対話をいかに

著者:鈴木 行生
投稿:2023/12/21 10:54

・企業は「投資家との対話」を、投資家は「企業との対話」を求めている。あるいは、もっと対話せよ、と要求されている。IR活動において、対話は当たり前である。でも、CGC(コーポレートガバナンス・コード)、SSC(スチュワードシップ・コード)が設定されて以来、対話(エンゲージメント)のレベルアップが問われている。

・通常は、何を対話するのか、という中身が議論の中心であるが、ここでは対話のやり方、方式、資質の鍛え方について考えてみたい。

・企業のプレゼンを聴いていると、演台の前に立って、スライドを映しながら、30~60分、一方的に話していることが多い。準備された原稿を読んでいる経営者もいる。スライドをみると、パワーポイントに文字や図表や絵がいっぱい入っている。話す言葉は一部だけなので、スライドを見て分かれ、というスタンスをとっている。

・話す方も聞く方も、日本ではこのやり方に慣れている。このタイプの説明会方式は、伝えたいことを一方的に分かってほしいというやり方で、その後の質疑も対話になっていない。

・Q&Aセッションでは、事前に集めた質問から始めることも多い。事前質問は既に伝えてあるから、準備した内容をそつなく説明することが多い。

・米国で経営者のプレゼンをみると、演台前ではなく、ステージに立って、動き回りながら話している。ステージから語りかけている。スライドもシンプルな文字、図表、絵で、語る言葉を印象づけるように工夫されている。

・プレゼン資料をみると、日本はそのまま資料として使えるが、米国ではプレゼン資料だけでは、中身がよく分からない。語る言葉に動きをおいている。だから、プレゼンがおもしろい。

・日本でも、最近は米国型のプレゼン方式が増えてきた。9月に催された日立の「社会イノベーションフォーラム」での小島社長のプレゼン、10月の「ソフトバークワールド」での孫会長のプレゼンは、米国スタイルであった。

・パネルディスカッションはどうか。モデレータ(司会進行役)と3人のパネラーがいるとして、1)まず自己紹介、2)テーマ1について1人ずつ、3)テーマ2についてまた1人ずつ、と話して40分が過ぎてしまう。

・そこから議論しようにも時間が足らないし、論点もしぼりにくい。よって、対話というより、3人のパネラーの意見表明に終わってしまうことが多い。

・ここでも、モデレータが対話に慣れていると、いきなり本題に入って論点を聞いていく。事前質問があったとしても、それをベースにしながら、発言の中から具体的な課題を取り出して、次のパネラーにつなげていく。

・パネラーが答えた後に、その人自身が疑問に思ったことを次のパネラーに直接ぶつけていく。こういう場面を許容しつつ、モデレータがうまく進行させると、話がおもしろくなってくる。

・ラージミーティング、スモールミーティング、1対1のミーティングにおいて、やはり少人数になるほど、話の中身は濃くなってくる可能性が高い。だが、これは一般論で、経営者と投資家の場合、互いの見識と問題意識にギャップがあると、少人数になっても、話がうまく進まない。

・例えば、経営者は投資家と話していて、スタンスの違いから分かってくれないと思ってしまう。投資家は、自らの質問に対して、的確な答えが用意されていないと思ってしまう。

・そうではなく、互いの話が弾んで、新しい気付きや発想、認識が生まれてくれば、今回のミーティングはよかった、インフォーマティブであったとなろう。

・最近、子どもに関する2つの著作を読んだ。1つは、『すべての子どもに「話す力」を(1人ひとりの未来を拓く「イイタイコト」の見つけ方)』(竹内明日香著)である。子どもの可能性は、プレゼン力で開花し、「伝わった」は一生の自信になる、と述べている。

・もう1つは、『子どもの遊びを考える、(「いいこと思いついた!」から見えてくること)』(佐伯胖著)である。遊び=自発的活動というのは本当か、という論点から遊びの本質の新しい視点を追求している。

・竹内氏は、話す力は、①考える力、②伝える力、③見せる力、から成り立つので、言いたいことをみつけ、伝えるには調べて、選んでつなげていく。そのために広げて、深めていく。こうした活動を実践している。

・確かに、私たちも同じことをしっかりやる必要がある。声を出して、練習することが大事である。英語のプレゼンになると、何10回も練習するとすれば、日本語でも同じで、ブラッシュアップが必須である。

・異なる立場の人と話す時に、どのようなスタンスや態度をとるか。筆者の場合は十分準備した上で、聞きにくいことでも忖度せずに、単刀直入に聞く。もってまわった言い方はしない。言い訳はしない。明るく、にこやかに、ズバット聞く。そうすると、相手は待ってましたとなるか、そこを聞くかと嫌な顔をするか。ここからがスタートである。

・対話から、新しいアイデアが生まれそうである。「いいこと思いついた!」のいいことは、いつ生まれるのか。遊びは面白い。面白いから没入して夢中になる。そうするとまた何か思いつく。

・能動的か受動的か、という二項対立ではなく、子どもの遊びには中道的なスタンスがあるという。例えば、見るは能動的、見られるは受動的、これに対して、見えているは中道的である。「やる、やらせる」「する、される」ではない別の場がありうる。場を盛り上げる(能動)ではなく、場が盛り上がる(中道)という動きが出てくると楽しい。

・仕事心は、やり遂げたいことをどうやって、を追求する。遊び心は、遊んでいるプロセスが面白い。仕事が結果だけに拘るなら苦役になる。仕事をやっている行為に価値(よさ)があれば、ワクワク感が出てくる、と佐伯先生は述べる。

・ワッサーマンの「まじめな遊び」によると、1)遊びが生成的であると、それでどうなる、と新たな問いが次々に生成されていく。2)想定外の不都合な結果が生じても受容する。3)そもそも遊びに失敗は存在しない。

・4)正解、不正解を判定しない。想定外は新たなチャレンジを生む。5)何をどうするかは、自分、自分たちで自律的に決める。6)まずは体を動かしてやってみる。要は、心地良いかどうかであるという。

・対話が盛り上がるには、仕事心に遊び心が入って、価値創造のストーリーを探求していくことであろう。こうした対話を楽しみたいものである。そのための鍛錬にぜひ力を入れてほしい。

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配信元: みんかぶ株式コラム