星野リゾート・アセットマネジメント 秋本憲二社長インタビュー

投稿:2015/07/14 19:18

日本の観光は成長産業

秋本 憲二(あきもと・けんじ)
星野リゾート・リート投資法人 執行役員
星野リゾート・アセットマネジメント 代表取締役社長

photo1 1963年山口県生まれ。87年早稲田大学卒業後、アパレル大手、ワールドに入社。92年NHVホテルズインターナショナルに移籍。96年には高級リゾートホテルとして話題を呼んだ「ザ・ウインザー・ホテル洞爺」の立ち上げに参画。98年に星野リゾートへ。主に経営企画、財務戦略を担当し、同社事業拡大の一翼を担う。2013年7月に星野リゾート・リート投資法人を上場。資産運用を担う星野リゾート・アセットマネジメント代表取締役社長となり現在に至る。
 

 「観光立国の実現」という政府目標に加え、今や時代のキーワードとなったインバウンドの盛り上がりもあり、改めて注目される観光産業。中でも異彩を放つのが、数々の旅館再生実績と、斬新なブランドコンセプトで一躍、わが国観光産業のニューリーダーと目されるようになった星野リゾートグループだ。そこで同グループの一員として初の“観光特化型REIT(不動産投資信託)”を立ち上げた星野リゾート・アセットマネジメント社長の秋本憲二社長に、観光産業の現状と将来展望を聞いた。
 

インバウンドまだ黎明期

――訪日外国人が急増しインバウンドが注目されています

 「最近、よくそうした質問を受けるが、実はインバウンドに関しては、現状ではそれほど積極的に取り組んでいるわけではない。もちろん、訪日外国人の増加が追い風なのは間違いないが、私たちの保有物件で言えば、全38物件のうち10%を超えているのは『星のや 京都』など数施設に過ぎない。インバウンドを意識するのは、訪日外国人が3000万人ぐらいになってからでも遅くない」
 「訪日外国人は増えたとは言っても年間1340万人を超えたに過ぎず、フランスの8000万人とは比較にならないしアジアでもまだ4位だ。現在の訪日外国人の増加も、世界的な観光産業の活況という背景が大きく、その意味では本格的なインバウンド時代の到来はこれから。特に現在の訪日外国人は、東京から京都・大阪にかけてのゴールデンルートだけにとどまり、地方への波及という点では物足りない」

観光を変えた星野リゾート流

生産効率を高め魅力的な施設運営

photo2 「これだけ安全で、交通網も発達し、独自の文化がある日本は、訪日外国人の潜在ニーズを満たす魅力が全国各地に数多くある。例えば、彼らは日本人が花見をしている姿を見るだけで感動する。布団、箸、和食、露天風呂といった私たちなら当たり前に思うことも、大きな観光資源だ。彼らは濃密な日本文化を体感することを求めている。私たちがその魅力に気付いていないだけだ」

――インバウンドに頼らずとも星野リゾートグループの事業は順調です

 「インバウンド以前に、実は日本の観光は非常に巨大な潜在市場がある。国民の余暇意識調査でも、統計開始以来、旅行・観光は常に上位に挙がるし、人々の潜在ニーズは常に高い。一方、それを受け入れる側は遅れていて、製造業などと比較すればはるかに生産性が低い状態だった。生産性が低いから、せっかくニーズがありながらも事業として再投資をしにくい、という悪循環が続いていた」
 「そんな中、『ホテルや旅館自らが生産効率を高め、魅力的な施設運営を心掛けさえすれば、必ず業界も成長できるはず』と考えたのが、星野佳路(星野リゾートグループ代表)だった。軽井沢の温泉旅館の4代目として1991年に社長に就任したが、社長就任後、最大の転換点となったのは所有や開発ではなく施設運営に特化して事業を展開したところ。その後、旅館再生事業を中心に事業を拡大し、現在の星野リゾートグループを築き上げたのは周知の通りだ」

――秋本社長が星野リゾートグループに合流したのは

 「星野リゾートに入社したのは98年で、それまではハウステンボスや北海道の洞爺湖にあるウインザー・ホテルで、やはりホテル再生事業に携わっていた」
 「入社当時は、今では考えられないぐらいのどかだった。軽井沢の原っぱで仕事の途中で星野と二人でキャッチボールをしたり(笑)。彼は典型的なビジョナリー型のリーダーで、『日本の観光産業をどう変えていくか』などと熱く語り合っていた」

従業員のマルチタスクを徹底

――生産効率を高めるとは具体的にはどのようなことか。星野リゾートグループの運営手法は、従来の観光施設運営とはどのような点が異なるのですか

 「まず、従業員の『マルチタスク(多能工化)』を徹底しているところが大きな特色だ。従来の日本旅館などは完全に分業制で、仲居なら仲居、フロントならフロント、調理なら調理と仕事がはっきり分かれていた。こうした業務はそれぞれ、忙しい時間が異なるので、暇を持て余す時間も出てくる。暇な時間に従業員を帰宅させる、いわゆる“中抜け”などという制度もあった。これでは従業員のモチベーションは上がらないし、良い人材も集まらない」

安定と成長の両立目指す

 「星野リゾートグループでは基本的に一人のサービススタッフがフロント、レストランサービス、調理、客室清掃と四職種を兼務する体制を取っているので、一人あたりの生産性も上がり、健全な勤務シフトを敷くこともできる。結果として意識の高い従業員が集まり出し、現在では、就職人気でも上位に入るようになった。数年前には25%程度だった星野リゾートグループのブランド認知度も、最近の調査では60%を超えるところまできた」

――星野リゾート・リート投資法人について

 「13年7月に上場した時の初値が57万円で、現在は130万円を超えている。上場する前は、我々が上場を志していることに対して反対意見の方が多かった。何と言っても保有資産6物件、150億円という“世界最小”のREITだったから。それに「『木造の建物をREITに組み入れるなんて聞いたことが無い』と(笑)」
 「その後2年間で順調に資産を増やし、現在では38物件、405億円の資産規模になった。ポートフォリオの構成は、星野リゾートグループの主要3ブランド、『星のや』『星野リゾート 界』『星野リゾート リゾナーレ』の9物件が固定賃料ベースで53.8%を占め、他に星野リゾートグループ以外のオペレーターが運営するホテルを29物件保有している。シンプル・カジュアルなロードサイド型ホテル『チサンイン』、高いデザイン性を有する『カンデオホテルズ』、世界第2位の国際的ホテルチェーン『コンフォートホテル』だ」
 「今後は、星野リゾートグループの運営施設構成比50%程度を維持しながら、外部オペレーターの運営施設も積極的に取得していく。20年までに1000億円の保有資産達成が目標だが、出来る限り前倒しで目標達成できるよう施設取得の検討をしていきたい。星野リゾートと言えば、高級リゾートといったイメージを持つかもしれないが、私たちの事業ビジョンは『全ての旅のニーズに応えたい』というもの。個人的には世界中の若者が宿泊できるカジュアルなホテルチェーンなどは、日本にもっと増えてもいいと思う」

日本の観光産業への投資

――最後に全国の投資家に向けひとことを

 「星野リゾート・リート投資法人を立ち上げたのは、『日本の観光産業に、誰もが投資できる環境をつくりたい』という想いから。これまでは、観光産業への投資はリスクが大きいと一般的に考えられていた。
 だが、基本的にREITは、安定したインカムゲインを得られるよう設計された堅実な投資商品。しかも星野リゾート・リート投資法人は、総資産に対する有利子負債の比率、LTVが全REITの中で最も低く、新規物件取得余力も大きい。安定と成長の両立を目指している」
 「かつて、高度経済成長に突入する前、多くの個人投資家が自動車産業や電機産業に、日本経済発展の願いを託して投資をしていた時代があった。私は現在の観光産業も同じ状況にあると思う。将来有望な日本の観光産業を応援し、投資したいと考える皆様は、是非、星野リゾート・リート投資法人に注目して欲しい」

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星のや 京都(左)と星のや 軽井沢

配信元: みんかぶ株式コラム