捨てられない

八歩さん
八歩さん

捨てられない

高齢者のお宅に伺うと、時々、「地震でモノがたおれてきたら確実につぶされるなあ」という住いに遭遇することがあります。

モノが捨てられないのですね。



昭和の年代の、電話帳や現代用語の基礎知識、大学入試の赤本、通販カタログ。

元気な頃は、どのような生活であったのか、目に浮かびます。

老人ホームに移ってきた人が、時々、家族に連れられて、自宅に戻ると、たくさんのものを持ってきたがります。

ホームの居室は8畳一間くらいで、そこにベッドをおきますから、そうそう、モノは持ってこれません。

そこで、ホームに寄付するということで、持ち込もうとします。

男はつらいよ(寅さんシリーズ)のビデオ。

全部で50本くらいだったでしょうか。

むかしばなしのおじいさんがスズメのお宿からもらってくるような、立派な木の箱に入っていました。

映画会をしたらいいよ、ということで持ち込まれました。

まだ、やってません。

認知症の方には、水戸黄門は楽しめても、寅さんはちょっと難しいかも・・・・



木製キャビネットのステレオもよく見かけます。

高級木材で作ってあって、簡単には壊れないから、物置として使ってる。

大工さんが手をいれたら、いい家具になるだろうな、と思います。

もちろんこわれてます。


木製キャビネットの、電子レンジ大の真空管ラジオと、白黒のテレビ。

もちろんこわれてます。


たんすにも、服がたくさん押し込まれています。

一つ一つにおばあちゃんの思い出があるので、捨てられないのです。

そして、ゴミは、なぜか、ゴミを呼びます。


フソァーや子供が使った机、ベッド。

やっと手に入れた、大切な思い出の品だから、絶対にすてることは考えられません。


レコード。

これも、高価だったし、ジャケットが思い出そのものだから捨てられません。

ご主人が集めていたという数百枚のジャズレコード。

古レコード屋に売ったらいい、といったら、冗談じゃないと怒られました。



いいなあ、これ、と何枚かに興味を示したら、「あげる」っていう。

もらってくれ、とお願いされました。

あんたに上げれば、大事にしてくれるから、っていう。



キース・ジャレットとルイ・アームストロング をすこしいただきました。 

曲自体はレンタルCDで借りてきて、パソコンにとりこんであるので、レコードの大きなジャケットを見ながら、ヘッドフォンで久しぶりにジャズを聞きます。ちょっと、いいかも。

もっともっていけというから、「こんどきたときのお楽しみに」、と言ってあります。

お年寄りの申し入れは、上手に、前向きにお断りしないと、傷つけちゃいますから、ね。



おばあちゃんの真意は、全部一式、あんたにあげるから、受け継いでくれ。

うちにあると場所をとるから、、、、てのはわかってます・・・・

売却するのは嫌、というのは理解できますが、その思い出を全部、知り合いにおしつけられても、ねえ。




もったいない、いつか使える、という思いから、包装紙、ヒモ、お菓子の箱も取っておくことになります。

これを、几帳面な人は、キチンと整理整頓して、溜め込みます。

几帳面ではない人は、どんどん積み上げていきます。

どっちにしても、自分の居住空間が圧迫されます。



でも、いいんです。

思い出がたくさんあるから。

懐かしい思い出に囲まれて、おばあちゃんは今日も幸せです。

そして、持ち主がいなくなったとき、思い出の品々は、すべて、一気にゴミになります。

こういう、モノに押しつぶされてしぬんだったら、本望なんだろうなあ、と思うようにしています。
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