資源・新興国通貨の2020年9月までの展望

著者:八代 和也
投稿:2020/03/27 15:58

豪ドル/円

豪ドル/円は3月に一時約11年1カ月ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってリスク回避の動きが強まったことが要因です。リスク回避は豪ドル安材料となる一方、円高材料です。

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、かつ各国の経済活動が再開する見通しがたたない状況では、豪ドル/円は上値が重い展開が続きそうです。企業活動が再開へと向かえばリスク回避の動きは後退し、豪ドル/円は上昇基調となる可能性があります。

米中貿易協議にも目を向ける必要がありそうです。米中両国は1月に貿易協議“第1段階”に署名したものの、“第2段階”の協議の開始時期は決まっていません。ただ、新型コロナウイルスの影響により、米国は今後、景気後退(リセッション)に陥る可能性があります。追加関税は米国だけでなく、中国にとっても景気の下押し要因であるため、関税の撤廃に向けて第2段階の協議が開始されるかもしれません。貿易協議に進展が見られれば、豪ドル/円の上昇材料となりそうです。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・米中貿易協議の行方。

NZドル/円

NZドル/円は3月に一時約7年9カ月ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってリスク回避の動きが強まったことが要因です。NZドルは投資家のリスク意識の変化を反映しやすいという特徴があり、リスク回避はNZドルにとってマイナス材料です。

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、かつ各国の経済活動が再開する見通しがたたない状況では、NZドル/円は上値が重い展開が続きそうです。企業活動が再開へと向かえばリスク回避の動きは後退し、NZドル/円は上昇基調となる可能性があります。

豪ドル/円と同様、米中貿易協議にも目を向ける必要がありそうです。貿易協議の“第2段階”に進展がみられれば、NZドル/円の上昇材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・米中貿易協議の行方。

カナダドル/円

BOC(カナダ中銀)は3月に2回の利下げ(0.50%×2)を実施。政策金利は0.75%となりました(3/26時点)。米FRBや英BOE、豪RBA、RBNZの政策金利の水準(*)を参考にすれば、BOCにはさらに少なくとも0.50%の利下げ余地があると考えることができます。*FRB:0~0.25%、BOE:0.10%、RBAとRBNZ:0.25%。

世界の景気は今後悪化するとみられ、また原油価格は低迷が続く可能性があるため、BOCは4月15日の次回政策会合で追加利下げを行いそうです(状況が悪化すれば、その前の可能性もあり)。ただ、4月の0.50%の利下げを市場はほぼ完全に織り込んでいます(翌日物金利スワップを参照)。利下げしたとしても幅が0.50%ならば、カナダドル/円はそれほど下落しないかもしれません。

カナダドルは原油価格の動向に影響を受けやすいという特徴があります。原油価格の代表的な指標である米WTI先物は3月20日に一時1バレル=20ドルを割り込み、約18年ぶりの安値を記録。“世界の景気悪化によって原油需要が減少する”との懸念や“産油国間で今後価格競争が起こる”との観測が、原油安の要因です。

原油価格は当面軟調に推移する可能性があり、カナダドル/円は上値が重い展開になりそうです。一方で、OPEC(石油輸出国機構)総会が6月9日、OPECプラス(OPEC加盟国と非加盟主要産油国)の会合が翌10日に行われる予定。OPEC総会やOPECプラス会合が近付くにつれて、原油の協調減産再開への観測が浮上すれば、原油価格は堅調に推移する可能性があります。原油価格が上昇を続ければ、カナダドル/円は上値を試す展開になるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・BOCの金融政策。
・原油価格の動向。

トルコリラ/円

トルコリラは3月に一時、対米ドルで約1年6カ月ぶり、対円(リラ/円)で約1年7カ月ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってリスク回避の動きが強まり、新興国通貨であるリラに対して下押し圧力が加わりました。

今後、リラ安を招きかねない要因は他にもあります。シリア情勢やリビア情勢、トルコのS400(ロシア製地対空ミサイルシステム)導入問題、マイナスになっているトルコの実質金利(政策金利から前年比の消費者物価指数上昇率を引いたもの)などです。シリアやリビアの情勢が不安定化する、S400をめぐり米国とトルコの関係が悪化する、実質金利のマイナス幅が一段と拡大した場合、リラ/円は過去最安値の15.400円(2018/8)に向けて下がる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・シリア情勢、リビア情勢。
・トルコのS400導入問題。
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。

南アフリカランド/円

3月27日、米格付け会社ムーディーズが南アフリカの格付けを発表する予定です(本稿執筆時点では未発表)。ムーディーズにおける南アフリカの現在の格付け(外貨建て長期債)は、投資適格級最低の“Baa3”。格下げされれば、南アフリカの格付けは3大格付け会社(S&P、ムーディーズ、フィッチ)のすべてで“ジャンク(投機的)”となります。南アフリカから資金が大規模に流出するとの懸念が強まり、ランドに対して下押し圧力が加わる可能性があります。

一方で、新興国通貨であるランドの特徴として、投資家のリスク意識の変化を反映しやすいということが挙げられます。世界の経済活動が再開へと向かえば、リスク回避の動きが後退し、ランドの下支え材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・南アフリカの格下げの有無。
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・南アフリカの低成長やエスコム問題。

メキシコペソ/円

メキシコペソは3月、対米ドルや対円で過去最安値を記録。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってリスク回避の動きが強まったことや原油安が、ペソに対する下押し圧力となりました。新興国通貨であるペソにとってリスク回避はマイナス材料であり、またメキシコは産油国です。

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、かつ各国の経済活動が再開する見通しがたたない状況では、ペソ/円は上値が重い展開になりそうです。ただ、経済活動が再開へと向かえば、主要国と比べて優位にある政策金利や実質金利(政策金利から前年比の消費者物価指数を引いたもの)が改めて着目されそうです。その場合、ペソ/円は持続的に上昇する可能性があります。

原油価格については、当面軟調に推移することが予想されます。ただ、経済活動が再開へと向かえば、需要が持ち直すとの観測から上昇へと転じる可能性があります。また、6月9日のOPEC(石油輸出国機構)総会や翌10日のOPECプラス(OPEC加盟国と非加盟主要産油国)が近付くにつれて、原油の協調減産再開への観測が浮上するかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・原油価格の動向。

豪ドル/米ドル

豪ドル/米ドルは3月に一時17年5カ月ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスをめぐる懸念からリスク回避の動きが強まったことが要因です。投資家のリスク意識の変化を反映しやすい豪ドルにとって、リスク回避はマイナス材料です。

RBA(豪中銀)は3月に2回の利下げを実施(3日の定例会合、19日の臨時会合)。政策金利を過去最低の0.25%としました。また、「3年物豪国債の利回りの目標を0.25%前後に設定し、豪国債を買い入れる」と表明。QE(量的緩和)も導入しました。一方で、米FRBも利下げを行い(政策金利は0~0.25%に)、QEを再開しました。RBAとFRBの政策金利の差はほとんどなく、またいずれもQEの実施に踏み切ったことに変わりはありません。ただ、経済規模の大きさからFRBの金融緩和の方がより強く市場で意識される可能性があり、その場合には豪ドル/米ドルの支援材料となりそうです。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・RBAと米FRBの金融政策。
・米中貿易協議の行方。

NZドル/米ドル

NZドル/米ドルは3月に一時約11年ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスをめぐる懸念からリスク回避の動きが強まったことが要因です。豪ドルと同様、投資家のリスク意識の変化を反映しやすいNZドルにとって、リスク回避はマイナス材料です。

RBNZ(NZ中銀)は3月16日に臨時会合(26日から前倒し)を開き、0.75%の利下げを決定。政策金利を過去最低の0.25%としました。さらに23日に臨時会合を再度開催。「今後12カ月で最大300億NZドルのNZ国債を買い入れる」ことを決定し、QE(量的緩和)へと踏み切りました。RBNZの利下げやQEの開始はNZドルにとってマイナス材料です。一方で、米FRBは3月に政策金利を0~0.25%へと引き下げ、さらにQEを再開しました。市場では、経済規模が圧倒的に大きいFRBの金融緩和の方がより強く意識される可能性があります。その場合、NZドル/米ドルの支援材料となりそうです。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスが世界経済に与える影響。経済活動はいつ再開へと向かうか。
・RBNZと米FRBの金融政策。
・米中貿易協議の行方。
八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想