―条件緩和と規制の強化で導入加速へ期待高まる、インボイス制度も後押しへ―
オミクロン株の感染拡大や半導体不足の影響長期化など、株式市場を取り巻く環境は年末にかけて不透明感が台頭しているが、こうしたなかにあっても収益環境が明るいのが、官民を問わず進められているデジタルトランスフォーメーション(DX)領域だ。なかでも、企業経理を巡るデジタル化の動きは、2022年1月の改正電子帳簿保存法(電帳法)施行を控えて、関心が高まっている分野である。
改正電帳法の施行により、領収書や請求書を電子保存する際の条件が緩和されることから、経理のデジタル化を進める企業の増加が見込まれる。一方で、電子データで受け取った書類は電子保存が義務づけられ、この対応も迫られる。改正法施行には猶予期間も認められるが、その分、関連ビジネスは今後活発化しそうだ。
●電子帳簿保存法とは
電帳法は1998年にスタートした法律で、それまで紙で保存することが義務づけられていた仕訳帳などの帳簿や請求書などの書類について、全部または一部を電子化して保存する際のルールが決められたもの。成立当初は導入に消極的な企業がほとんどだったが、過去数回にわたる改正によって適用要件が緩和されたことで、近年では大企業を中心に導入が進んでいる。
現行の電帳法では、経理書類を電子保存するために「開始3ヵ月前までの税務署長の事前承認」「職員の相互チェック体制の整備」「書類受領から3日以内に電子化し、改ざんできないようタイムスタンプを付与する」といった条件があるが、改正電帳法では事前承認と相互チェック体制の整備をなくすほか、タイムスタンプの付与期間が3日から2ヵ月以内に延長され、条件が大幅に緩和される。
現行の電帳法では、条件を満たすのは大手企業以外には難しかったが、改正電帳法によりタイムスタンプシステムなどを用意するだけでデジタル経理を導入しやすくなり、大手企業以外に間口が大きく広がる可能性が高い。
一方で、電子取引データを紙に印刷して保存することは認められず、国税庁が求める要件に沿って電子的に保存しなくてはならなくなる。こうした規制の強化に伴う需要も期待できる。
●23年のインボイス制度スタートも追い風
もっとも、改正電帳法の施行に関しては、12月6日付の日本経済新聞朝刊で「政府・与党は2022年1月に施行する電子帳簿保存法に2年の猶予期間を設ける」と報じられており、2年間の猶予期間が設けられる見通しだ。今回の改正は、21年度税制改正大綱に盛り込まれた後、準備期間が1年しかなかったため法改正に関する認知度が低く、またシステム改修が間に合わないといった声も上がっており、こうした声に対応した。
ただ、デジタル化の機運がなくなるわけではない。猶予期間が設けられ、周知が進むことで、むしろこれにより対応を進める関連ビジネスが本格化する可能性が高い。
また、企業経理に関しては、消費税額を正確に徴収するために適用税率や税額の記載を義務づけたインボイス制度(適格請求書等保存方式)が23年10月に始まることから、この対応も進めなければならない。請求書の記載事項が増えるためデジタル化の需要は更に高まるとみられ、関連ビジネスは活発化することはあっても停滞することはなさそうだ。
●ラクス、マネフォなどに注目
インフォマート <2492> は、 BtoBプラットフォーム事業に特化しており、なかでも請求書クラウドサービス「BtoBプラットフォーム 請求書」は、受け取った請求書が電帳法に対応しているため、申請やスキャナー保存の必要がなく、また仕訳も自動で完了するため、経理担当者の負担軽減に貢献する。21年9月末時点で同サービスのログイン社数は63万社(前年同期比35.6%増)と順調に積み上がっているが、21年12月期通期は開発費や販促費の積極投入もあり、連結営業利益は9億4000万円(前期比36.1%減)の見通しだ。
ラクス <3923> は、クラウド事業とIT人材事業が2本柱だが、主力のクラウド事業で交通費や経費などの経費精算システム「楽楽精算」が電帳法に則した領収書・請求書のスキャナー保存と電子取引の保存に対応している。また、22年1月には新サービスとして電子帳簿保存システム「楽楽電子保存」の提供を予定しており、電子請求書発行システム「楽楽明細」で受け取った電子請求書などの帳票を電子保存・一元管理ができるようにする。22年3月期は人件費や広告宣伝費などの積極投資で連結営業利益は13億4100万円(前期比65.6%減)を見込む。
マネーフォワード <3994> は、企業向けクラウド業務ソフト「マネーフォワード クラウド」や、個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード ME」などを展開しており、「クラウド経費」が電帳法のスキャナー保存及び電子取引に対応している。集計中の21年11月期業績は、「マネーフォワード クラウド」の広告宣伝の強化などを予定しており、連結営業損益11億9600万円の赤字~7億9600万円の赤字(前の期28億400万円の赤字)を見込む。
ISID <4812> は、10月に提供を開始した経費精算システム「Ci*X Expense」最新版で改正電帳法へ対応した。電帳法では正式な書類として認められるために、スキャナー保存した画像や撮影した画像に「タイムスタンプ」を付与する必要があり、同製品ではアップロードした時点でタイムスタンプを自動で付与するが、最新版ではタイムスタンプ付与サービスを利用しない運用にも対応するため、電帳法関連の設定項目の変更や証ひょう経過日数チェックのルールなどについて改修を行ったという。なお、21年12月期は連結営業利益125億円(前期比2.6%増)の見通しだ。
ROBOT PAYMENT <4374> [東証M]は、インターネット決済代行サービスを提供する「ペイメント事業」が主力だが、「ファイナンシャルクラウド事業」として毎月の請求・集金・消込・催促の自動化を実現するクラウドサービス「請求管理ロボ」を提供しており、電帳法に対応している。直近で同サービスは取引社数や取引規模の大きい大手企業への導入が進み、サービスを通じて取り引きされる請求金額が1月から10月末までで約2770億円に達しており、20年の年間実績を上回った。これを牽引役として21年12月期単独営業利益は1億5700万円(前期比83.1%増)を見込む。
Sansan <4443> は、法人向け名刺管理サービス「Sansan」や個人向け名刺アプリ「Eight」を展開するが、近年ではクラウド請求書受領サービス「Bill One」の展開にも注力しており、電帳法に対応している。同サービスでは、請求書の原本をユーザーに代わって保管する「倉庫保管オプション」も提供し、電帳法に対応していない企業でも、紙の請求書を自社で保管する必要をなくすようにする予定。なお、22年5月期の連結営業利益は4億5000万~8億円(前期比38.9%減~8.6%増)の見通しだ。
このほか、SCSK <9719> とSAPユーザー向けに電帳法対応ソリューションを提供するウイングアーク1st <4432> や、申請・承認・精算・仕訳・振込といった一連のワークフローをすべて電子化した「TeamSpirit」で電帳法に対応するチームスピリット <4397> [東証M]、クラウド会計ソフト「freee会計」が電帳法に対応するフリー <4478> [東証M]なども関連銘柄として挙げられる。更に、電帳法に対応したAI-OCRサービスを展開するシグマクシス・ホールディングス <6088> 、アイリックコーポレーション <7325> [東証M]などにも注目したい。
株探ニュース
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