関農機<6310>は、「農家を過酷な労働から解放したい」という理念の下、1926年8月に創立された愛媛県松山市に本社を置く、農業機械総合専業メーカーである。日本やアジアでは、農家、大規模農業法人などを中心に、欧州や北米では、景観整備業者、ホビー農家、一般消費者などを対象にトラクタ・乗用芝刈機などの整地用機械、コンバインなどの収穫調製用機械、田植機・野菜移植機などの栽培用機械の開発・製造・販売・アフターサービスを行っているほか、作業機・部品等の販売、OEMによる製品の販売など多岐にわたって事業を展開している。日本農業に関しては、耕耘から稲刈り、乾燥調製まですべてのフェーズにおいて製品を提供していることが特徴だ。

同社の強みは、「技術力」「営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」の3つである。特許の分野別公開数・登録数(2000~2006年までは「農水産」、2007年からは「その他特殊機械」)は2000年以降、常に上位に位置している(2000~2017年・2019年は1位、2018年・2020~2022年は2位)。また、近年では農機の販売に加えて、サービス面の強化に注力している。顧客である農家にとって有用な情報を自社ホームページにおいて発信、さらに営農ソリューション・ポータルサイト「Amoni」を2021年に開設し、気象情報や生育予測に関するデータの提供なども行っている。また、2015年には農業の新しい価値を創造するために「夢ある農業総合研究所」(夢総研)を設立した。行政・研究機関・大学・企業など外部のステークホルダーと連携し、スマート農業の研究・実証・普及活動を行っている。

これら同社の3つの強みと、「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」という中期経営計画における2つの基本戦略を組み合わせ、2027年には連結営業利益率5%以上の目標達成を目指す。

2023年12月期末時点の資本金は、23,344百万円、グループ全体の従業員数は5,457名、関係会社は、連結子会社20社(国内販売会社9社、製造関連会社6社、その他5社)と持分法適用関連会社1社となっている。

1. 2023年12月期の業績概要
2023年12月期の連結業績は、売上高が前期比2.0%増の169,916百万円、営業利益が同36.2%減の2,253百万円、経常利益が同44.4%減の2,092百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同99.3%減の29百万円となった。国内、海外事業がいずれも増収だったことを受け、連結ベースの売上高は過去最高を更新した。特に海外に関しては欧州事業が引き続きけん引役となり、3期連続で過去最高売上を更新した。国内に関しては、注力分野である部品・修理収入などのメンテナンス関連が伸長したことが増収に寄与した。利益面に関しては、生産量の減少による操業度の低下や販管費の増加などを受け営業減益となった。2023年12月期の業績に関しては、中期経営計画の各種施策に取り組んできたものの、収益性改善のための構造改革に対する取り組みが不十分で、利益面では厳しい結果となった。これを受け同社は、短・中期で抜本的構造改革及び成長戦略を断行していく「プロジェクトZ」を新たに発足した。まずは、2024年7月の製造会社の経営統合を皮切りに、2025年までの短期間で聖域なき抜本的事業構造改革を断行していく考えだ。

2. 2024年12月期の業績見通し
2024年12月期の連結業績は、売上高が前期比0.0%増の170,000百万円、営業利益が同11.3%減の2,000百万円、経常利益が同52.2%減の1,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が400百万円(前期は29百万円の利益)を見込んでいる。国内事業に関しては、需要は弱含みで推移するものの、価格改定効果に加えて、大型農機と新商品の拡販に注力することにより増収を見込んでいる。海外事業に関しては、全体では減収を見込んでいるものの、北米事業の増収を見込んでいるほか、欧州事業が引き続き堅調に推移する見通しである。利益面に関しては、資産効率向上を目的とした生産調整の継続や人件費、物流費など販管費の増加が影響する見込みだ。先述の通り、2024年はプロジェクトZの初年度であり、製造会社の経営統合など、抜本的構造改革を断行していく方針である。

3. 中期経営計画
同社は中期経営計画で定めた「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」の2つの基本戦略の下、「選択と集中」「ビジネスモデル転換」「収益性改善」「ESG」という4つの切り口から事業活動の変革を推進してきた。2021年12月期の初年度から各種施策を着実に実行してきたものの、主に資産効率と収益性向上を目的とした事業構造改革に対する取り組みが不十分で、売上高に左右されることなく利益を確実にあげることができる事業構造への転換は道半ばである。そこで同社は2024年2月、「プロジェクトZ」を新たに発足し、改めて短・中期の時間軸のなかで、資産効率と収益性を向上させながら成長を加速させるための具体的な施策を公表した。「生産最適化」「開発最適化」「国内営業深化」という3つの切り口から聖域なき事業構造改革を断行する考えだ。これにより、2027年12月期に連結営業利益率5%以上、ROE8%以上、DOE2%以上、PBR1倍以上の達成を目指す。

■Key Points
・2023年12月期は国内・海外ともに増収も、営業減益
・欧州事業、国内メンテナンスがけん引役として好調
・事業構造の転換を図るために「プロジェクトZ」を発足し、短・中期で抜本的構造改革を断行する方針

(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)

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配信元: フィスコ

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