創業者の思い~永守イズムはいかに

著者:鈴木 行生
投稿:2023/03/13 11:25

・昨年、日本電産<6594>の永守会長兼CEOの話を視聴した。創業者は後継者をいかに選ぶのか。社内にはいないので、外部から何度も招聘したが、いずれも眼鏡に適わなかった。

・どうしてそうなるのか。創業者は機を見て動くに敏なり。独自の構想で、時代を切り拓いていく。ファミリーの2代目に引き継ぐ場合も多いが、うまくいくとは限らない。

・経営力は才能であり、訓練によって磨かれる。組織が出来上がっている時は、誰がトップになっても、しばらくは持つ。しかし、意思決定の積み重ねであるから、判断が十分でないと、次第に方向が違って、組織の内部も停滞する。適材適所が働かなくなるからである。

・そういう時に大きな環境変化に直面すると、課題が一気に表面化してくる。引退した創業者が戻ってくることも多い。立て直しに躍起となるが、かつての慧眼やリーダーシップが色あせていることもよくある。

・その意味で誰を後継者に選ぶかは、企業のサステナビリティにとって最も重要である。今どきであれば、指名諮問委員会の役割が重要となる。社内に適材がいる時は選定しやすい。一方で、外部からプロフェッショナルな経営人材を選ぶとなると、これは荷が重くなる。通常の指名諮問委員会ではかなり難しい。

・永守氏は、会社の将来をどうみているか。EVの成長期は既にスタートしている。1億台の車の需要はさらに増え、2030年には車の40~50%がEVになると予測する。EVの低価格化も進み、50万円の車を新しい企業が作るようになる。

・1回の充電で100㎞走れば十分で、一日の走行は30~40㎞程度であろう。EVは家電製品並みとなってくる。日本電産は世界46カ国に工場をもっているが、そこのワーカーは皆車が欲しいと思っている。このEVにモーターはじめ、キーパーツを供給し、シェアアップを図っていく。

・モーターを作るに当たって、工作機械を長年使ってきた。この工作機械業界をみると、競争が十分働いていない。上位30社の顔ぶれがほとんど変わっていない。

・そこで、工作機械メーカー2社をM&Aした。当初は赤字であったが、今は10%以上の営業利益率を出している。この領域で活躍する余地は大きいとみている。ロボット業界をみても、価格が下がってこない。ここにも参入の余地があるとみている。

・産業機械や電子部品分野で日本は強い競争力をみせてきたが、このままでは中国勢に圧倒されてしまいかねない。そうならないように技術を磨いていく必要がある。同時に価格競争力をつけて、よい技術の商品でしっかり貢献できるようにしていく。

・価格は技術で決まる。技術は価格で競争する。価格を下げても、いい技術の製品を出していく。グローバル競争に勝って、高い利益率を実現していくのが、日本電産の経営であると永守会長は語る。

・後継者について、外部人材を充てようとしたが、何度か挑戦して難しいと分かった。日本電産の企業文化は、永守氏が創ってきた。その文化が外部からきた人には分からない。すぐに、前の会社で培った考えを出してくる。これが本人とぶつかってしまうようだ。

・例えば、朝早くこなくてよい、土日は休んでよい、すぐにできなくてもしかたがない、というような雰囲気が、永守氏には耐えられないようだ。トップは、誰よりも働く。トップが動けば、まわりは同じよう動かざるを得ない。その頑張り、踏ん張りが企業の差別化と成長に結び付いてきた。

・それが継承できるだろうか。中国と戦うには、今の日本の働き方では通用してない、と永守氏は危機感を持っている。競争に勝てる働き方を何としても作っていく必要がある。新しい仕組みを拒むわけではない。違った戦い方を求めている。

・ここまで成長して2兆円企業となった。次は10兆円企業を目指していく。競争力は絶対に必要であり、14万人の社員は守っていくと宣言する。

・でも、永守氏は、自分は急ぎすぎたようだ、と語る。外部人材は無理なので、内部から選んでいくことにした、20年遅れてしまったが、方針を転換した。

・自分の思いが強すぎるのかもしれない。それでも、私を分かってくれる人に、経営を引き継ぎたい。これまでも社内から選べと助言されてきたが、外の芝生がよく見えた。

・自分は老害だろうか、と自問する。創業者にとって会社は身体の一部である。年齢ではない。常に「夢は形にする」のが心情であり、それを実践してきた。

・永守イズムをいかに継承していくのか。創業者のスピリットを文化として定着させ、発展させていくサステナビリティをいかに創り込むか。企業価値評価にとって、最も重要なファクター、マテリアルである。ここを見抜く力をぜひとも身に付けたい。

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配信元: みんかぶ株式コラム

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