kouboudaisiさんのブログ
死者1万人超え
【ジュネーブ=細川倫太郎、ニューヨーク=高橋そら】新型コロナウイルスによる死者数が20日、世界で1万人を超えた。中国湖北省武漢市で発生したウイルスは全世界に広がり、欧州やイランを中心に猛威を振るっている。19日にはイタリアでの死者が中国を上回ったほか、水際対策を取ってきた米国でも感染者が2日で倍以上に増え1万4千人を超えた。各国とも医療体制の整備を急ぐが、感染者の急増に対応は後手に回っている。
米ジョンズ・ホプキンス大学の集計で明らかになった。イタリアの死者は日本時間の正午時点で3405人と、中国の3252人を上回った。感染者のうち死亡した人の割合を示す致死率では、中国の4%に対してイタリアは8%に達し、世界保健機関(WHO)の世界全体の推定値(3.4%)を大きく上回っている。
新型コロナは高齢者や基礎疾患がある人が重症化しやすいことがこれまでの調査で分かっている。WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏は「イタリアの高齢化社会が一因」と分析する。欧州連合(EU)によると、同国の人口に占める65歳以上の割合(2018年時点)は22.6%と、EU加盟国では最も高い。
医療態勢の不足も大きい。イタリアでは財政健全化に向け医療関連の予算を削ってきた。仏紙レゼコーによると、同国では過去5年間で、病院など約760の医療機関が閉鎖されたほか、医師や看護師も足りていない。
感染者が集中する北部の病院では集中治療室(ICU)の病床が不足し、廊下や屋外テントに臨時の病床を設け対応にあたっている。人工呼吸器も限られるため、治療する患者の優先順位決めを迫られている病院も少なくない。北部ロンバルディア州の病院で働く感染症の責任者、ガリ氏は欧州メディアの取材に「同州の病院の負担は計り知れないものになっている」と危機感をあらわにした。
スペインでは、肺炎の症状を起こした高齢者が病院のICUに運び込まれ、ベッドや人員の不足が起きている。現地紙パイスによると、最も感染者が多い首都マドリードでは16日、16分間に1人が亡くなるという異常なペースとなった。
フランスでは今後さらに感染範囲が広がるとみられている。マクロン仏大統領は仏軍の持つ医療設備を一部新型コロナ感染者の治療に使うことを決めたほか、患者の搬送に軍の車両を使うことも発表した。
そもそも欧州では病床が少ない国が目立つ。経済協力開発機構(OECD)によると、人口1000人あたりの病床数はイタリアは3.2、スペインは3.0、英国は2.5となっている。日本は13.1と加盟国で最も多い。欧州では多少の風邪であれば病院に行かないケースも多い。
英国政府は新型コロナの対応で、熱などが出たらまず自宅で安静にするよう強く呼びかけている。軽症や無症状の患者までも病院に殺到すれば、医療現場の混乱をまねくためだ。
米国では感染者数が1万4250人と、2日で2倍以上に増えた。死者数も205人に及ぶ。検査の増加に伴って感染者数はさらに増えるとみられるが、米国はインフルエンザの流行期にあり、病院はすでに手いっぱいの状態だ。
メリーランド州のホーガン知事は「医薬品が不足し、医療機関はすぐ治療が必要な患者の増加に対応できなくなるかもしれない」と懸念を示した。感染者の増加が落ち着くまでは他人との接触を控え、感染拡大ペースをできる限り遅らせる必要があると訴えた。
最大の懸念は病床の不足だ。現在、感染者数が全米最多なのはニューヨーク州。同州のクオモ知事は今後、パンデミック(世界的な大流行)の対応には5万5千~11万の病床が必要になると説明した。現在同州の病床は約5万3千しかなく、収容能力が十分とは言いがたい。
クオモ知事はツイッターで最近退職した医療関係者に復帰を呼びかけ、1日で約1千人が集まった。トランプ米大統領も18日、病院機能を備えた海軍船「コンフォート」をニューヨーク市内の港へ派遣すると表明した。同船には約1千台の病床が配備されている。ホワイトハウスの新型コロナ対策チームは米市民に対し「病院の負担を軽減するため、緊急以外の手術はキャンセルしてほしい」と呼びかけた。
米国特有の課題もある。保険加入率の低さだ。米国には、日本のような全国民を対象にした公的な国民皆保険制度はない。保険未加入者が全人口の1割弱を占めるとの調査もある。保険に加入していても、入院が長引けば高額治療の自己負担分の支払いに苦労する可能性が高い。