【QAあり】クラレ、独創的な技術で世界シェアNo.1の多様な製品群を創出 グローバルでの更なる事業拡大を目指す
会社概要 (2022年12月31日現在)
滝沢慎一氏(以下、滝沢):みなさま、こんにちは。株式会社クラレ経営企画室IR・広報部の滝沢と申します。本日は当社の会社紹介およびIRへの取り組みの説明をご視聴いただき、誠にありがとうございます。
当社は株式欄の業種分類では「化学」に属する素材メーカーです。みなさまの生活の身近なところに当社の素材が多く使われていますが、なかなか具体的にはイメージできない方も多いと思います。
本日は、クラレがどのような会社で、どのように価値を創造し、今後どのような会社になろうとしているのかをお伝えします。当社への理解を深めていただく機会となれば幸いです。限られた時間ではありますが、最後までよろしくお願いいたします。
当社は1926年に岡山県倉敷市で、当時の先端技術であったレーヨン繊維の企業化を目的に設立され、創業当初は合成繊維を中心に事業を展開してきました。その後、合成繊維の開発で培った合成化学・高分子化学の独自技術をベースに、事業ポートフォリオの強化・入れ替えを進めてきました。
現在は樹脂、化学品、活性炭、繊維などを製造・販売するスペシャリティ化学メーカーとして、日本のみならず世界31ヶ国で事業を展開するグローバルカンパニーとなっています。
クラレのルーツ
滝沢:当社の礎を築いたのは、初代社長の大原孫三郎と第二代社長の大原總一郎です。この2人の共通点は「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」の実践であり、困難にも立ち向かい、実現していく強い思いでした。現在も企業ステートメントを「私たちの使命」とし、この信念を継承しています。
初代社長の孫三郎は、事業を営みながら、従業員の労働環境の改善、医療福祉の充実、地域住民や地域社会への貢献など、現在でいえば幅広いステークホルダーに目を向けた、CSRの先駆けとなるような理念に基づいた経営を行っていました。また、孫三郎は地域住民の生活の質の向上を目指し、倉敷の地に大原美術館や倉敷中央病院を設立しています。
第二代社長の總一郎は、第2次世界大戦後の物資が不足していた時代に、輸入に頼らず、当時日本にあった原料のみを用いて、初の純国産の合成繊維となるビニロンの事業化を実現しました。その後、天然皮革に代わる人工皮革「クラリーノ」を開発・事業化するなど、事業活動を通じて社会的課題の解決を図ることにこだわってきました。
このように、当社は創業以来、一貫して社会課題や環境課題に正面から取り組んでおり、現在のクラレグループの独創性、チャレンジ精神へとつながっています。
独創性が生んだクラレの幅広い製品
滝沢:当社製品の多くは、中間素材として使用されています。そのため、表に出ることは少ないものの、実は身の回りのさまざまな最終製品に使われています。
スライドでは、当社の独創性のある製品をご紹介しています。当社は独自の技術力で、世の中になかった製品を生み出してきました。そのため、世界No.1のシェアの製品を数多く持ち、これらは全社の売上高の約6割を占めています。また、先ほどもお伝えしたとおり、「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」の実践がこのような業績につながっています。これらの製品の使用用途については後ほどご説明します。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):視聴者に御社のビジネスの全体像をつかんでいただきたいと思います。まずはスライドに記載の4つのセグメントについて、売上高・営業利益の構成を教えてください。
滝沢:4つの中で一番大きなセグメントは、スライド左側のビニルアセテートセグメントです。2022年度の実績は、売上高が全社の約50パーセント、営業利益が全社の70パーセント程度を占めています。
次いで機能材料セグメントが大きく、売上高が全社の約20パーセント、営業利益は全社の10パーセント程度でした。イソプレンセグメントと繊維セグメントは同程度の売上高と営業利益であり、それぞれ売上高は全社の約10パーセント、営業利益は全社の約5パーセントを占めています。
ビニルアセテートセグメントは当社の主要なセグメントとして、これからますます強化していきますが、それ以外のセグメントについても今後の事業拡大に向け、積極的な投資を行っていきます。
坂本:売上高、営業利益で大きなウエイトを占めているビニルアセテートセグメントの強みを大まかに教えてください。
滝沢:ビニルアセテートセグメントにはいくつか商品がありますが、強みになっているのは、出発点となるポバール樹脂、そしてさらにその原料である酢酸ビニルモノマーから自社で生産していることです。酢酸ビニルモノマーは外部に販売はしていませんが、原料から自社で手がけ、ポバール樹脂が川下の製品群にバリューチェーンとしてつながっていることが強みとなっています。
歴史的には日本でスタートしていますが、海外にも自社で設立もしくは買収した拠点があり、日米欧でグローバルに展開しています。コロナ禍でサプライチェーンが混乱した時期もありましたが、適地生産により安定供給することができ、BCPの観点からもお客さまに評価いただいています。こちらも当社の強みだと考えています。
坂本:近年、伸びている製品群があれば教えてください。
滝沢:ビニルアセテートセグメントでいえば、No.1シェアの水溶性ポバールフィルムがあります。スライドの写真にあるとおり、洗濯用洗剤の個包装パッケージに使われている、水に溶けるフィルムです。
個包装洗剤を販売しているメーカーはいくつかありますが、当社はほぼすべてのメーカーに納入しています。コロナ後の景気動向により現在は少し落ち着いているものの、年率10パーセント程度伸びている、非常に成長性の高い商品です。
坂本:非常によくわかりました。どのような経緯で、現在の4つのポートフォリオになったのか、事例があれば教えてください。
滝沢:冒頭の会社説明でもお話ししましたが、当社はポバール樹脂を原料に、繊維セグメントに記載のビニロンを世界で初めて事業化しました。
当初はビニロンを中心とする繊維製品を製造するメーカーでしたが、ポバール樹脂を自社で作っていたことからビニルアセテートセグメントを強化しました。そして、そこで培ったさまざまな合成技術を使い、イソプレン等の別のケミカル製品の製造・販売に進出したという流れがあります。
また、機能材料セグメントには活性炭がありますが、こちらも売上規模が比較的大きいものです。
坂本:活性炭は浄水器などに使われていると思いますが、どのような方法があり、どのように取り組んでこられたのかを、大まかに教えてください。
滝沢:活性炭の代表的な使用例として浄水器を挙げていただきましたが、我々は家庭用の浄水器だけでなく、家庭にきている水道水も浄化しています。量でいえば、地方自治体が管理している浄水場などで使用されているものが圧倒的に多い状況です。
坂本:たくさん使うからですね。
滝沢:おっしゃるとおりです。また、工場で発生する排ガスから有毒物質を除去したり、大気を浄化したりする用途にも多く使われます。その他にも下水処理等、非常に幅広く使われています。
坂本:イメージがだいたいつかめました。
製品紹介-身の回りのクラレ製品-
滝沢:自動車で使用されている当社製品についてです。数多くあるため、代表的なものをいくつかご紹介します。
まずは2番のPVBフィルム「トロシフォル」です。PVBはポリビニルブチラールという化学物質の略で、自動車のフロントガラスの中間膜に用いられる強靭で透明なプラスチックです。事故などでフロントガラスが割れると非常に危険なため、ガラスが割れてもひびが入るだけで飛散しないように、このPVBフィルムが補強用の中間膜として用いられています。
運転する方の安全性向上のために使われていますが、最近では、同時に熱や音を遮断する効果がある銘柄や、フロントガラスにいろいろな情報が投影される「ヘッドアップディスプレイ」に対応した銘柄など、高機能な製品も増えています。また、自動車のフロントガラス以外では、地震の際などにガラスが割れて飛び散らないように、ビルなどの建築物のガラスにも使われています。
5番の耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」は、世界で当社しか生産していないエンジニアリングプラスチックです。優れた耐熱性や寸法安定性など、バランスが取れた性能が評価され、高温・高電圧にさらされる電気自動車のバッテリー周りなどにも採用されています。今後は自動車のEV化に伴い、拡大が期待されています。
ちなみに、「ジェネスタ」は近年の需要増を受け、2022年までタイで新プラントの建設を進めていました。2023年の年初より稼働開始し、これから生産・販売を拡大していきたいと考えています。
15番の液状ゴム「クラプレン」は、タイヤの改質剤として使われる液状ゴムで、添加することでタイヤのグリップ性や燃費を向上させることができます。この製品はバイオ原料を使用した銘柄も開発・販売しており、自然環境の向上にも貢献する製品となっています。
製品紹介-身の回りのクラレ製品-
滝沢:医療現場で使われている当社製品をご紹介します。まずは4番の歯科材料についてです。当社は有機化学の技術を活かし、歯の接着剤やプラスチックの充填材、詰め物などを展開してきました。2012年には陶器メーカーのノリタケカンパニーリミテドと歯科材料事業を統合し、現在はセラミック系の素材を加えた幅広い製品を展開しています。
最近では通院回数が少なくて済む、歯科医院において加工が可能な歯科材料の販売などが伸びており、歯科医と患者の負担軽減に貢献しています。
8番の熱可塑性エラストマー「セプトン」はゴムのような弾性を持った素材です。ゴムと比べて非常に着色しやすく、加工性に優れています。医療用のほか、自動車部品やスポーツ用品、文房具、玩具など、幅広い用途で使われています。先ほどの「ジェネスタ」と同じく、タイで新プラントを立ち上げ、現在生産量が拡大しています。
製品紹介-身の回りのクラレ製品-
滝沢:家庭のキッチンで使われている当社製品をご紹介します。3番のEVOH樹脂「エバール」は、ガスバリア性能を持つプラスチックです。食品の酸化を防ぐことで長期保存が可能となり、フードロスの削減に大きく貢献しています。
また、近年では食品包装容器のリサイクル性が重視されるようになっています。「エバール」は、ポリエチレンなど他のプラスチック素材との複層フィルムとして使われます。当社が得意とするガスバリア性の非常に高いハイガスバリア銘柄を用いることで、少ない「エバール」の使用量でガスバリア性能を発揮することができます。
その結果、基材であるポリエチレン単一のプラスチックとしてリサイクルが可能となります。ヨーロッパなどを中心に、サーキュラーエコノミーに貢献する製品として需要が拡大しています。
5番の水溶性ポバールフィルムについては先ほど少しお話ししましたが、個包装洗剤のパッケージに使用されている素材です。キッチンでは食洗機用洗剤のフィルムとして使われており、洗濯用の個包装洗剤にも使用されています。液体洗剤には溶けませんが、水には溶けるというユニークな性質を持っています。
7番は水の浄化に使われる活性炭です。活性炭はもともと当社でも製造を手がけていましたが、2018年に世界最大の活性炭メーカーであるアメリカのカルゴン・カーボン社を買収し、事業を拡大しました。水・大気の浄化に貢献する製品として、需要は順調に拡大しています。足元では有機フッ素化合物(PFAS)への関心が高まっていますが、この活性炭は特に水道水の浄化で大きな注目を浴びています。
製品紹介―身の回りのクラレ製品―
滝沢:最後はオフィスで使われている当社製品です。10番は液晶モニターに使用される光学用ポバールフィルムです。当社の光学用ポバールフィルムは、延伸加工すると偏光性能を持つため、偏光板の部材として使われています。
近年、中小型のディスプレイには有機EL(OLED)などの技術が使われる場合もありますが、大型ディスプレイについては、製造技術やコストといった観点から引き続き液晶が多く使われています。大型ディスプレイに対応した幅の広いフィルムを均一に製造することは非常に難しく、光学用ポバールフィルムは当社が大きなシェアを持つ主力製品の1つとなっています。
企業広告
滝沢:当社では俳優の高橋文哉氏を起用し、テレビ等で企業広告を配信しています。ホームページにはテレビ広告と連動した特設コーナーがあり、日常でどのように当社製品が使われているかをわかりやすく紹介しています。お時間がありましたら、先ほどの補足としてぜひご覧いただければと思います。
3つの挑戦
滝沢:ここからは中期経営計画についてお話しします。当社は、2022年から2026年までの5ヶ年の中期経営計画「PASSION 2026」を策定しました。この「PASSION 2026」では、経済や外部環境の中長期の予測が非常に難しくなるこれからの時代に、当社が成長し続けるために取り組むべきことを、「私たちの挑戦」として3つ掲げました。
1つ目は「機会としてのサステナビリティ」です。サステナビリティをリスク対応という側面だけでなく、成長する機会として捉えようとしています。
2つ目は「ネットワーキングから始めるイノベーション」となります。社外・社内を問わず、人と人、技術と技術をつなげることでイノベーションを創出し、新たな成長のドライバーを生み出していきます。
3つ目は「人と組織のトランスフォーメーション」です。デジタルでプロセスを変え、多様性で発想の幅を広げ、人と組織に変革をもたらします。
これら3つの挑戦を通じて、当社グループは社会から必要とされながら、持続的に成長する企業を目指します。
事業ポートフォリオマネジメント
滝沢:当社グループのありたい姿を実現するための、事業ポートフォリオの高度化についてです。
当社は中間素材に強みを持つスペシャリティ化学企業として、企業価値の向上や持続的な成長のため、素材の力を最大限に引き出すことが最も大切だと考えています。
地球環境の改善やエネルギーの有効活用、生活の質の向上といったメガトレンドや、環境変化に対応しながら、当社の素材、用途、地域などの構成を組み換えることにより、事業ポートフォリオを高度化していきます。
なお、事業ポートフォリオの評価は、横軸の「経済的価値」に縦軸の「社会・環境価値」を加えた2軸で実施していきます。その際、社会・環境価値の評価が独善的にならないよう、第三者機関が設計したPortfolio Sustainability Assessmentという客観的な仕組みに沿った「クラレPSAシステム」を構築し、評価・認定を行っています。
貢献製品拡大とPSA (Portfolio Sustainability Assessment)
滝沢:「クラレPSAシステム」についてご説明します。PSAシステムとは欧州の化学メーカーを中心に導入が進んでいるポートフォリオの評価システムのことです。これは、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が、すべての企業がセクターに関わらず、持続可能な製品ポートフォリオの構築を可能にするために開発したシステムになります。
その中で、化学産業向けに専用のガイドラインが作られており、当社ではそのガイドラインに準拠した「クラレPSAシステム」を構築しました。製品、用途、取扱い地域の組み合わせを1つの評価単位とし、基本的事項、社会や規制の動向、ベンチマークとなる製品との性能比較などの基準で、5段階評価を実施します。
その結果、5番のトップパフォーマンス、4番のポジティブパフォーマンスという上位2ランクに該当した製品を、自然環境・生活環境貢献製品としています。中期経営計画ではこれらの貢献製品の品の売上高比率を、2020年の46パーセントから、2026年には60パーセントへ高めていくことで、事業ポートフォリオを継続的に高度化させていきたいと考えています。
製品事例とPSA評価のポイント
滝沢:PSAシステムで評価された自然環境・生活環境貢献製品の具体例を示しています。例えば、ガスバリア性があり、食品包装材として使用されるEVOH樹脂「エバール」は、食品の酸化を防ぐことにより長期保存が可能となり、フードロス削減につながると評価されています。
また、水や大気の浄化に使用される活性炭は、環境規制に沿ったかたちで汚染物質を除去できることや、再生して繰り返し使用できるところが評価されています。その他、当社は歯科材料として歯の修復材料を扱っています。当社製品による治療時間の短縮について、歯科医と患者、双方の負荷軽減が可能である点が評価されています。
活性炭とは
滝沢:先ほども話題にあがっていた有機フッ素化合物、いわゆるPFASの除去で近年注目されている活性炭について、詳しくご説明します。
PFASとは有機フッ素系化合物の総称です。その多くに水や油を防ぐ効果があり、熱などにも非常に強く安定した物質のため、半導体製造や包装紙、衣服の防水など、身近な製品にも多く使われています。
一方、安定した性質により分解されにくく、飲料水への混入などで人体に取り込まれてしまうと、体内に蓄積されてしまいます。いくつかの物質は有害であると指摘され、規制されています。最近は日本でも、各地の河川や地下水で国の基準を超える濃度のPFASが検出されたというニュースが報じられています。
米国ではいち早くPFASの規制強化が進んでおり、今年中には厳格化された新たな規制が公布される見込みです。そのような中、活性炭を使用した水浄化システムがPFAS除去に非常に有効であると、特に注目していただいています。
スライドの左図にあるように、活性炭は無数の小さい穴を人為的に開けており、そこに汚染物質等、取り除きたい物質を吸着させます。原料はヤシがらや石炭、木材などで、素材によって硬さや粒の大きさ、穴の大きさ等の特性が異なります。除去したい物質に応じて特性を組み合わせ、最適な活性炭を選ぶ必要があります。
当社はヤシがらや石炭、木材といった主な原料からなる活性炭をすべて取り揃えていることに加え、粉状、粒状というさまざまな形状の製品を供給しています。また、素材の販売だけでなく、活性炭をタンクに詰めた浄化設備を、設置等も含めたソリューションとして提供しています。
私たちの生活に欠かせない活性炭
滝沢:活性炭は非常に幅広い分野で人々の暮らしに役立っています。このスライドでは典型的な用途を挙げています。
飲料水、排水や空気の浄化、工場等の化学物質・毒物の除去、そして食品精製と、用途は多岐にわたっています。食品精製では食品から不純物や色を取り除き、食品をよりおいしくすることが可能です。また、電池材料という使い方等もあります。
当社グループでは、先ほどお話ししたように事業ポートフォリオの高度化を目指し、自然環境・生活環境の向上に貢献する製品として、活性炭事業の拡大に力を入れていきます。
カーボンネットゼロに向けた取り組み
滝沢:地球温暖化ガスの排出量削減の取り組みについてです。当社グループは2050年のカーボンネットゼロを目指しています。
Scope1とScope2の合計で323万トンの温室効果ガス(GHG)を排出した2019年を基準年としていますが、その後生産能力の拡大を進めています。今年の2月にタイのイソプレン関連工場の稼働を開始しています。また、第4四半期には米国にあるカルゴン・カーボン社の活性炭新設備が稼働開始する予定です。
これらの生産能力の拡大によって、一時的に地球温暖化ガスの排出量が増えますが、省エネ投資やプロセス改良などの施策により、2030年にはベンチマークとしている2019年より30パーセントGHG排出量を削減し、2050年にはカーボンネットゼロを目指したいと考えています。
業績推移、財務KPI
滝沢:スライドのグラフは中期経営計画中の売上高・営業利益の推移を示しています。2019年から2020年にかけては米中貿易摩擦や新型コロナウイルスによる感染症の影響等により、売上高・営業利益は減少しましたが、2021年から順調に回復しています。
2022年は原燃料価格高騰による製品の価格改定や円安の影響もあり、売上高が大幅に増えました。その結果、売上高は7,564億円、営業利益は871億円で、ともに過去最高となりました。
2023年は上期実績が想定を上回る進捗となりましたが、一部事業において需要の回復が遅れていることもあり、通年の売上高は8,100億円、営業利益は840億円と予想しています。
中期経営計画の最終年である2026年の売上高は、昨年から続く円安等により、すでに売上実績が計画を越える水準になっています。営業利益は、今年立ち上げたタイのイソプレン拠点や活性炭の新設備の稼働率向上などにより、1,000億円を目指します。
スライドの下段には「PASSION 2026」で掲げた財務KPIの実績目標を示しています。ROIC、EBITDA、ROEの各指標とも、目標に向けて順調に推移しています。
坂本:2026年の計画について、売上高はすでに突破している状況ですが、こちらの要因と中計の上方修正を行わない理由を教えてください。
滝沢:売上高が大きく伸びているのは、中期経営計画で前提としていた為替に対して、足元では非常に円安となっていることが要因です。当社は売上高の約80パーセントが海外での売上となるため、円安により売上高が大きくなっています。
当社の中計は2022年から2026年までの5ヶ年計画であり、現在はもうすぐ2年目が終わる段階です。中間にあたる2024年に計画を見直し、大きく変わるようであれば修正を行い、どこかのタイミングであらためてお話ししたいと考えています。
企業価値向上に向けた取り組み
滝沢:このスライドでは、当社の企業価値向上に向けた取り組みとして、どのようにROEやPERを向上させていくかを示しています。
まず、ROEの向上は、事業ポートフォリオマネジメントのスライドでご説明したとおり、社会・環境価値、経済価値という2つの側面から事業を評価し、ポートフォリオを高度化していきます。
経済的価値を測る指標としてROICを活用していますが、このROIC向上の取り組みとして資産効率の改善を図っていきます。また、事業拡大のための投資では、これまで以上に効率性を意識して投資を決定・実行し、収益を拡大、株主還元も充実させていきます。
PERについては、中期経営計画における主要施策の1つとしてイノベーションネットワーキングセンターという組織を立ち上げました。このイノベーションネットワーキングセンターは組織横断で活動し、社内外の連携を通じて新たなイノベーションを創出していきます。これまでにAutomotive、Agriculture、Paper&Packagingを始めとした6つの戦略領域において、約10テーマが事業化に向けて進んでいます。
また、2018年に米国子会社で発生した火災事故に関する訴訟が続いていましたが、2023年4月にすべて解決しました。
今後は、これまで以上にイノベーションによる新規事業の創出、既存事業の持続的な成長に注力し、安定的な利益拡大を目指していきます。加えて、本日のようにみなさまへご説明する機会をとおして、投資家のみなさまに当社の成長ストーリーを理解いただけるよう努めていきます。
2023年度業績見通し
滝沢:2023年度の業績見通しです。先ほどお話ししたように火災に関する訴訟が終わり、上期は最後の和解金の計上がありました。そのため、上期の当期純利益は前年同期比で24億円のマイナスとなったものの、売上高、営業利益、経常利益はともに前年同期を上回り、上期としての過去最高を更新しています。
通期では、タイでイソプレン関連工場が立ち上がったことによる減価償却費の増加などを要因に、昨年より減益となる見込みです。
今年はタイのイソプレン関連製品の新拠点や、米国のカルゴン・カーボン社における活性炭製造の新設備など、複数の大型設備が稼働を開始します。減価償却費の負担が増えるものの、当社グループがこれからも成長を続け、中期経営計画を達成するために必要な投資であると考えています。
2023年度 株主還元
滝沢:当社の株主還元についてです。中期経営計画「PASSION 2026」の中で、1株当たり配当40円以上、自社株買いも弾力的に実施し、総還元性向35パーセント以上とする方針をお伝えしています。
2023年度の配当金はこの方針に基づき、当初中間、期末ともに1株当たり24円、年間48円を予定していましたが、上期の決算を踏まえ、1株当たり2円増配し、年間50円に修正しました。
また、スライドに記載のとおり、当社は株主優待制度を設けています。6月末の株主名簿で1株以上保有されている方には、希望されるすべての方にオリジナルカレンダーをお届けしています。
加えて、12月末の株主名簿で1,000株以上保有されている方には、当社製品が使用されている商品などが選べる、3,000円相当のオリジナルカタログギフトをお届けしています。なお、こちらのカタログギフトには長期間保有いただいている方への優遇制度があり、1,000株以上を継続して3年以上保有されている方には、10,000円相当のオリジナルカタログギフトをお届けしています。
このような株主優待制度も併せて、ぜひとも当社の株式に関心を持っていただければと考えています。私からの説明は以上となります。ありがとうございました。
質疑応答:M&Aを検討している分野について
坂本:スライド18ページに記載のあるM&Aについて、どのような分野を考えているのかを教えてください。
滝沢:中期経営計画の中で、1,000億円程度のM&Aの枠を設定していますが、基本的には当社の主力となる事業の周辺領域を考えています。例えば、活性炭や歯科材料、先ほどタイで増産したとお話しした「ジェネスタ」、いわゆる機能性のエンジニアリングプラスチックなどです。
また、ビニルアセテートセグメントも、強いものをより強くするために、良い案件があれば取り組みたいと考えています。
質疑応答:為替感応度について
坂本:御社は海外売上が8割ということですが、為替感応度はどのくらいでしょうか?
滝沢:当社の為替感応度について、ドルは1円円安で営業利益が1億円、ユーロの場合には同じく1円円安で営業利益が2億円増えるかたちになります。海外での生産が多いため、比較的感応度は比較的小さいと思っています。
質疑応答:株主還元の考え方について
坂本:株主還元については、総還元性向35パーセント以上で、1株当たり40円以上の配当を掲げられています。40円以上であれば、自社株買いを見ながら機動的に配当性向を調整していく、総還元性向を調整していくという考え方で合っているでしょうか? 配当や自社株買いの割合があれば教えてください。
滝沢:当社は安定的な配当を心掛けており、1株当たり40円がミニマムだと考えています。何年か前には、訴訟の関係で多額の和解金を払うため、当期利益がマイナスになってしまった時期もあります。しかし、そのような時期にも40円を下回らないよう配当を実施してきました。足元は業績も良いため、ミニマムではなく少しずつ増やしていくことを考えています。
質疑応答:有機フッ素化合物について
増井麻里子氏(以下、増井):活性炭に関する質問です。有機フッ素化合物は現在、製造と輸入が禁止されているものなのでしょうか?
滝沢:有機フッ素化合物についてはいろいろな数え方がありますが、おおよそ1万種類の化学物質があるといわれています。その中には、すでに毒性が確認されており、何年も前に生産、もしくは輸入が禁止されているものもあります。
それ以外のものは、疑われてはいるものの、有毒であるとは認定されていません。特にアメリカなどでは、有機フッ素化合物全体として規制していこうという動きがあります。ただ、日本の場合にはそのあたりはきちんとデータをとってから判断することになるため、使えないものもあれば、まったく問題なく使えるものもあります。
増井:今使われているものについて、ゆくゆくは除去していかなければならないことを見据えて使っているのですか?
滝沢:おっしゃるとおり、いずれは除去していかなければならない部分はあります。また、実際にアメリカの浄水場から家庭に流れる水については規制をより強化しようという案が、今年3月に提示されました。最終的には年末になんらかの法令が出てくるといわれており、それは日本よりはるかに厳しいレベルになると思われます。
質疑応答:海外売上高の伸びている国と事業について
坂本:「海外売上高が高いため、海外において伸びている国と事業、伸び悩んでいる国と事業についてご説明をお願いします」というご質問です。
滝沢:先ほども少しお話ししましたが、当社は海外での売上がおよそ8割となっています。地域別では、欧州が25パーセント強、中国を含むアジアと米国がそれぞれ20パーセント程度となります。比較的先進国型の商品が多いということもあり、これまでは欧州やアメリカなどが大きく伸びてきましたが、今後はアジア、中国等も大きく伸びていくと考えています。
質疑応答:東欧や中国などの地政学リスクの影響について
坂本:「東欧や中国などの地政学リスクの影響について教えてください」というご質問です。
滝沢:東欧については、まずロシアでは実はそれほど大きな商売はありません。ロシア・ウクライナ問題を受けた景気動向などの影響については、みなさまと同じように受けるものの、そこでの生産もしくは直接の販売という意味では、あまり大きな影響はありません。
質疑応答:自動車がEVにシフトした場合の売上への影響について
坂本:スライド5ページの自動車の図のとおり、御社は自動車にもいろいろな素材を供給されています。仮に自動車がすべてEVにシフトした場合、御社の売上にはどのくらいの影響があるのでしょうか?
滝沢:当社の部品は、自動車のさまざまなところに使われています。これらの中には、EV化されるということで採用されているものもあれば、そうではないものもあるため、非常に難しいところです。
先ほどお話ししたEVOH樹脂「エバール」は、そのガスバリア性を活かし、ガソリンタンクなどにも使われています。こちらはEV化が進めばなくなっていきますが、一方で「ジェネスタ」など、自動車のEV化が進むと新たに採用される部品もあります。そのため、増える分と減る分の両方があると考えています。
当社全体の売上で把握できている自動車用の比率は10パーセント前後となります。自動車のトータルの生産台数には影響を受けると思いますが、EV化の影響はあまり受けないと考えています。
質疑応答:活性炭の寿命や使用後の行方について
坂本:「活性炭の寿命や使用後の行方について教えてください」というご質問です。活性炭は使い方によって寿命が変わるといったこともあるかもしれませんが、そのあたりも含めて、使用後はどのように再利用されているのかなど教えていただければと思います。
滝沢:活性炭は、何を除去するか、除去する際の規制の強さによって使用できる期間が変わってきます。長持ちするものでは2年、3年というケースもあり、非常に高いレベルで除去しようとすると数ヶ月で使えなくなるものもあります。寿命の長さはどのような使い方をするかによるため、一概には言えません。
また、処理方法についてですが、不純物を吸着した活性炭は一般的に産業廃棄物として廃棄することになります。しかし、当社の場合はバージン炭を販売するだけでなく、使用済活性炭を引き取り、リサイクルするという事業も行っています。
活性炭は、原料を高温で蒸し焼きにして孔を開けます。再生炭も同じで熱をかけて処理しますが、その際に孔の中に吸着した物質が焼けて飛んでしまう、つまり分子レベルで分解するかたちになります。ですので、使用後に吸着物質を別途処理する必要がなく、これが、PFAS除去で活性炭が非常に注目されている理由の1つです。
通常は除去したあと、PFASをきちんと処分しなければどこかにたまってしまいます。しかしながら、当社の再生方法であれば、PFASが分子レベルで分解されてほぼ無害化されます。このように、新炭・再生炭両方を手掛けていることが当社の優位性となっています。
質疑応答:国内の化学メーカーの再編について
坂本:「国内の化学メーカーには御社のような売上高の企業が多くあると思います。そのような企業との再編はあるのでしょうか?」というご質問です。
滝沢:日本の化学業界は、欧米に比べるとまだ再編が進んでいないといわれています。そのような中で、大きな決断をする会社があるというのも事実だと思います。
当社の場合は、スペシャリティ化学メーカーということもあり、「何が何でも再編しなくてはいけない」ということではなく、可能性はあるものの、個別案件ごとに検討するということになると思います。
坂本:シェアNo.1の製品がたくさんあるため、急いで再編しなくてもよいということでしょうか?
滝沢:おっしゃるとおり、そのような側面もあります。
質疑応答:縮小や撤退を検討している分野について
増井:スライド11ページの、事業ポートフォリオの軸の左下に記載の「縮小・撤退」について、具体的に検討されている分野にはどのようなものがありますか?
滝沢:当社は、いくつかのセグメントの中にさらにサブセグメントがあります。社内では継続して事業評価を行っていますが、足元で撤退すべきだと判断している事業はありません。
例えば、クラレという社名の「レ」はレーヨンからきていますが、これまでの歴史の中で、祖業であるレーヨンからはすでに撤退しています。それ以外にも、いくつかの事業は撤退しており、今後も撤退の可能性はあります。
ポートフォリオの図は、必ずしもこの丸が1つの事業そのものということではなく、事業の中にも用途やエリアがあり、いろいろと分かれています。先ほどご説明した「クラレPSAシステム」も同様の概念ですが、1つの事業の中で、不採算な用途や銘柄、地域などを入れ替え、ポートフォリオ全体として強くしていくことを表した図になります。
坂本:逆に、新規分野に進出したり、育てていたりするものがあれば教えてください。
滝沢:今ある事業の中には近年スタートしたものはないものの、例えば「ジェネスタ」などは近年になり事業が大きくなってきたという意味では新しいものになります。
最近はなかなか新事業が出てきていないこともあり、先ほどお話ししたイノベーションネットワーキングセンターのように、社内のいろいろなリソースを組み合わせたり、場合によっては社外のリソースを組み合わせたりしながら、新規事業の創出を早く行っていこうと取り組みを進めています。
質疑応答:認知度向上の施策への取り組みについて
坂本:「御社は『ミラバケッソ』のCMで有名になったのではないかと思います。今後のさらなる認知度向上のための施策を、なにかお考えですか?」というご質問です。
滝沢:今から20年ほど前に、「未来に化ける新素材」を略して「ミラバケッソ」ということで、キャッチフレーズとして使っていました。CMではアルパカと俳優の方を起用し、10年ほどそのシリーズを宣伝していました。今でも「ミラバケッソ」という言葉や、アルパカが登場するCMを覚えていただいている方が多くいます。
しかし、現在は当社売上の80パーセント程度が海外ですし、従業員も40パーセント以上が海外の方ということで、日本語でしか意味が通用しないフレーズはなかなか使えません。そのため、今はそのシリーズでの宣伝を行っていません。
坂本:グローバル企業になったということですね。
滝沢:おっしゃるとおりです。現在は別の企業CMを放送しているため、ぜひそちらをご覧いただければと思います。
質疑応答:原油高の影響と今後の見通しについて
坂本:「原料高、原油高の影響がやはり気になります。これらは御社の経営に大きく影響するのでしょうか? 今後の見通しについても教えてください」というご質問です。
滝沢:当社は素材メーカーのため、原油を直接買っているわけではないものの、原油からなるいろいろな化学品が当社の原料になります。ですので、原燃料が上がることで業績に影響はあります。
しかしながら、当社は非常に強い商品を持っているため、原料が上がったものについてはお客さまとお話させていただき、販売価格である程度カバーできる部分もあります。影響は受けますが、それをなるべくミニマルにできるように取り組んでいます。
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