金利について

著者:矢口 新
投稿:2016/02/22 13:15

Q:「金利」に関することを質問させてください。

Q1:金利について漠然としていてよく分かっていません。一言で金利と言っても長期金利、短期金利、政策金利、今回のマイナス金利などいろいろな種類があるみたいですが、代表的な金利の名称とその役割を教えてください。それぞれ何が違うのでしょうか?

Q2:また、よく「新発10年もの国債の利回りが長期金利の指標になる」みたいな文章を新聞等で見かけるのですが、これってどういう意味なのでしょうか?

Q3:今回の日銀のマイナス金利導入というのは、民間銀行が日銀に預ける当座預金にいままでは、お金を預ければ、利子がついてきたが、マイナス金利の場合は、逆にお金を取られるということですよね。この政策を日銀がとる狙いは何なのでしょうか?

Q4:あと、どう日常生活にかかわっているのでしょうか?


A1:代表的な金利は、政策金利、短期金利、長期金利となります。

・政策金利は、昔は公定歩合でしたが、形骸化しましたので、市中の短期金利である「無担保コールO/N(オーバーナイト)物レート」の誘導目標が、政策金利と呼ばれるようになりました。

 黒田日銀は政策金利を設けず、量的緩和を行いましたが、市中銀行が日銀に余剰資金を預ける当座預金のレートを-0.1%にするとし、現状ではこれが政策金利と言えるでしょう。

・短期金利とは、借入期間が1年以下の金利の総称です。

 最も短く、代表的なものが銀行間で当面の資金の出し取りを行う時の金利、「無担保コールO/N(オーバーナイト)物レート」です。オーバーナイトとは、今日借りた資金を、明日返すという意味です。貸し手が呼べばすぐに返るところから、コールと呼ばれます。日銀のホームページに出ている2月19日分の速報値は、平均-0.008%(最高+0.001%、最低-0.040%)でした。最高、最低の差は、銀行間の資金ニーズの強弱、信用リスクの大小を反映します。

 マイナス金利でも貸し出すのは、日銀の当座預金のマイナス金利が-0.1%ですから、最低の-0.040%で貸し出しても損失を少なくできるからです。もっとも、取扱高が史上最低水準となり、短期金融市場が機能しなくなると懸念されています。機能しなくなると、銀行間の急な資金ニーズが満たされなくなり、単なる決済の不首尾でも不渡りなどの危機が訪れることになります。そうなれば、日銀が対処するのでしょうが。

 また、Tビルと呼ばれる短期国債の利回りも、短期金利と呼ばれます。これは国が資金調達(借金)する時に参考となる金利で、金融政策だけでなく、インフレ率や景気見通しを反映した需給により変動します。財務省のホームページから直近で得られるデータ、2月18日時点の国債利回りは以下の通りです。

1年:-0.190%
2年:-0.186%、
3年:-0.189%、
4年:-0.169%、
5年:-0.149%、
6年:-0.153%、
7年:-0.145%、
8年:-0.102%、
9年:-0.040%、
10年:+0.027%、
15年:+0.356%、
20年:+0.747%、
25年:+0.940%、
30年:+1.062%、
40年:+1.206%
 
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 2年以降は中期金利、10年以降は長期金利と呼ばれます。

 1月29日のマイナス金利政策発表後の10日間ほどは、10年国債もマイナス利回りを付けることがありましたが、プラスに戻ってきました。マイナス利回りだと、国は事実上の金利を貰いながら借金することができます。金融機関には事実上の応札義務がありますので、課税に相当すると言えるでしょう。


A2:長期金利は「新発10年もの国債の利回り」に代表されます。あえて新発と断るのは、債券は、発行時は10年満期でも、時間の経過と共に9年、8年と短くなるからです。つまり、新発の10年国債は10年を少しだけ切る年限の債券で、その利回りを長期金利の基準としています。

 マイナス利回りは、償還までの元金と利金(複利で再投資)の総額を超える価格で購入することで生じます。つまり、償還まで保有すれば確実に損をするのがマイナス利回りです。

 40年国債でも利回り+1.206%なので、インフレ率が2%になると実質損がでます。このことで、市場は日銀のインフレ政策は40年かけても達成しないと見ていると、解説する人が出てきそうですが、単に買えば価格が上がる(利回りが下がる)だけというのが、実情です。

 マイナス利回りや、実質マイナスでも買うのは、一定以上の国債を保有しなければならない事情、購入価格よりも高く売り抜けることができるという思惑などからです。

 国債が金利の基準という意味は、住宅ローン金利や、企業への貸出し金利、社債発行時の金利に影響を与えるからです。その意味では、日常生活にも影響があります。

 国債はT(Treasury=国庫、財務省)と呼ばれ、上記の金利は、それぞれの年限にT+50(国債利回り+0.5%)などとスプレッドで表示されます。

 とはいえ、民間がマイナス金利で資金調達できることは通常なく、どんなに国債利回りがマイナス幅を広げても、国債利回りとのスプレッドが拡大するだけかと思います。


A3:マイナス金利政策の目的は「円安誘導」だったと思います。前例とした欧州中銀がマイナス金利を導入した2014年6月からは、ユーロ安となりました。また、低金利通貨から高金利通貨に資金が流れることは経済合理的な動きで、利下げは通貨高対策(=通貨安誘導)の1つとして、広く認識されているからです。
 
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 失敗したのは、 金融緩和の限界を露呈してしまったからだと見ています。

 黒田発言は二転三転し、市場で同氏の発言を真に受ける人は少数派になっていると思われます。現状では、2月16日から導入したマイナス金利を、今後増える当座預金の増加分、あるいは銀行の現金増加分に適用するとしているはずなのですが、それだと来年初めには、約75兆円(2015年の当座預金増加分)にマイナス金利が適用される可能性があります。

 これで銀行株が売り込まれたためか、あるいは銀行が日銀の量的緩和80兆円に付き合ってくれなくなると恐れたのか、当面は10兆円、最大でも30兆円にだけ、マイナス金利を適用するとしました。私自身、どちらを信用してよいか分からず、どうせまた変更されると見ています。

 (施行開始2月16日時点のマイナス金利適用分は23兆1940億円だった。最大はゆうちょ銀行や大手信用金庫などが対象の「その他の準備預金制度適用先」で12兆2560億円。次いで外国銀行4兆0930億円、信託銀行2兆3410億円、短資会社など「準備預金制度非適用先」2兆0040億円、都銀1兆6310億円、地銀6250億円、第二地銀2440億円。)

 そこで投機筋は円買いを再開、日銀の次の動きを探りに出ました。そして、日銀から「マイナス幅拡大も辞さない」という言葉を引き出しました。とはいえ、ゆうちょ銀行を含む銀行などの金融機関、また年金運用や預貯金者への悪影響を鑑みると、場当たり的で、とても熟慮した発言とは思えません。

 例えば、ゆうちょ銀行の運用資産は2015年末時点で70.1%が有価証券です。これでも3月末の75.8%から大きく減少しました。とはいえ、外国証券は増やしており、最近の円高の直撃を受けています。また、26.8%が預金及び短期運用資産です。これは3月末の21.0%から増やしました。ところが、当座預金には上記の額にマイナス金利が適用され、短期運用資産であるMMFは、マイナス金利政策で市場が消滅状態です。ここからのマイナス金利幅の拡大はゆうちょ銀行や、年金運用のGPIF「いじめ」か、とさえ思われるほどです。

 マイナス金利政策は運用難から、0.1%の金利目当てに日銀の当座預金に資金を預けていた銀行の選択肢を更に狭めます。ゆうちょ銀行が定額貯金の集中解約に対して手を打たないと明言したように、運用難から預貯金もいらないとなってきています。つまり、銀行がその本業では生きていけない時代となりました。

 このことは、信用リスクから本来ならば貸し出さないところに貸し出す。よりジャンクなハイイールド債を買う。高金利通貨で勝負する。株式投資を増やす。不動産投資を増やす。商品市場で勝負するなどなど。つまり、マイナス金利は銀行のファンド化を促すものです。

 ゆうちょ銀行の資金運用は上記のように、銀行のものというよりは債券ファンドに近いものでした。今後は、ハイリスク・ファンドに変わるか? 貯金残高の減少に任せて、組織自体が自然消滅するか? 生き残るには、どうすればいいのでしょうか? 年金運用も大同小異ですが、こちらは株式投資と外貨投資拡大で乗り切るしかないと思います。


A4:このことが日常生活に与える影響としては、住宅ローン金利の引き下げなどメリット分もありますが、銀行は損をしてまで貸出しはしません。マイナス金利幅の拡大が続くと、取れるところから取るようになってきます。あるいは、住宅ローンが逆に借り難くなることも考えられます。つまり、マイナス金利政策は過当競争を強いますので、弱小の機関は破綻するか、その市場から撤退します。そして、競争者がいなくなると、残ったところが、自由に金利を決めることができるようになるのです。他のローンも基本的には同じです。

 また、短期金融市場やMMFが機能しなくなると、銀行の安定性が損なわれたり、年金、保険の運用者、消費者の選択肢が狭まるなど、結局は国民がそのツケを払います。

 相場が過度に変動している原因は、各国の中央銀行が作っています。日米欧中、その他の中央銀行が未曽有と呼ばれる資金を供給していながら、資金を安全に安定的に運用できる高利回り、高金利商品を消滅させつつあるからです。設備投資も需要に見合う分はし尽してしまい、過剰設備がデフレを招いています。私見では、貧富格差の拡大を是正すれば、需要が喚起されて、設備投資も必要となると見ていますが、どの国の政府も、そこには手をつけていません。

 そこに加えてのマイナス金利政策で、貯蓄や長期投資が美徳とされてきたことが否定され、日常生活でも安定が望めない時代となりました。国民すべてがリスクテイカーになることを求められているようです。これをどう受け止めるかで、自分たちの日常生活も変わると思います。右を見てもリスク、左の見てもリスクなので、逃げ場が見当たりません。自分が取りやすいリスクを見極め、そこに向けて精進することかと思います。
 

配信元: みんかぶ株式コラム