・4月に「アナリストのキャリアパスとしての社外取締役」という対談を視聴した。その内容が証券アナリストジャーナル6月号に掲載された。みずほ証券の菊地正俊ストラデジストと都立大学の北川哲雄教授が話をしたが、そこで感じたことをいくつか取り上げてみたい。
・人財をどう育てるか。多様な道があってよい。筆者の体験に基づく例をあげてみよう。オーナー型上場企業の2世は、どのようにして次のトップになるのか。20代のうちは他社で働いて、一般社員の仕事と気持ちを分かっておく必要があろう。その後、オーナーの会社に入って、まず監査役になることである。
・監査役になると、取締役会に出席すると同時に、会社のビジネス全体を監査していく。企業の攻めの部分と守りの部分をよく知ることができる。その上で、現業部門に出ていくと、担当の仕事の位置づけがよく分かってくる。
・アナリストは、どのように仕事の領域を広げていくのか。「アナリストのキャリアパスとしての社外取締役」と同じように、専門職のキャリアパスとして「公認会計士の~」「弁護士の~」「大学教授の~」などがありえよう。
・社外取締役において、最も重視されるのは企業経営の経験であろう。しかも、CEOの経験が圧倒的に必要である。なぜか。不確定な将来に対して何らかの意思決定をして、一定の成果を上げてきた経験が、取締役会の議論に本質的な問題提起をもたらすものと期待される。
・しかし、経営環境は日々変化している。20年前の社長の経験をベースに体験的な話をされたとしても、今の取締役会の議論には合わないかもしれない。ROE経営やサステナビリティ経営を突き詰めようとする時、その良し悪しを今の感覚で受け止め、発信していく必要がある。
・とすると、いまでも何らかの立場で現役であることが重要である。社外取締役には旬の時がある。それが過ぎてしまうと役に立ちにくいので、早めに交替していく必要があろう。
・では、証券アナリストや会計士、弁護士の社外取締役はどうであろうか。それぞれの分野で専門的な仕事をしており、その知見を社外取締役として活かすことが求められる。かといって、社外取締役はその会社の特定の事業について、株式市場における評価、財務上の方針、法務的な対応などに具体的に関わるわけではない。一義的には、執行サイドは自ら専門家を使っていけばよい。
・とすると、専門的な知見や経験をベースにしながら、もう少し幅広い議論を展開する必要がある。取締役会は、社長(CEO)の経営判断を監督し、助言をする立場であるから、辛口であっても執行サイドに役立つ対話(エンゲージメント)が必要である。
・筆者の場合はどうか。現在、上場企業4社で社外取締役、社外監査役をやっている。東証PRM、東証STD、東証GRTの企業である。本業はアナリストなので、4社とは関係ない10社強のアナリストレポートを日々書いている。
・社外役員には、どのように声がかかってきたのか。1)小が大をM&Aした企業が面白いとレポートを書き始めたら、社外取締役になってくれと依頼された、2)研究会で議論をしていたら、そこに参加していた経営陣から誘われた、3)先方のビジネス周辺にいたことがあるので、互いに知り合いであった。
・ここで大事なことは、こちらも慎重に選ぶということである。馴れ合いではない。よく知らない経営者や企業の社外役員になることは、リスクが高く、いざという時責任がとれない。もしそのような声がかかったら、アナリストとして1年くらい会社を調べてから、返答するであろう。
・4社の社外取締役をやっていると、各々の会社に類似の同業他社が3~4社はある。それらの会社もアナリストとしてみていく。そもそも4社とは全く競合しない会社のアナリストレポートを書いている。その会社にも同業他社はあるので、そこもみていく。
・よって、常に50~60社はウォッチしている。アナリスト活動が好きなので続けているが、時間的には常にフルタイムで、全力で走る必要がある。
・では、取締役会に参加するに当たっては、どのような姿勢で臨んでいるのか。スタンスとしては、常に少数株主の立場を保っている。取締役会の席に座っても、動きはアナリスト活動そのものである。
・ここで大事なことが5つある。第1は、投資家として知りたいことを丁寧に聞いていく。求める企業の姿から見えてくる蓋然性について、的確に質問する。その時、執行サイドが答えられるような質問に落とし込んでいくことが壺である。
・第2は、マーケットや業界をみていて、執行サイドが十分検討しているかどうかを確認していく。社外役員が発する質問について、執行サイドは通常すでに十分考えて手を打っているはずである。ところが、そういう質問に答えているうちに、経営者が何か新しい気付きを得ることがある。こういう時は会話が弾む。そうでない時は、宿題になることもある。
・第3は、参加者から別の意見を引き出すことである。多様な見方があった方が、後の議論を絞り込みやすい。発散しないように注意しつつ、別の取締役や監査役に質問する。その時、きちんと意見を持っている人に具体的に聞くことである。そうすると別の視点が出てくることもある。
・第4は、素朴に疑問に思ったことは、タイミングをみながら、率直にきく。これもいくつかの仮説を立てた上で、聞くようにしている。単なる思い付きではない。これで経営者が乗ってくるようなら、しめたもの。不機嫌になるようなら、それはそれで意味がある。
・第5は、むきにならないことである。対立しても事態はよくならない。よりよい意思決定ができるように、取締役会の場を盛り上げていく。受入られないことがあっても、経営環境は刻一刻変化していくので、別の局面で必要になるかもしれない。
・こうした対話の姿勢と実践は、アナリストとして長年やってきたことであり、今でも日々工夫しながら楽しんでいる。
・専門家でありながら社外取締役として一目置かれるには、常にいかに組織能力が高められるかという観点から言動を構成していくことである。つまり、マネジメントの感覚を共有していないと、執行サイドからの共感は得られない。
・アナリストという資格ではなく、アナリスト活動の実践を通して、次の世代の社外取締役が数多く育ってほしいと願う。
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