資源・新興国通貨の2020年末までの展望

著者:八代和也
投稿:2020/07/31 14:08

豪ドル

ロウRBA(豪中銀)総裁は7月21日、「RBAは将来必要なら政策を変更する可能性を排除していない」と述べ、「(RBAの)政策金利(7/30時点で0.25%)は0.10%まで下がる可能性がある」としつつも、「マイナス金利を導入する可能性は極めて低いというRBAの見解に変化はない」と発言。日銀やECB(欧州中銀)のようにRBAの政策金利がマイナスになる可能性は非常に低いとの見方を示しました。

ロウ総裁はまた、豪ドルについて「ファンダメンタルズとおおむね合致しており、(豪ドルを)押し下げるための介入は必要ない」と述べ、足もとの豪ドル高を懸念していないことを示唆しました。金融政策や豪ドル相場に対するRBAの見解は豪ドルを下支えする可能性があります。

一方で、このところビクトリア州を中心に豪州でコロナの感染者が増加しており、また米中関係や豪中関係が悪化しています。豪景気をめぐる懸念が高まる、あるいは市場でリスクオフが強まる場合、豪ドルは上値が重くなりそうです。

<注目点・イベントなど>
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。
・米中、豪中の関係。
・RBAの金融政策や豪ドル相場に関する見解。

NZドル

NZドル/米ドルやNZドル/円は7月、いずれも2020年1月以来の高値を記録しました。堅調なNYダウが投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいNZドルにとってプラス材料となったほか、NZドル/米ドルについては米ドル安も上昇要因となりました。

NZの総選挙が9月19日に行われる予定です。世論調査では労働党(最大与党)の支持率は国民党(最大野党)を大きくリード。今後発表される世論調査で労働党が単独過半数を獲得する可能性が高いとの見方が市場で強まれば、NZドルは底堅さを増す可能性があります。なお、NZ議会(一院制、定数120)における労働党の議席は現在46(55議席の国民党に続く第2党)。「NZファースト党(9議席)」と「緑の党(8議席)」と連立することによって労働党は政権を維持しています。

一方で、市場で米景気をめぐる懸念が高まる、あるいは米中関係が一段と悪化した場合、リスクオフの動きが強まるかもしれません。また、RBNZ(NZ中銀)は将来的にマイナス金利を導入する可能性に言及しているうえ、足もとのNZドル高に懸念を示しています。金融政策やNZドル相場に対するRBNZの姿勢を考えると、NZドルは同じオセアニア通貨である豪ドルに比べて上昇しにくいかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・NZ総選挙(9/19)。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。
・米中の関係。
・RBNZの金融政策やNZドル相場に関する見解。

カナダドル

カナダドル/円は原油価格の動向に影響を受けやすい地合いとなっており、その状況は当面続きそうです。米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)は7月、期近物として3月初め以来の高値を記録。EU(欧州連合)首脳が7500億ユーロの復興基金の設立で合意したことで欧州の景気回復期待が高まりました。産油国の通貨であるカナダドルにとってWTI原油先物の上昇はプラス材料です。

欧州の景気回復期待は引き続き、WTI原油先物を下支えする可能性があります。一方で、米国でのコロナの感染拡大によって米景気の回復ペースが鈍化するとの懸念が市場で高まっており、また「OPEC(石油輸出国)プラス」は8月から協調減産の規模を縮小します(日量960万バレルから770万バレルへ)。WTI原油先物は伸び悩む可能性があり、その場合にはカナダドルも上値が重くなるとみられます。

<注目点・イベントなど>
・原油価格の動向。

トルコリラ

トルコリラは今週(7/27- )、対ユーロで最安値をつけ、対米ドルや対円(トルコリラ/円)で2カ月半ぶりの安値をつけました。リラ安の背景として、「EU(欧州連合)がトルコに対する制裁を強化するとの懸念」や、「外貨準備の減少によってトルコ当局によるリラの買い支えが困難になりつつあるとの観測」が挙げられます。トルコは東地中海でガス田開発を進めており、EUとの関係が悪化。フランスは、トルコがリビア内戦に介入していることに対しても制裁を科すべきとの姿勢です。年初に約800億米ドルあったTCMB(トルコ中銀)の外貨準備高は、足もとで500億米ドル程度へと減少。外貨準備は、自国通貨買い介入(トルコの場合はリラ買い介入)の原資となります。

その他、「リビア情勢(トルコはリビア内戦に関与)」や「大幅なマイナスになっているトルコの実質金利(政策金利から前年比の消費者物価指数上昇率を引いたもの)」も、トルコリラにとってマイナス材料です。リラ安は一段と進む可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・マイナスのトルコの実質金利。
・TCMBの外貨準備高の減少。
・トルコのS400導入問題。
・シリアやリビアの情勢。

南アフリカランド

南アフリカランドは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)に影響を受けやすく、逆に南アフリカ関連の材料には反応しにくい地合いです。他の多くの国と同様にコロナの影響によって南アフリカ経済は4-6月期に大きく落ち込んだ可能性が高いですが、4-6月期GDPの発表は9月8日とまだ先です。ランドは引き続き、南アフリカの材料(経済指標など)よりも投資家のリスク意識の変化に影響を受けやすいとみられます。米国でコロナの感染拡大が続いていることや米景気の先行き懸念が市場で高まっていることを考えると、市場はリスクオフの動きになりやすいかもしれません。リスクオフはランドにとってマイナスです。

<注目点・イベントなど>
・南アフリカの予算案(10月)。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。
・米中の関係。

メキシコペソ

メキシコペソの4-6月期GDP速報値(7/30発表)は前期比マイナス17.3%と、コロナの影響によって過去最大の落ち込みとなりました。メキシコではコロナの感染拡大が続いているうえ、最大の輸出先である米国の景気は低迷が続く可能性があります(メキシコの輸出全体の約8割が米国向け)。それらを踏まえると、メキシコの景気回復は緩慢なものになると考えられます。

BOM(メキシコ中銀)は8月13日に定例会合を開きます。メキシコの6月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比3.33%と、BOMのインフレ目標である3%を上回ったものの、メキシコ景気の弱さを踏まえると、BOMは利下げに踏み切るかもしれません(BOMの政策金利は7/30時点で5.00%)。

BOMの利下げは本来、メキシコペソにとってマイナス材料です。ただ、利下げしたとしても、主要国と比べてBOMの政策金利やメキシコの実質金利(政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの)が高い状況は変化しないと考えられ、ペソはそれほど下がらないかもしれません。

その他、米WTI原油先物(原油価格)の動向や投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)もペソの動向に影響を与える可能性があります。ペソにとってWTI原油先物の上昇やリスクオンはプラス材料、WTI原油先物の下落やリスクオフはマイナス材料です。

<注目点・イベントなど>
・BOM会合(8/13)。
・原油価格の動向。
・主要国における新型コロナウイルスの感染状況。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想