第4話 これからの相場と投資法(バブルリスクを意識した適温相場)
今までの3話が、バブルを経験した世代の目でみたバブルの実態と、バブルに対する抵抗力を検証したものです。
今日は、「失われた20年」を苦しみ抜き、新しい金融政策の下で再生したこれからの日本経済と相場について、私の考え方を記しています。ご覧になられる方の投資方針に少しでもお役に立てれば幸いです。
(1)株価の夢と現実
アベノミクス相場はが始まって3年すぎの2015年2月、株価が18,000円を突破し、一体どこまで上がるのか国中が湧いていたころの話です。株価が40,000円になるという本が、ベストセラーになったのです。
本を買った人は、いったい何に引かれたのでしょうか。本の著者でしょうか、それとも内容でしょうか、出版社なのでしょうか。本の著者は、東京の大学からアメリカの大学でMBAを取得、野村総研から野村證券へ転出、85年に退社後、投資顧問会社を設立。日本や韓国などで、77億円の資産運用と投資顧問を行っているグループ会社の経営者で、現在60歳とのことです。会社はジャスダックに上場していますが、200円前後という株価がちょっと気になります。
学歴、経歴からは、本を書くのには最適の人物のように見受けられますので、業界の裏話や投資のノウハウなどを期待して、本を購入した人も多いかもしれません。問題は中身です。
目次で気がつくのは、「2020年に日経平均は40,000円を超える」という章です。これを見て買った人も多いと思われます。そこで思い出されるのが、あの武者陵司氏です。彼が13年に出した本にも、オリンピックの年とはいっていませんが、株価は40,000円になるとあります。ドイツ証券から独立し、投資顧問や資産運用の会社を経営している点もそっくりです。
武者陵司氏は、強気の論客で通っていますが、90年代から2000年前半まで弱気派の代表格で、株価も彼のいうように動いていました。それが、2006年頃から強気派に転向したのです。そのときの驚きを「武者氏の変身」というテーマで残してありますので、07年4月7日の日記の一部を転載します。
「先日久しぶりにあの武者氏の話をテレビで見ました。昨年ころから武者氏が強気に変身したという話しは聞いていましたので、彼の相場観については特に驚きはなかったのですが、4~5年前の弱気を言っていた際の整然としていた理論組み立ては、強気に変じた今も変わらないのには改めて感心させられました」
「氏の変身の理由は、経済理論通りに動かない最近の経済現象にあるといいます。物価が上昇しているにもかかわらず金利が上がらない、貿易収支が大幅に黒字なのに為替は円高にならない……と、確かに教科書通りに動かない最近の経済には、従来の常識では図りえないものがあります」
このあと、リーマンショックで株価は7,000円を切るところまで下落し、多くの落伍者を出したのはご存知のとおりです。「上を向いて歩く」のは結構ですが、下に何があるのか注意して歩かないと生きてゆけない世界なのです。それでも、彼の強気は健在のようす。どうやら、投資顧問や資産運用をやっていると、みなあのバブルの高値40,000円を目標にするようです。
現在の株価理論では、株価は、EPS(予想1株利益)×PER(株価収益率)で構成されます。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に浮かれていたバブルの最高値は、EPS(660円)、PER(60倍)でした。
武者氏はこの点になると、「常識で考えても駄目」と一蹴するようですが、話題の本では、40,000円を達成したときの、EPSとPERをいくらと考えているのでしょうか。仮に、EPS2000円×PER20倍とすると、そのときのアメリカ株、為替、金利、消費者物価の水準はどうなっているのでしょうか。長期投資を勧めているようですが、その道筋はどうでしょうか。本の著者の投資信託あるいは、投資顧問に一任すれば、資産が倍になるのでしょうか。
目次から見る限り、対象とする読者のレベル、年齢、資産状況などは不明ですし、株式投資の目標も分りません。投資で成功するには時間が掛かります。だから長期投資なのです。でも漫然と株を買い長期に保有していたのでは、平均株価に追いつけません。平均でいくら2倍になるからといって、所有株が2倍になるとは限りません。
最大の疑問点は、40,000円を誰が買うかということです。現在の買い手である公的資金も外国人も、バリュエーションから大きく外れているこの水準では、恐らく買うことはないでしょう。何も分らない個人が、株で儲かった話に釣られて、高値の株を掴まされるのが落ちのような気がします。
いろいろ疑問は残ります。買って見れば、いくつかの疑問は解けるかもしれません。あまり難しいことはいわずに、ベストセラー出版社の販売戦略に乗せられて、読者は夢を買い、その夢に満足すればそれでいいのでしょう。
ところで、現実の相場はどうでしょうか。株式投資のSNS「みんかぶ」の投稿からは、あまり儲かっているようにも見えません。現実の相場では、夢で買った人が大損して退場を迫られている話も聞こえてきます。せっかくのベストセラー本も、不思議なことに、「みんかぶ」では話題になっていません。この手の本が売れ出すと、相場は終わりといいます。株も上がらないと買われないように、本も売れないと買われないようです。
以上が3年前に発売された「株価が2020年に40,000円」になるという本についての感想です。株価理論が普及し、株価がAIを使って運用されている時代に、40,000円が実現するには、EPSが最低でも2,000円を超えていなければならないでしょう。実現するかしないかは企業業績次第となりますが、企業業績の伸びがコロナ後も続くとすれば、可能性はないわけではありません。
(2)マスコミのバブル恐怖症
バブルは、株をしている人にとっては大儲けのチャンスですが、弾けた後の社会的な影響を考えると、単に引け際の逃げ足の速さだけを考えればいいとはいえません。これによって社会のあり方や制度まで、変わってしまうかもしれないからです。
あのバブルでは、上昇(楽観期)が7年に対して、下落(悲観期)は23年にもなり、バブルといえば恐いものとの概念が、すっかり定着してしまいました。そのため、長期で株を持つよりお金で持ったほうが安全という投資態度が蔓延し、政府がいくら預金より投資へと叫んでも、個人投資家の持ち株比率が欧米の半分という状況には変わりがありません。
アベノミクス相場も今年は9年目。今までの上昇を支えてきた金融政策にも、そろそろ変化の兆しが表れてきました。債券から株式への大移動は、トランプ大統領の出現でアメリカに始まり、高金利のドルに世界中の金が集まり、アメリカ株は史上最高値を更新しています。アメリカではこれだけ長期間にわたって株価が上昇しても、日本ほどバブルの声は聞こえてきません。
株価はいくら上げても、弾けなければバブルではありません。弾けさせないためには、株価が理屈にあわなくなるほど高騰したときには、株価を冷やさなくてはなりませんが簡単ではありません。このころになると、マスコミや経済学者からはバブル、バブルの声が聞こえてきますが、より高値を狙う多くの参加者にとっては、そんなことに耳を傾ける余裕などありません。理屈をつけて買い進むだけです。それが市場心理というもです。
弾けた後、冷静になって、あれは異常だったと気が付くのがバブルの怖いところです。燃えあがっている相場を冷やすには実弾がないとできないのです。実弾を持っているのは、先物を利用する外国人、個人、それに投資信託などの金融法人ですが、これらの参加者は、何かのきっかけがないと売ってきません。逆に何かのきっかけがあれば一斉に売りに出て、弾けを増幅します。株価を高値で維持しながら企業業績が追いつくのを待つには、実弾を持った日銀しかありません。
株価を外国人の売りから守り、高値を作るのも日銀なら、それをコントロールできるのも日銀です。官製相場と揶揄されても、バブルの弾けた後の社会現象を考えると、株価を弾けないようにすることは日銀の務めです。
まず転換点となるきっかけを作らないことです。そのためには、市場との対話を繰り返し、市場の過剰反応を押さえ込みます。そのうえでETFで集めた株を市場に放出し、株価の過熱を防ぐのです。そうすることで、安心していい株を長期に保有することができるようになります。
リーマンショック後のアメリカでは、10年間も株価の上昇が続いて経済は絶好調にあります。FRBは、16年末から始めた市場金利の引き上げに、市場との対話に力を入れています。日本では金融の引き閉めはまだ先のことかもしれませんが、バイデン大統領の出現でその時期は早まることも予想されます。
バブルは一生に一度あるかないかの儲けのチャンスですが、逆に言えばそんなに頻繁に起こるものではありません。一部分を取り上げて、バブルバブルと連呼するのは、株価に下方圧力を掛けることになります。バブルの意味をしっかり理解して、付和雷同しないようにしたいものです。
この感情を社会不安の種にしようとする人種がいるのも事実です。アベノミクスがほころびを見せるのも、こんなところにありそうです。仮に一部の銘柄でバブルが弾けて株価が急落したとしても、全体としてファンダメンタルで合理的に株価の水準を説明できれば、まったく問題はないはずです。それを「株高騰=バブル」と決め付けて株価下落を誘うやり方は、株式市場に向かっている国民の感情を逆進させるきっかけになり、強いては株式市場を壊してしまいます。
株価は国の経済力を表す指標ですから、高いほうが良いに決まっています。ですが、株価が上がるのを喜んでいる人ばかりではありません。株の本質はギャンブルですから、儲ける人がいれば損をする人もいます。株をやらない人から見れば、高嶺の花で面白くないと感じている人も多いと思われます。株の値上がりを喜ぶ人より、不愉快に思う人のほうが、全体としては多いということを肝に銘じておかなければなりません。
(3)バブルの投資法
株価は理屈では説明できないことが多いのです。デフレからの脱却を目的とした金融緩和が長く続き、市場にあふれたマネーが野放しになれば、デフレ状態のまま株価の異常な上昇を引き起こすことになります。株価が理屈を超えて上昇するのです。そのとき……。
新興市場の一部銘柄が、このところ大きく変動しているようです。新興市場ばかりでなく、一部市場の大型株まで、まるで木の葉のように上下しています。CNBCでは、これらの動きをバブルと決め付け、いずれは下落するようなことをいっている人もいます。株は上がれば下がるものですから、間違ってはいないでしょう。ただ、ファンダメンタルを無視して上がる株を、すべてバブルと決め付けるのは間違いです。
株がファンダだけで動くなら株価は固定し、株式市場も証券会社も存在しなくなります。ファンダ以外の要素で動くのは、株の世界では当たり前の話です。何回もいうようですが、バブルは、相場が加熱し理屈がつかないほどに高騰し、最後に弾けてしまう現象です。弾けさえしなければ通常の株価循環で、株価が上下するから相場になります。ファンダを無視した株価は当たり前の現象なのです。それをバブルと決め付け、ろくな説明もしないで「いずれ下がるでしょう」では解説にもなりません。
さらに問題なのは、このようなファンダを無視して急激に上がる一部の銘柄を取り上げて、「全体もバブル相場でいずれは暴落する」という理論にすりかえていることです。解説者の一部には、今の相場についてゆけない弱気派が何人かいて、そのはけ口としてこの現象を利用したのでしょうが、間違った解説が与える影響については、すべて「自己責任です」となります。
というのも、バブルは天国と地獄が共存している状態です。上昇過程では儲けが最大となり、弾けたあとは社会問題となります。私はバブルという言葉を、天国でのタンゴの響きに聞こえますが、世間一般ではタイタニック号に乗り込んだ乗客の悲鳴に聞こえるようです。バブルは本来、株価現象なのですが、それを社会問題として捉えるところに問題があります。
前置きが長くなりましたが、本題の「バブル時に備えた投資法」ですが……。教科書通りにやれば、「値上がりした銘柄を利益確定し、現金化して暴落に備える」となりますが。
間違いではありませんが、いい対処法とはいえません。というのもバブルは儲けのチャンスです。どこまで上がるか分からないものを中途で売ってしまえば、以後の値上がり益は他人の物。せっかく長期に持ち続けた株を僅かばかりの利益確定で売却し、そのうえ、税金や手数料で利益の一部が持っていかれてしまっては、今までの苦労が水の泡になってしまいます。
私の投資法では、このような場合でも売却しないで最後まで持つとしています。というのもバブル時であっても、値上がりする銘柄とそうでもない銘柄とははっきりと分別され、利益確定ができる銘柄は値上がりグループだったはずです。それを売ってしまえば持ち株のポートフォリオが値上がりの恩恵を受けにくいほうに傾き、バブル期待から遠ざかってしまいます。投資心理の冷え込みは投資にとって大敵といえます。
ただ、値上がりを黙ってみているわけではありません。利回りが1%を切り増配期待の少ない株については利益を確定し、利回りが高く業績の安定している大型優良株に乗り換えます。さらに、新聞の「株式週間高低」欄をしっかりチェックし、割安に放置されている中小型株を丹念に拾うことをお勧めします。相場の最終時点では、M&Aが活発になるために、PBRが低い中小型株は、自社株買いの期待が膨らむことから、相場の上下に関係なく買われてきます。
配当金を最大にするようポートリオに注意を払いながら相場の行き着くところまで株を持ち続ける、これがバブル期の投資法になります。バブルが弾けたら小康状態に達するまで相場から離れて、好きな人と一緒にファーストクラスで夜のタイムズスクエアの活気にあふれた雰囲気と、一流レストランのおもてなしに接してみてはどうでしょうか。
その際も忘れてならないのは持ち株のチェックです。株価下落によって収益力が大きく落ち込む銘柄は、大幅に下落しても売却し、落ち込みの少ない大型の優良株に乗り換えます。売却した銘柄がさらに値下がりすると、つい買い直したい誘惑にかられますが踏ん張りましょう。売却した銘柄は収益の変化が激しいボロ株です。ボロ株には手を出さないことです。
以上がバブル期における投資ですが、バブルは一生に一度あるかないかのチャンスです。この際の利益確定で、生涯キャッシュフローがプラスになれば、ババブルを最大限に利用しその恩恵を享受したことになります。生涯キャッシュフローがプラスということは投資した金額をすべて回収したことになり、持ち株のコストは只になる計算です。株がいかに下がろうと「わしは知らんよ」となります。
(4)誰が頂点を買い、誰が売るのか
ここ半世紀の間に、バブル現象を起こしたのは、1990年の資産バブルと2008年アメリカで起きたリーマンショックの2回だけです。いずれも株価の暴落が社会現象にまで展開し、その後の経済の建て直しに時間が掛かりました。
今回の上昇過程でも、新興市場銘柄のベンチャー企業や一部上場会社で、無配で収益力のない会社の株が、ストップ高を演じるなどバブルに近い動きを見せています。アベノミックスによる超金融緩和で、外国人を含む余剰資金が、値動きの軽いこれらの株に集中した結果で、前2回のミニバブルと似た点が多いように思われます。これは、機関投資家の売買プログラムが、ボロ株の暴落現象を検知し、全体を売るように組まれているためと推測できます。
ヘッジファンドは、このプログラムを逆手にとって、品薄値嵩株をまず理屈のつかない株価に仕立て上げ、暴落の際に投げることで下げを加速させ、先物売で大儲けしたのです。その背景には、大量の買いこんだ外国人が、いずれは引き上げるという市場の不安心理を利用したことは間違いありません。
問題は。ヘッジファンドに利用されたこれらのいわゆるボロ株の行方です。彼らはとっくに売り抜けていますが、それでもまだ高値付近にあります。もう一度高値をねらう動きを見せますが、上値には大量のシコリ玉が残っていますので、前回の高値を抜くのは容易ではありません。
ファンダメンタルで買われた株については、下落しても落ち着きどころが分かりますが、ファンダを無視して買い上げられた株については、通常、半値8掛け2割引で、大体3割くらいになるとされています。
ボロ株で儲けられた方は、その蓄積がある間にもう一度参戦し、うまくゆけば儲けに繋がる可能性はあります。始めての人は、単に安くなったからといって決して飛びついてはいけません。ボロ株を掴まされるのはたいていの場合、天井で買うのではなく、2番天井を付けに行くときに買わされるのです。
ファンダを無視して上げたボロ株でも、必ず誰かが買いに回って落ち着きどころを探します。誰がジョーカー(昔だったら○○の2文字で済んだのですが)を引くのでしょうか?
「早く眼を覚まして食べないと、シャケがいなくなっちゃうぞ!」熊さんも冬眠から目を覚まし株式に入ってきます。
熊さんといえばもうひとつ、「ゴルディロックスと3匹の小熊」がありましたね。アメリカのサブプライムローン(リーマンショック)バブルの最中よく使われた言葉で、暑くもなく寒くもなく居心地のいい相場のことで、ゴルディロックス相場といわれていました。今のアメリカの相場は似てきました。
以上で「バブル大研究」全四話はとりあえず終了です。現在の相場の位置と方向については書くスぺースがなくなりました。「逃げたのか」と言われても仕方ありません。ただ、私は最初にお断りしているように、現在の相場の位置は「バブルの坂を登り始めたところにある」と思っています。
いよいよ明日からは2021年の相場が始まります。コロナに負けずに皆様方の資産が増加しますよう……頑張りましょう。