資源・新興国通貨の2020年末までの展望

著者:八代和也
投稿:2020/08/28 15:36

豪ドル

RBA(豪中銀)は3月に利下げを行い、3年物豪国債の利回り目標を導入。4月以降は、政策金利と3年物豪国債の利回り目標のいずれも0.25%に据え置いています。

RBAは政策金利について、「0.10%まで下がる可能性はあるが、マイナス金利を導入する可能性は非常に低い」との見方を示しています。また、豪ドル高についても現時点で懸念していないようです。ロウ総裁は8月14日、「豪ドルが過大評価されているとは言えない」と述べ、「豪ドルを押し下げるために介入する用意はない」と語りました。RBAがこうした姿勢を今後も維持すれば、豪ドルは堅調に推移するとみられます。また、豪州の主力輸出品である鉄鉱石の価格が2014年以来の高値圏にあり、それも豪ドルの追い風になりそうです。

注意したいのは、米国と中国の対立が激化するなどしてリスクオフが強まることです。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料と考えられます。

<注目点・イベントなど>
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。
・米中、豪中の関係。
・RBAの金融政策や豪ドル相場に関する見解。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は4月利下げ以降、政策金利を0.25%に据え置いています。その一方で、3月に導入したLASP(大規模資産購入プログラム)を拡大しており(4月、5月、8月)、金融緩和を強化しています。金融政策の先行きについては、「マイナス金利の導入(政策金利をマイナスへと引き下げ)も選択肢にある」とRBNZは明言。マイナス金利に関するRBNZとRBA(豪中銀)の姿勢を考えると、NZドルは豪ドルに比べて上昇しにくいとみられます。

市場では、RBNZは2021年にもマイナス金利を導入するとの観測があり、その観測はNZドル/円やNZドル/米ドルの上値を抑えそうです。一方で米ドルが全般的に軟調なため、それに支えられてNZドル/米ドルはそれほど下がらないかもしれません。

NZの総選挙が10月17日に行われる予定です(コロナ対応のため、当初の9月19日から延期)。総選挙で労働党(最大与党)が単独過半数を獲得すれば、政局が安定することとなり、NZドル/円やNZドル/米ドルにとってプラス材料と考えられます。NZ議会(一院制、定数120)における労働党の議席は現在46(55議席の国民党に次ぐ第2党)。「NZファースト党(9議席)」と「緑の党(8議席)」と連立することによって労働党は政権を維持しています。

<注目点・イベントなど>
・NZ総選挙(10/17)。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。
・米中の関係。
・RBNZの金融政策やNZドル相場に関する見解。

カナダドル

カナダドルは今週(8/24- )、対米ドルで約7カ月ぶり、対円で約2カ月半ぶりの高値をつけました。足もとのカナダドル高の背景として、米ドルが全般的に軟調なことや原油価格の上昇が挙げられます。米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)は今週、約5カ月半ぶりの高値を記録。カナダは産油国のため、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラスです。

「OPECプラス」は8月から協調減産の規模を日量960万バレルから770万バレルへと縮小しました。そのことはWTI原油先物にとってマイナス材料と考えられます。一方で今年春のように主要国で一斉に経済活動にブレーキがかかる可能性は低いとみられるため、原油の需要が今後大きく落ち込むこともなさそうです。WTI原油先物は引き続き堅調に推移すると考えられ、その場合にはカナダドル/円は上値を試す展開が想定されます。

<注目点・イベントなど>
・原油価格の動向。

トルコリラ

トルコリラは今週(8/24- )、対米ドルで過去最安値を記録。対ユーロや対円でも過去最安値圏にあります。「トルコの外貨準備の減少」や「TCMB(トルコ中銀)のインフレ対応が不十分との見方」、「トルコとギリシャの関係悪化」などを背景に、リラに対して下押し圧力が加わっています。2020年末に約800億米ドルだったTCMBの外貨準備高は、足もとで550億米ドル程度へと減少。外貨準備の減少は、トルコ当局によるリラの買い支え余力の低下を示唆します。

リラ安に対し、TCMBは「流動性措置」や「国営銀行などに対して個人や企業向け融資の金利の引き上げを指示する」ことで対応しています。ただ、これらはあくまで時間稼ぎに過ぎないとみられ、リラの下落傾向に歯止めをかけるためには政策金利(1週間物レポ金利)の引き上げが必要と考えられます。利上げによってTCMBが政府から独立していることを示すことになるからです。

<注目点・イベントなど>
・TCMBの金融政策。
・マイナスのトルコの実質金利。
・TCMBの外貨準備高の減少。
・トルコのS400導入問題。
・シリアやリビアの情勢。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は7月の前回会合で0.25%の利下げを決定。政策金利を3.75%から3.50%へと引き下げました。利下げは5会合連続です。

SARBは一段と利下げする可能性があります。南アフリカ景気は低迷が続いており、GDP(国内総生産)成長率(前期比年率換算)は2020年1-3月期まで3四半期連続でマイナスを記録。4-6月期は、コロナの影響によって大きく落ち込むと予想されるためです。SARBの利下げ観測が、南アフリカランドの上値を抑えるとみられます。4-6月期GDPは9月8日に発表されます。

また、南アフリカの電力供給の不安もランド安材料となり得ます。発電施設の老朽化やエスコム(国営電力会社)の経営危機により、同国ではこれまでにたびたび計画停電が実施されており、先週(8/17- )も実施されました。計画停電は低迷する経済を一段と下押す可能性があります。

一方で、金(ゴールド)が過去最高値圏にあり、また主要国の株価が足もとで底堅く推移しています。金は南アフリカの主力輸出品、またランドの特徴として投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいことが挙げられます。主要国株価が堅調に推移すれば、ランドはそれほど下がらないかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・SARBの金融政策。
・南アフリカの電力供給不安
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は8月13日、0.50%の利下げを決定。政策金利を5.00%から4.50%に引き下げました。利下げは10会合連続。0.50%の利下げは4対1の賛成多数であり、決定に反対した1人は0.25%の利下げを主張しました。

メキシコの4-6月期GDP(国内総生産)成長率は前期比マイナス17.1%、前年比マイナス18.7%。景気が大きく落ち込む一方で、7月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比3.62%と、BOMの目標である3%を上回りました(許容レンジである2-4%には収まっています)。足もとの原油価格の上昇を考えると、CPI上昇率は今後高止まりする、あるいは許容レンジ上限である4%に近づく可能性があります。BOMは今後、景気だけでなく、インフレにも警戒し始めるかもしれません。今後、BOMの利下げはいったん休止との観測が市場で高まる可能性があり、その場合にはメキシコペソの支援材料となりそうです。

また、メキシコは産油国のため原油価格(米WTI原油先物)の動向もペソ相場に影響を与えると考えられます。原油価格が堅調に推移すれば、ペソは上値を試す可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・BOMの金融政策。
・原油価格の動向。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想