資源・新興国通貨の2022年3月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2021/10/25 14:47

豪ドル

RBA(豪中銀)は10月5日の会合で政策金利を0.10%に据え置きました。声明では、「インフレ率が2~3%の目標レンジに持続的に収まるまでは、政策金利を据え置く」と改めて表明。「利上げの条件は24年まで満たされない」との見通しも維持しました。

RBNZ(NZ中銀)は10月に利上げを実施。BOE(英中銀)は早ければ11月の会合で利上げに踏み切る可能性があります。米FRBやBOC(カナダ中銀)は22年中に利上げを行う可能性を示しています。他の主要中銀と比べてハト派的なRBAの政策スタンスは、豪ドルにとってマイナス材料と考えられます。

一方で市場では、RBAは早ければ22年後半にも利上げを行うとの観測が浮上しています。最近の原油高の影響によって豪州のインフレ圧力が今後高まる可能性があるからです。RBAの利上げ観測が高まる場合、豪ドル/円は堅調に推移しそうです。豪ドル/米ドルについては、FRBの利上げ観測が高まれば、上値が重くなるかもしれません。

豪ドルは投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオンが強まる場合、豪ドル/円や豪ドル/米ドルの支援材料となりそうです。

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豪ドル/NZドルは、上値が重い展開になるかもしれません。RBAは政策金利を当面据え置くとみられる一方、RBNZ(NZ中銀)は利上げを継続する可能性があり、両中銀の金融政策の方向性の違いが市場で意識されそうです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米FRBの金融政策。
・資源(主に鉄鉱石)の価格動向。
・米中関係、豪中関係(中国は豪州の主要輸出先)。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は10月6日の政策会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を0.25%から0.50%へと引き上げました。RBNZが利上げしたのは、14年7月以来、7年3カ月ぶりです。

RBNZは声明で「コストの上昇圧力は、より持続的になっている」との見方を示し、「(NZの)総合CPI(消費者物価指数)は中期的に2%へと向かう前に、短期的に4%を上回る」と予想。「時間とともに金融刺激策のさらなる解除が予想される」とし、追加利上げを示唆しました。

RBNZは11月24日の次回政策会合で追加利上げを行うと市場は予想。OIS(翌日物金利スワップ)を参考にすると、RBNZの政策金利は22年10月までに2.00%へと上昇するとの見方が市場では有力です。

日銀は今後も金融緩和政策を継続するとみられます。RBNZと日銀の金融政策の方向性の違いに支えられてNZドル/円は堅調に推移しそうです。一方でNZドル/米ドルについては、米FRBの早期の利上げ観測が高まる可能性があり、その場合には伸び悩むかもしれません。

豪ドルと同様にNZドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴もあります。主要国の株価が上昇するなどしてリスクオンが強ばれば、NZドル/円やNZドル/米ドルの支援材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米中関係、(中国はNZの主要輸出先)。
・乳製品(NZ最大の輸出品)の価格動向。

カナダドル

カナダドル/円は10月21日、一時92.997円へと上昇。15年11月以来、5年11カ月ぶりの高値をつけました。

カナダドル/円の上昇の背景として、原油高が挙げられます。原油価格の代表的な指標である米WTI原油先物は、14年10月以来の高値圏にあります。原油はカナダの主力輸出品であり、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラス材料です。

世界経済の回復によって原油の需要は今後増加するとみられます。その一方でOPECプラスは今のところ追加増産に慎重な姿勢を示しています。OPECプラスが追加増産へと動かなければ、需給のひっ迫への懸念から原油高は一段と進む可能性があります。その場合、カナダドル/円は堅調に推移しそうです。

BOC(カナダ中銀)は9月8日の会合で政策金利を0.25%に据え置くことを決定。声明では、22年下半期に利上げを行うことを改めて示唆しました。カナダの9月CPI(消費者物価指数)は前年比4.4%と、03年2月以来、18年7カ月ぶりの強い伸びを記録しました。BOCはインフレ高進について「一時的なもの」との見方を示しているものの、最近の原油高の影響によってCPI上昇率は今後も高止まりする、あるいは一段と加速するかもしれません。BOCの見通しよりも利上げ時期は早まる可能性があります。利上げ観測が市場で高まれば、カナダドル/円は底堅さを増しそうです。

<注目点・イベントなど>
・資源(特に原油)価格の動向。
・BOC(カナダ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策。
・米国景気の動向。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は10月21日に政策会合を開き、2.00%の利下げを行うことを決定。政策金利を18.00%から16.00%へ引き下げました。利下げは2会合連続です。

トルコの9月総合CPI(消費者物価指数)は前年比19.58%と、19年3月以来の強い伸びを記録。食品やエネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアCPIは同16.98%と、8月の16.76%から加速しました。

インフレ圧力が高まる中でTCMBは2会合連続で利下げに踏み切り、さらに今回の利下げ幅は前回の1.00%よりも大幅でした。これは、エルドアン・トルコ大統領の金融政策への影響力の強さを改めて示していると言えそうです。TCMBの金融政策への信頼性は一段と損なわれ、独立性をめぐる懸念は一層強まると考えられます。

TCMBは声明で「年末までの利下げ余地は限られている」との見方を示しました。これは、年内に小幅な利下げが行われる可能性があり、来年も利下げが継続されるとの見方ができます。また、TCMBの金融政策はエルドアン大統領の意向次第で変わるとの懸念もあります。

トルコと欧米との関係には要注意です。トルコはS400(ロシア製地対空ミサイルシステム)を追加購入する方針を変えていません。NATO(北大西洋条約機構)の機密情報がロシアに漏洩するおそれがあるとして、米国は以前からトルコのS400購入に強く反対しています。また、10月23日には、米独仏など10カ国の駐トルコ大使を国外に追放するようにエルドアン大統領が外務省に指示しました。

トルコリラ/円には下押し圧力が加わりやすい状況が続きそうです。トルコリラ/円が上昇傾向に転じるためには、TCMBが利上げする必要があると考えられます。利上げをすることによってインフレの抑制に向けての決意を示すとともに、TCMBがエルドアン大統領から独立していることを示すことになるからです。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。
・トルコと米国や欧州との関係。
・トルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は20年7月に利下げを行った後、前回(21/9)まで7会合連続で政策金利を3.50%に据え置きました。一方で、南アフリカの9月CPI(消費者物価指数)は前年比5.00%と、SARBのインフレ目標(3~6%)の範囲内に収まったものの、目標中央値である4.5%を5カ月連続で上回りました。

SARBは10月5日、半年に1度の「金融政策レビュー」を公表しました。「21年上半期の(南アフリカの)予想以上の景気回復は、基調的な物価圧力が当初の想定よりも強いことを示唆している」と指摘。「インフレ率は目標中央値近辺にあり、需給ギャップは縮小している」とし、「政策金利は中期的に中立水準へと調整する必要がある」との見方を示しました。

SARBは11月18日の次回会合で利上げに踏み切る可能性があります。11月に利上げが行われ、さらにSARBの声明や総裁会見で追加利上げが示唆されれば、南アフリカランド/円の支援材料になりそうです。

一方で、南アフリカはエスコム(国内電力の約9割を供給する国営電力会社)の問題を抱えています。エスコムは経営危機に陥っており、以前から計画停電をたびたび実施しています。長期間の計画停電が行われるなどして南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で再燃する場合、南アフリカランド/円は下押しする可能性もあります。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。
・商品価格の動向。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は9月の政策会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を4.50%から4.75%へと引き上げました。利上げは3会合連続です。

メキシコの9月総合CPI(消費者物価指数)は前年比6.00%と、7カ月連続でBOMのインフレ目標(3%)の許容レンジの上限である4%を上回りました。変動の大きい食品やエネルギーを除くコアCPIは同4.92%と、17年8月以来の強い伸びでした。

最近の原油高の影響によってインフレ圧力は今後一段と高まる可能性があり、BOMは利上げを継続するとみられます。そのことは、メキシコペソ/円の下支え材料と考えられます。

メキシコペソ/円は、原油価格(米WTI原油先物など)の動向に影響を受けやすいという特徴もあります。原油価格が引き続き堅調に推移すれば、メキシコペソ/円は上値を試す展開になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)の金融政策。
・資源(主に原油)価格の動向。
・米FRBの金融政策。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想