ネット友だちの、チャマさんの日記に、こんな出来事が書いてありました。
利用者の女性Mさんの好きなコーラの買い置きがなくなっていたので、自販機のところに一緒に買いにいくという約束をして、すっかり忘れちゃったということ。
Mさんにとっては、大切な約束だったんだと反省して、その日の夕方、一緒に買ったこと。
Mさんがチャマさんにおごろうとしてくれるけど、それは遠慮し、コップで飲む時に分けてくれるというのも遠慮したら、「あんた遠慮ばっかりするからもう何も買ってあげないよ」といわれちゃった、という話でした。
以上は、要約なので、優しい心配りや、事務室からのナイスなフォローの空気が伝わらないので、ぜひ、こちらでもよんでみてください。
http://ameblo.jp/kaigominc/day-20080828.html
ここからは、私の思ったことです。
Mさんは、その日チャマさんと約束してから、ずーっと、楽しかったんじゃないかな。
すぐに買いにいって、一人で居室でコーラを飲むより、今日のコーラは百倍楽しめたんじゃんじゃないかな。
そう、思いました。
そう思った理由なんですが、私の携わっていた民間の用心ホームで、以前、歌舞伎が好きな入居者のKさんの歌舞伎鑑賞を思い出したからなんです。
いつも笑顔を絶やさないホーム長と話をしていて、「いつか、一緒に歌舞伎を観にいきましょうね」と約束したことがあったんです。
ホーム長にしてみれば、それが実現するとはおもわなかったらしいのですが、Kさんは本気だったのでした。
Kさんはご家族に、「死ぬ前にもう一度歌舞伎を観たい」といい、ご家族も、それを叶えてあげたいと思いました。
ここまでは、いいんです。
残念ながら、家族の方は、歌舞伎趣味はなく、ホーム長ご指名で、ぜひ一緒にいってやって欲しい、というお願いをされちゃったのです。
人生最後の歌舞伎観劇だから、なんとかして行かせてあげたいが、自分はちょっと・・・・ということでした。
でもね、歌舞伎でしょ。
私も、ホーム長も行った事がない。
東銀座にあるのは知ってるけど、チケットを買うのか? 車椅子OKなのか。何時間くらいやってるの。食事は、トイレは?
お断りするほうが楽でしたが、本当に、これが最後の観劇、とおもったので、取り組みました。
ホーム長は看護士でもありましたので、彼女が随行すれば確かに安心です。
彼女には、歌舞伎座の中で、支障なく行動できるように事前チェックしてもらいました。
車で行くと片道一万円ちかくかかりそうなので、電車で行くことにしました。
実費プラスアルファの料金を決めました。
家族が「お礼はどうしよう」と悩まなくて済むようにです。
お金ですっきりとできることは、したほうがいいんです。
でも、希望者全てに、かなえてあげることは難しいです。人手に限りがありますし、私たちは施設内での車椅子の移動はプロですが、駅構内や電車での介助をしたことがないという職員の方が多いくらいです。
高齢者の外出支援をするトラベルヘルパーの料金を参考にしました。
Kさんは、ホーム長を独占して(非番の日なんです)、夢のような歌舞伎鑑賞が実現するといくことでうれしかったのですが、前日になって、予定を書き込んである自室のカレンダーをみながら、
「明日だねえ」
と、ぽつり、いうのです。
少し思いつめたような、声でした。
夢がかなってしまった後の、祭りの後のさびしさ。
Mさんはそれをこれまでに何度も経験してきているから。
ということが、いたいほど伝わってきました。
「帰ってきたら、思い出して何度も何度もたのしめるね。つぎのお誕生日にも、これが最後かもしれなーい、っていえば、きっといけるよ」といいましたら、
「そうよね、これが最後かもしれないっていわれたら、なんでもできるわね」
と、笑い顔になりました。よしよし。
Kさんが自分のお誕生日を心待ちにするようになりました。
今年の11月も、その日が来るといいですね。
高齢者が、先のことを楽しみにできるようになるといいです。
そのためには、大きなお金はなくてもいいけれど、多少のお小遣いと、思いやりある家族、そして、楽しむだけの脳と心が維持できていたらいいなあ、と心から願っています。