日本の対中国ビジネスモデルの問題点 ―ペティ法則的日中貿易―

著者:叶 芳和
投稿:2015/12/18 12:14

 日本は中国の経済発展に適応できないビジネスモデルになっている。欧米各国は中国向け輸出が伸びているのに、独り日本だけ落ちている。何故であろうか。
 

1、日本は独り沈む

◇減速ながら、輸入の拡大続く

 中国経済は減速しているが、市場規模は依然、巨大である。各国が中国との相互依存関係を発展させながら経済成長を図っている状況に変わりはない。

 表1は、中国のGDP、輸入規模の推移である。中国経済は2012年から7%台に減速しているが、輸入は2014年まで増加基調にある。2015年は素材産業の減産に加え、石油や鉄鉱石など資源価格の下落で輸入総額は減少している。(注、原油の国際価格〈ドバイ原油〉は2014年1月104㌦/バレルから2015年11月42㌦へ、鉄鉱石価格は同期間128㌦/㌧から46㌦へ)。

表1 中国経済の推移


◇独り日本だけ輸出が伸びない

 表2は、中国向けの輸出および中国市場における各国のシェアを示したものである。日本の中国向け輸出額は2011年の1944億㌦をピークに、12年1777億㌦、13年1622億㌦、14年1627億ドルと減少(注、中国の国別輸入値)。これに対し、米国は1181億㌦から1531億㌦に増加、EUも1890億㌦から2173億㌦に増加している。つまり、独り日本だけ、中国向け輸出が減少している。中国市場で日本だけ独り沈んでいる。

 日本のシェアは2005年15.2%から2014年8.3%に低下した。これに対し、米国は7.4%から7.8%とシェアを維持、わずかに上昇している、EU28も9.6%から11.1%に上昇した。(注)

(注)日本のシェアは1995年22.0%、2000年18.5%と高かった。これは日本がアジア地域において独占的地位をもっていた時代の所産であろう。その後、アジア諸国の工業化、欧米諸国のアジア参入を反映して、日本のシェアは低下していく。これは自然の流れであろう。しかし、今なお、低下トレンドが支配し、韓国に追い越され、米国にキャッチアップされている事実は、中国市場における日本の競争力後退を意味しよう。

 二つの理由が考えられる。一つは「日中冷戦」の影響、「政冷経冷」になっているのではないか。もう一つは、日本の輸出は中国の経済発展に対応できないビジネスモデルになっているのではないか。

表2 中国の輸入(国別)

2、中国の経済発展に対応できないビジネスモデル

◇ペティ法則1次産業型の日中貿易

 図1は、中国輸入市場に占める各国のシェアの推移を示したものである。図1を見て、何か思い出さないであろうか。筆者はすぐに、ペティ=コーリン・クラークの法則を思い出した。経済発展に伴い、第1次産業のシェアは低下、第2次、第3次産業のシェアは上昇する。時系列分析でも、クロスセクション分析でも摘出できる強烈な法則である。このグラフを一度見た人は、この法則を忘れることはないであろう。

 日本の対中輸出貿易は、ペティ=コーリン・クラーク法則における1次産業のような型をしている。中国の経済発展に伴い、日本のシェアは大きく低下している。中国市場における“ペティ法則1次産業型日中貿易”である。
 
 
図1 中国輸入に占める各国シェア
 
 クズネッツ逆U字型曲線というのがある。S.クズネッツ(1971年ノーベル経済学賞)は所得の不平等に関する研究で、経済発展と所得の不平等の関係は逆U字型曲線を描くことを発見した。世界銀行は環境問題を分析するに当たり、環境負荷は経済発展に伴い増加するが、あるところまで行くと環境負荷は減少に転じることを見い出し、その関係が逆U字型であることから、「環境クズネッツ曲線」と名付けた(1992年)。

 われわれはこれに習って、沈みゆく日中貿易パターンを「ペティ法則型日中貿易パターン」と呼ぶことにしたい。これは問題提起である。


◇日中貿易は中国の経済発展に対応できていない

 上に見たように、中国輸入市場に占める各国のシェアは、欧米諸国は上昇、逆に日本は大きく低下した。この間、中国経済は発展を続けている訳だから、日本の輸出貿易は中国の経済発展に対応できなかったことを意味する。

 中国経済は構造変化期にあり、産業構造が大きく変化している。一番大きな変化は、経済発展に伴う労働市場の変化であろう。賃金が大幅に上昇し、労働集約的産業から技術集約型へ、さらにサービス経済への転換が進んでいる。労働集約型製造業は東南アジア諸国にシフトが始まっている。

 チャイナプラス・ワンの動きに示されるように、中国に直接投資で進出した日系企業の一部にも、ASEANシフトが起きた。恐らく、この動きが部品や原材料の中国向け輸出に影響が出たのであろう。

 しかし、欧米諸国は、中国の賃金上昇、産業構造の変化にもかかわらず、引き続き中国向け輸出が伸びている。ということは、欧米諸国の対中貿易は中国の経済発展にうまく対応できたが、日本の対中貿易は対応できていないと言うことではないか。低賃金活用だけのビジネスであれば、中国の経済発展に適応できない。賃金上昇は当然のことだから。

 日本は高度な産業技術を持っている。中国の産業構造の高度化に対応できないことはないであろう。ビジネスモデルに問題があるのではないか。欧米諸国の対中ビジネスモデルは研究に値する課題だ。

 中国は世界最大の市場である。日中貿易も、中国の経済発展、産業構造の高度化に適応できるものに進化し、ペティ法則1次産業型から脱却することを期待したい。

配信元: みんかぶ株式コラム