資源・新興国通貨の22年9月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/05/02 15:43

豪ドル

米FRBやBOE(英中銀)、BOC(カナダ中銀)、RBNZ(NZ中銀)が利上げを行う一方で、RBA(豪中銀)は政策金利を0.10%に据え置き続けてきました。

豪州ではインフレ圧力が強まっており、1-3月期のCPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比5.1%、変動の大きい項目を除いたトリム平均値は同3.7%と、それぞれ01年4-6月期以来、09年1-3月期以来の高い伸びを記録しました。RBAは近く利上げを開始するとみられます。

利上げのタイミングは、次回5月3日の会合、あるいは豪総選挙後の6月7日の会合になりそう。RBAは5月か6月に利上げを行った後も利上げを続けるとみられます。日銀は現在の緩和的な金融政策を今後も続けると考えられ、RBAと日銀との金融政策の方向性の違いを背景に、豪ドル/円は堅調に推移しそうです。豪ドル/米ドルについては、米FRBの利上げペース次第では上値が重くなるかもしれません。

豪ドルは、投資家のリスク意識(リスクオン/オフ)の影響を受けやすいという特徴もあります。米FRBなど主要中銀が利上げを続けることは、株価にとってはマイナス材料になると考えられます。主要国の株価が下落を続ける場合にはリスクオフ(リスク回避)の動きが強まり、豪ドル安材料になる可能性があります。

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豪ドル/NZドルは、4月21日に一時1.09930NZドルへと上昇し、20年8月以来の高値をつけました。豪ドル/NZドルが上昇した主な要因として、RBAの利上げ観測が強まったことが挙げられます。ただ、RBAの利上げは市場にある程度織り込まれたと考えられるほか、RBNZ(NZ中銀)は利上げを継続するとみられます。NZドルにもプラス材料があることから、豪ドル/NZドルが上昇を続ける状況ではなさそうです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の利上げペース。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。
・5月21日に豪選挙実施。政権が交代するか否か。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は4月13日の会合で0.50%の利上げを行うことを決定。政策金利を1.00%から1.50%へと引き上げました。RBNZの利上げは4会合連続です。

NZの1-3月期CPI(消費者物価指数)は前年比6.9%と、上昇率は21年10-12月期の5.9%から加速し、90年4-6月期以来の高い伸びを記録。RBNZのインフレ目標(1~3%)から一段と上方へ乖離しました。インフレ圧力の強さをみると、RBNZは今後も利上げを続けると考えられます。

RBNZの次回会合は5月25日。その会合では、四半期に一度の金融政策報告が公表されます。RBNZは前回2月の金融政策報告で、政策金利のピークは3.35%との見通しを示しました。政策金利見通しが2月時点から上方修正されれば、NZドル高材料になりそうです。日銀との金融政策の方向性の違いが明確な対円で特にNZドル高が進みやすいと考えられます。NZドル/米ドルについては、米FRBの利上げペース次第では上値が重くなるかもしれません。

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続ける場合にはリスクオフ(リスク回避)の動きが強まり、NZドル安材料になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品価格の動向。乳製品価格の上昇はNZドルにとってプラス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は3月と4月の2会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は1.00%です。

4月13日会合時のBOCの声明やマックレム総裁の会見はタカ派的な内容であり、BOCは今後も利上げを続けると考えられます。声明は、「政策金利をさらに引き上げる必要がある」とし、追加利上げを示唆。マックレム総裁は会見で、「カナダのインフレ率は高すぎる」と指摘し、「インフレ率を目標に戻すため、BOCは必要に応じて力強く対応する」と強調。「一定期間、中立金利をやや上回る水準へと利上げする必要があるかもしれない」と述べました。BOCは中立金利を2~3%の間と推計しています。

市場では、BOCの政策金利は年内に3.00%へと上昇するとの見方が有力です。BOCの利上げ観測に支えられてカナダドル/円は堅調に推移するとみられます。

カナダドル/円については、原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。原油はカナダの主要輸出品のため、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラス材料です。原油価格が上昇すれば、カナダドル/円は堅調さを増すと考えられます。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・資源(特に原油)価格の動向。資源価格の上昇はカナダドルにとってプラス材料。

トルコリラ

トルコでは高インフレが続いており、3月のCPI(消費者物価指数)は前年比61.14%と、02年3月以来20年ぶりの高い伸びとなりました。インフレを抑制する方法として利上げが考えられるものの、TCMB(トルコ中銀)は政策金利を14.00%に据え置いています。その結果、トルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)はマイナス47.14%と、大幅なマイナスとなっています。そのことは、トルコリラにとってマイナス材料です。

原油など資源の価格上昇やこれまでのトルコリラ安の影響もあり、CPI上昇率は今後一段と加速する可能性があります。低金利を志向するエルドアン・トルコ大統領の圧力によってTCMBが利上げするのは困難とみられるなか、CPI上昇率が加速すれば実質金利のマイナス幅はさらに拡大しそうです。

トルコリラ/円については、米ドル/円の影響も受けるため、米ドル/円が上昇すればトルコリラ/円は下げ渋るかもしれません。ただ、トルコの実質金利の状況をみれば、トルコリラ/円はいずれ下落する可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・大幅なマイナスのトルコの実質金利。トルコリラ安材料と考えられる。
・原油など資源価格が一段と上昇すれば、トルコリラ安圧力が強まりそう。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は前回3月の会合まで3会合連続で利上げを行い、SARBの現在の政策金利は4.25%です。

南アフリカの3月CPI(消費者物価指数)は前年比5.9%と、上昇率は2月の5.7%から加速し、SARBのインフレ目標(3~6%)の上限に近い水準でした。これまでの資源価格上昇の影響によってCPI上昇率は今後も高止まりすると考えられ、SARBは利上げを継続する可能性があります。SARBが利上げを続ければ、南アフリカランド/円は底固く推移しそうです。

一方で、南アフリカでは、発電設備の老朽化などによって慢性的な電力不足に陥っており、計画停電がたびたび実施されています。今後、停電が長期間行われるようなことになれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で強まり、南アフリカランドに対する下押し圧力となる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・今後、南アフリカで停電が長期間行われるようなら、南アフリカランド安材料になる可能性も。
・米FRBの利上げペース。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は、前回3月の会合まで7会合連続で利上げを実施しており、現在の政策金利は6.50%です。

BOMが利上げを続けているにもかかわらず、メキシコのインフレ圧力は一段と強まっています。メキシコの3月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.45%、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は同6.78%。総合指数は01年1月以来、コア指数は01年4月以来の高い伸びとなりました。BOMのインフレ目標は3%(その上下1%が許容レンジ)です。

BOMはインフレを抑制するために今後も利上げを続けるとみられ、そのことはメキシコペソにとってプラス材料です。一方で、日銀は緩和的な金融政策を維持するとみられます。BOMと日銀の金融政策の方向性の違いを背景に、メキシコペソ/円は堅調に推移しそうです。

メキシコペソ/円はカナダドル/円と同様に、原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。原油価格が堅調に推移すれば、メキシコペソ/円にとってさらなる支援材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)は利上げを継続するとみられる。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の上昇はメキシコペソ/円の上昇要因。
・米FRBの利上げペース。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想