S&P500月例レポート(21年8月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2021年7月
個人的見解:新型コロナウイルス、インフレ、債務上限問題、見通せない議会の行動。いずれも株式市場における矢継ぎ早の最高値更新の妨げとはならない
7月は投資家にとって非常に満足できる月となりました。米国では相場の上昇が続き、それが常態化する中で最高値の更新が続きました。ワクチン接種を受けていない人々の間で変異株の感染者数が急増しているにもかかわらず、米国では経済活動の再開が最大の関心事となりました(小売店では会計用レジやクレジットカードを機械に通す音が止むことなく続きました)。
しかし世界全体を見ると、状況はそれほど良くはありません。感染拡大の第4波が押し寄せる中、景気の回復は足踏み状態または回復ペースが鈍化しているようで、米国を含む各国政府はワクチンを接種するよう国民に「説得する」作業に追われました(年初来の株式市場のパフォーマンスは米国の独り勝ちでした。S&P米国総合指数は16.48%上昇しましたが、米国を除いたS&Pグローバル総合指数の上昇率は6.62%にとどまりました)。フランスとイタリアではワクチン未接種者に対して一部施設への入場を制限している一方、英国は「フリーダム・デー」を宣言して経済活動を全面的に再開したものの、国内の感染者数の増加が続いています。さらにジョンソン首相も濃厚接触者に該当するとして、自主隔離しなければならない事態となりました。米国では、疾病予防管理センター(CDC)が(ワクチン接種の有無にかかわらず)国民全員に対してリスクがあると考えられる屋内でのマスク着用を推奨しています。バイデン大統領も連邦政府職員に対してマスク着用を義務付け、ロサンゼルスとニューヨーク市では(9月から始まる)学校でのマスク着用を義務化しています。
それでも、S&P 500指数は年初から好調に推移しています。一部の市場参加者は手仕舞い売りをして、残りの年内はバカンスを楽しもうと考えています。しかし、株価を下支えるために(米国内や海外の)多くの投資家が大量の資金を株式市場につぎ込んでいるのに、相場から撤退する理由があるでしょうか。おそらく最善の策は、相場への投資を継続しつつ、「弱気相場の気配」を察知するや否や瞬時に動けるように「売り」ボタンに指をかけておくことでしょう。少なくとも最近の相場の動きを振り返ると、翌日には必ず底値で買うことができるからです。
第1四半期に続き第2四半期も相場上昇を支えたのは、7月後半に相次いだ企業の決算発表でした。決算内容は事前予想を大幅に上回る結果となり(利益と売上高のいずれも全体の88%で予想を上回った)、利益率も引き続き高水準を維持しています(第2四半期は過去最高となる13.1%に達する見通し)。業績予想も上方修正され(デルタ変異株や供給面に関する注記あり)、企業はコスト増を目下のところ、財布の紐が緩みきった消費者に転嫁できているようです。
7月中にS&P 500指数は終値での過去最高値を7回更新しました(6月は8回、年初来では41回)。同指数は2020年11月以降、毎月最高値を更新しています(2020年8月と9月も最高値を更新しましたが、10月は更新できませんでした)。S&P 500指数は7月に2.27%上昇しました(6月の2.22%の上昇の後)。また、年初来では17.02%上昇しました(2020年に通年で16.26%上昇した後)。「素晴らしき哉、(投資)人生!」。
過去の実績を見ると、7月は59.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.94%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.60%の上昇となっています。2021年7月のS&P 500指数は2.27%の上昇でした。
8月は55.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.91%、下落した月の平均下落率は3.95%、全体の平均騰落率は0.70%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、(8月26日-28日はジャクソンホールでの経済シンポジウム)、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日、3月15日-16日、5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。
S&P 500指数は7月に2.27%上昇して4395.26で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス2.38%)。6月は4297.50で終え、2.22%の上昇(同プラス2.33%)となり、5月は4204.11で終え、0.55%の上昇(同プラス0.70%)でした。過去3ヵ月間では5.12%上昇(同プラス5.50%)、年初来では17.02%上昇(同プラス17.99%)、過去1年間では34.37%上昇(同プラス36.45%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは29.80%上昇して月を終えました(同プラス32.94%)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は再び3万5000ドルを突破し、今回は初めて終値でも3万5000ドル超えを記録しました(初めて3万5000ドルを突破したのは5月10日)。とはいえ、月末は3万5000ドル割れとなり、最終的に1.25%上昇の3万4935.47ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.34%)。なお、6月は3万4502.51ドルで終え、0.08%の下落、5月は3万4529.45ドルで終え、1.93%の上昇(同プラス2.21%)でした。過去3ヵ月間では3.13%上昇(同プラス3.60%)、年初来では14.14%上昇(同プラス15.31%)、過去1年間では32.19%上昇(同プラス34.79%)でした。
主なポイント
○S&P 500指数は、7月に終値ベースでの最高値更新を7回記録しました(6月は8回)。2020年11月以降、毎月終値での最高値を更新してきたことになります(2020年10月は最高値を更新できませんでしたが、その前の9月と8月は最高値を更新)。
⇒S&P 500指数は7月に2.27%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス2.38%)。6月は2.22%上昇(同プラス2.33%)、5月は0.55%上昇(同プラス0.70%)、4月は5.24%上昇(同プラス5.34%)、3月は4.24%上昇(同プラス4.38%)、過去3ヵ月では5.12%上昇(同プラス5.50%)、年初来では17.02%上昇(同プラス17.99%)、過去1年間では34.37%上昇(同プラス36.45%)でした。
⇒同指数は7月に7回最高値を更新しました。また、1回だけ初めて終値で4400を超えましたが、月末は4400を割り込みました。6月の最高値更新は8回でした(5月は1回、4月は10回、3月、2月、1月は5回)。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは29.80%上昇し(同プラス33.94%)、同期間に終値ベースで60回、最高値を更新しました。
⇒2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は30.46%の上昇(同プラス31.93%)でした(バイデン大統領就任以降に39回、最高値を更新しています)。
⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では96.45%上昇しています(同プラス100.79%)。
○現時点で、294銘柄が2021年第2四半期の決算発表を終え、258銘柄(87.8%)で利益が予想を上回り、27銘柄が予想を下回り、9銘柄は予想通りとなりました。また、293銘柄中の259銘柄(88.4%)で売上高が予想を上回りました。
⇒2021年第2四半期の利益予想は同四半期末時点から11.0%引き上げられ、過去最高を記録した第1四半期をさらに3.4%上回る過去最高益が見込まれています。
○政局関連では超党派議員が提案したインフラ投資計画をめぐって詰めの協議が続きました。1兆ドル規模と見込まれる計画案には橋や道路の整備のほか、両党が合意したインフラ整備計画が含まれていますが、(それぞれの党の意向がより強い)他の整備案件については後回しとされています。
○新たな与野党間の対立の火種が燻りつつあります。イエレン財務長官は議会に対し債務上限の引き上げ(あるいは適用停止措置の延長)に向けた対応を迫りました。イエレン長官は2021年8月1日に連邦債務は上限に達するため、翌8月2日には財務省が「緊急措置」を発動しなければならなくなるとしています。
⇒民主党は共和党の同意を得ることなく、単独で上限を一時的に調整することが可能です。
○市場関係者のS&P 500指数の1年後の目標値はこの1ヵ月間で上昇し、現在値から11.6%上昇(前月は10.9%上昇)の4905(かなり強気な予想)となっています(6月末の目標値は4767、5月末の目標値は4716)。ダウ平均の目標値は現在値から11.1%上昇(前月は10.5%上昇)の3万8796ドル(かなり強気な予想)となっています(同3万8123ドル、同3万7501ドル)。
バイデン大統領と政府高官
○世界共通の最低法人税率を設定するという米国の提案は、国際課税ルールの見直しの一環として130ヵ国から支持を受けました。本来であれば、現在は詳細な制度設計と、署名に向けた準備が進められているところですが、実際には自らの利害を守りたいとの思惑から各国で反発が予想されます。
○上院予算委員会の民主党議員は、3.5兆ドル規模の人的インフラ計画で合意しました(バイデン大統領は4兆ドル、民主党の進歩派は6兆ドルを提案)。同計画は共和党の支持がなくとも可決する可能性があります。
○これとは別に、上院は1兆ドル規模のインフラ法案の審議入りをめぐり、賛成67、反対32で可決しました。これにより歳出は新たに5480億ドルが追加されることになります。今回の採決と政治基調から判断すると、法案は最終的に可決される見通しです。
新型コロナウイルス関連
○変異ウイルスの感染拡大が続いています。大半はワクチン未接種者ですが、接種済みの人でも感染が確認されています。
○英国は、ワクチン接種済みの感染者数が1週間で85%増加したことを明らかにしました。
⇒英国は「フリーダム・デー」と称し、新型コロナウイルス関連の規制をほぼ全面的に解除しましたが、国内の感染者数は急増し(1日当たり5万人超)、ジョンソン首相は濃厚接触者に該当するとして自主隔離を行い、米国は英国への渡航警戒レベルを引き上げました。
○東京オリンピックが7月23日~8月8日に予定される中、東京都は4回目となる緊急事態宣言を発出しました。
⇒2020年から延期された東京オリンピックが、17日間の日程で開幕しました。開会式では、世界各国から集まった大勢の参加者や観客、要人といういつもの光景はありませんでした。オリンピックが終了する8月8日以降まで東京都には緊急事態宣言が発出され、感染者数が急増する中、日本人のうちワクチン接種が完了しているのは人口の27.2%(1回接種は38.3%)にとどまることから、試合は無観客で行われます(一部を除く)。
○フランスは、ワクチン未接種者が公共のイベントに参加することを制限し、イタリアも同様の措置を導入しました。
○米国では、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長が、ウイルス感染が「間違った方向」に進んでいると指摘しました。CDCはワクチン接種完了者もマスクを着用し、学校(幼稚園から高校まで)では全員がマスクを着用するよう推奨しました。
⇒ロサンゼルスは米国の主要都市で初めて、ワクチン接種の有無に関係なく屋内でのマスク着用を再び義務化し、フィラデルフィアとニューオリンズもこの動きに追随しました。9月に新学期が始まった後の児童のマスク着用をめぐっては、地域によって対応が分かれています。
⇒ロサンゼルスとニューヨーク市は域内で働く公務員に対し、ワクチンの接種または毎週のPCR検査を義務化しました。
⇒バイデン大統領は全ての連邦政府職員を対象に、ワクチン接種またはマスクの着用と定期的なPCR検査を義務化する意向を明らかにしました。ワクチン未接種者の移動制限の強化も発表されたほか、大統領は地方政府に対し、ワクチンを接種する人に100ドルを支給するよう要請しました。
○職場復帰のスケジュールは壁にぶつかっており、アップル
○ファイザー
○新型コロナウイルスの治療薬と治療法、そして夢の万能薬
⇒現時点で、世界全体で37億4000万人が1回以上のワクチン接種を受けました(5月末時点では17億4000万人、4月末時点では11億人、3月末時点では5億7400万人、2月末時点では2億2500万人)。
→米国では現時点で、3億4400万人が1回以上のワクチン接種を受けました(同2億8900万人、同2億3700万人、同1億4800万人、同6830万人)。
・人口の57.2%(5月末時点では49.4%、4月末時点では43.3%)が少なくとも1回は接種したことになり、人口の49.4%(同39.3%、同30.0%)が2回の接種を終えました。
⇒米国の1日当たり接種回数の7日平均は62万回に低下しました(5月末時点では170万回、4月末時点では263万回、3月末時点では277万回、2月末時点では131万回)。これはワクチン接種希望者の人数が減少しているためです(供給は十分にあります)。
各国中央銀行の動き(および関連ニュース)
○6月15-16日開催のFOMCの議事録によれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は予想を上回る物価上昇を受け、資産買い入れのペース(現在は月間1200億ドル)について、住宅関連の証券を中心に予定より前倒しで縮小することについて議論した模様です。
○パウエル議長は下院金融サービス委員会の公聴会で証言し、インフレの上昇は緩やかながら高い状態が続くとみられるが、資産買い入れの縮小は「まだ先の話」だと述べました。インフレに関しては、FRBは必要に応じて行動(利上げ)する意向だが、現時点においてインフレはなお一過性と思われるとの見方を強調しました。
○動画投稿アプリTikTok(ティックトック)を運営する中国のByteDance(バイトダンス)は、中国政府からデータセキュリティ上のリスクへの対応を求められたことを受け、IPOを延期しました。
○FOMCが開催され、金融政策に大きな変更はありませんでした。経済状況に進展があったとした上で、月額1200億ドルの資産買い入れの縮小について議論を開始することが示されました。FRBは、インフレが予想を上回るペースで上昇したことを認めましたが、依然として一過性であるとの見方を維持し、そうでないことが確認された場合には、この問題に対処するとの意向を示しました。
IPOおよび「空箱」SPAC
○ドーナツチェーンを運営するクリスピー・クリーム
○中国政府は、6月末に上場した配車アプリのディディ・グローバルADR
○動画投稿アプリTikTok(ティックトック)を運営する中国のByteDance(バイトダンス)は、中国政府からデータセキュリティ上のリスクへの対応を求められたことを受け、IPOを延期しました。
○投資アプリを手掛けるロビンフッド・マーケッツ
○今後も活発なIPOが見込まれます:
⇒地域SNSを運営するNextdoor(ネクストドア)はSPAC(特別買収目的会社)のコースラ・ベンチャーズ・アクイジション
⇒デジタル貯蓄・投資アプリを運営するAcorn(エイコーンズ)はSPAC経由での上場を計画しており、企業評価額を22億ドルと見込んでいます。
⇒英国のオンライン中古車販売会社Cazoon Holdingは、SPAC経由で上場することを明らかにしました。上場時の企業評価額を80億ドルと見込んでいます。
⇒未公開のリチオムイオン電池メーカーEnovix(エノビックス)はSPAC経由での上場を準備しており、当初評価額11億ドルを見込んでいます。
⇒イスラエルのデジタル取引プラットフォームのeToro Group(イートロ・グループ)はSPAC(FinTech)経由で上場すると発表しました。時価総額100億ドルを見込んでいます。
⇒東南アジアでライドシェア、フードデリバリー、送金のアプリを運営しているGrab Holdings(グラブ・ホールディングス)はSPAC経由で上場することを発表し、企業評価額を400億ドルと予想しています。
⇒EVメーカーLucid Motors(ルシード・モータース)はChurchill Capital Corp IVとの合併を通じて上場を計画しています。
⇒シェアオフィス大手のWeWork(ウィワーク)が再び上場を計画しており、上場時の企業評価額として90億ドルを見込んでいます。これに対して、パンデミックにより労働環境が変化するよりもかなり前の2019年の評価額は470億ドルでした。
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