・電子カルテ、調剤薬局のネットワークビジネス、ジェネリック医薬品の開発製造、健康増進のフィットネス、体によい健康食品などを取り扱う企業について、アナリストレポートを書いている。
・いずれも中小型企業で、ヘルスケア領域のニッチな分野でしのぎを削っている。何とかしてユニークなプラットフォーム(PF)を構築しようと、新しいビジネスモデル作りに挑戦している。
・健康を確保したい高齢者からみると、ヘルスケアのサービスはまだ改善の余地が大きい。高齢になればなるほど、自らの生活パターンは変えたくない。新しいサービスは面倒で受け入れがたいと構えてしまう。
・筆者の体験を少し取り上げてみる。生活習慣病で2か月に1度、近くにあるかかりつけ医(クリニック)で検査を受ける。しかし、そのデータは、年に1回診てもらう人間ドッグとは連携していない。
・2か月分の処方箋が出る。これを待合室で写メールして、家の近くの調剤薬局に送る。こうした電子処方箋のネットでのやり取りは、すでにできるようになっている。しかし、どの調剤薬局でも十分利用されていない。理由は、高齢者がスマホの操作に慣れていないことと、薬局ごとにアプリの内容が違っているからである。
・調剤薬局では通常、処方箋を紙で受け取り、それを手で入力している。処方箋の自動読み取り装置は実用化が十分でない。
・処方箋のフォーマットがバラバラなことや、処方箋への記入内容がドクターによって違うので、簡略化された記入を誤って読み込んだり、読めなかったりするためである。そこで人手が必要となって、手間は減らない。この自動読み取りシステムがようやく進みそうである。
・高齢者でも、スマホでLINEを使うようになっている。そこで、処方箋のやり取りを、LINEを使って簡便にしようという動きも始まっている。
・今、ジェネリック医薬品が供給不足の状況にある。ジェネリックメーカーの品質不正問題で、業界が対応に迫られており、その影響が出ている。製造ラインの見直しや、品質向上のシステム作りに手間取っているからである。
・処方箋をメールで送って、薬局に薬があれば、準備が出来ましたとメールで返事がくるが、ジェネリック医薬品の準備に数日かかることもある。そうすると、そのことを電話で連絡してくる。メールで済むのに、電話で話して説明しようとする。電話はすぐにつながらない場合も多い。どちらにとっても手間となる。
・電子カルテはどうか。入院施設のあるような病院の電子カルテ化は進んでいる。しかし、クリニック(診療所)の電子カルテ化はまだ4割を超えたところである。新規に開業する若手の医師は電子カルテを普通に使いこなすが、60代以上の医師のクリニックでは、これまでのやり方に馴染んでいるので、電子カルテがなかなか進まない。
・クリニックに行くと、カルテの棚が大きなスペースを占めているところも多い。この電子カルテの比率はこれから上がっていこう。世代交代であと20年経てばほぼ全て電子カルテになろうが、それでは遅い。
・薬はすぐに必要なので、薬局で長く待たされることも多い。この待ち時間を減らすためにも、電子処方箋でのやり取りは有効である。服薬指導が必要なので、対面で話す必要があるが、これがオンラインでできてしまえば、薬は家までデリバリーしてもらえばよい。薬局やドラッグストアでなくても、コンビニで受け取ることもできる。
・筆者の場合、人間ドックのデータは、その病院チェーンの診療施設では共有されるので、二重の検査はいらない。しかし、別のクリニックでの検査データとは連携されないので、似たような検査を何度も受けることになる。過去データの履歴も十分活用されていない。
・こうした個人の医療データを共有できるようにしたり、個人名を伏せて多くのデータを活用できたりすれば、医薬品の開発や医療サービスの向上に役立つことは分かっている。PHR(Personal Health Record)、EHR(Electric Health Record)は始まっているが、本格化にはまだ程遠い。
・NRIの機関誌の「知的資産創造」(2022年3号)では、2030年に向けたDXによるヘルスケアプラットフォームの展望について、レポートをまとめている。
・調剤薬局やドラッグストアなどの既存のオフライン型医療リテールに対して、新しいDXによるオンライン型医療リテールがどのように挑戦してくるか。そのプラットフォーム(PF)について4つのタイプを挙げている。
・1つは、「地域密着のファーストコンタクト医療PF」である。身近にあるかかりつけ薬局である。2つ目は、「医療と生活のトータルサポートPF」である。ドラッグストア主導型のサービス強化である。3つ目は、「生活圏内で最も便利な医薬品受取PFである。コンビニと宅配が連携して、新しいサービスを提供する。
・そして、4つ目は、「一気通貫のオンライン医療PF」である。情報通信やヘルスケアITのベンチャー企業が、予約検索から医薬品の受け取りまでを一手に引き受けようとする。育児、働き盛りを入口にして、いずれ高齢者層のサービスにも浸透させることを狙っている。
・カギは、既存のヘルスケア企業において、①DXのネットワークをどこまで広げられるか、②バリューチェーンにおいて、どのような連携を図っていくか、③制度や規制の制約を乗り越えて、サービスの質、利便性をいかに高めていくか、という点にあろう。
・新しいイノベーションの戦いが始まっている。今後10年で、かなりの新陳代謝が進もう。全く新しい企業の台頭、ニッチなPFの構築に注目したい。
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