AIと低位材料株周辺に風雲急の気配

●優先するのは安値買いか早い利益確保か
 相場と対峙する人間の欲求というものは二つに大別されます。一つは、買いから入る場合「なるべく安く買いたい」、そしてもう一つは「早く利益を手にしたい」という気持ちです。しかし、この二つの欲求は状況的に考えると対極の位置関係にあります。
 安く買いたいのが人情ですが、安値圏に沈んでいる株は人気が離散している局面にあり、お買い得に見えても安値イコール底値という保証はなく、人気が“復権”するまでにはそれなりの時を要します。安く仕込むことを優先すれば、時間軸については妥協するしかないのが道理で、辛抱がついて回ります。一方、素早く利幅を確保したいという欲求に従えば、動いているものに乗るというのが基本。株価が高い位置にあっても、それは人気がついている証であって、いわば特急券のプレミアム部分として受け入れなければなりません。モメンタムを重視する副作用として株価が反転した際には位置エネルギーが作用して下値も深くなりやすいというリスクがあります。
●トランプ相場で“Joker”は引きたくない
 投資するにあたって安く買うことを第一義とすれば「根気」が必要であり、短期的な利益を優先する場合は「勇気」が求められることになります。
 今はトランプ相場の勢いを目の当たりにしながらも、投資家は“Joker”をつかむことを本能的に恐れているという状況です。「根気」はいらないが「勇気」がいる相場が昨年11月中旬以降に繰り広げられてきたわけで、必然的に資金の回転は速くなりがちです。海外資金の再上陸で過剰流動性に支えられた相場環境にあっても全体指数の中期的な上昇トレンドは信用できないというのが投資する側の本音であり、これが、指数連動性の高い主力株が避けられ、値動きの速い中小型株が選好される地合いに映し出されています。
 流れが変わるタイミングとしては企業の決算発表。今週13日からは米企業の第4四半期決算が本格化し、半月遅れで1月下旬からは国内企業の第3四半期決算も佳境入りとなってきます。ただ、今回の場合はいずれも株価的に好調決算を織り込んでおり、視点は来期業績へ向かうにしても、全体相場の本格上昇の足場とはなりにくいと考えられます。
●AI人気からフィンテック、バイオへ波及
 当面は引き続き人工知能(AI)のほか、 フィンテック、バイオ関連といったテーマ株優位の構図ですが、やや買い疲れ感もあり、直近は銘柄の強弱に差が出てきているような感もあります。AI関連で値動きの良さが際立つのがブレインパッド 。国内機関投資家に買い増す動きが観測されていることや、海外の足の長い資金が株主構成に入っていることは成長期待を示唆するものといえます。買い場を狙うのであれば13週移動平均線とのカイ離縮小場面を焦らず待ちたいところです。ロックオン [東証M]もAI分野に経営資源を投入、暗号通貨技術を持つテックビューロと連携してブロックチェーン技術を用いた電子取引システムを開発するなどフィンテック関連としての側面でも人気素地があります。
 バイオ関連では、再生医療分野の研究で先頭を走る大日本住友製薬 の存在が大きく、同社と資本・業務両面で提携関係にあるヘリオス [東証M]やサンバイオ [東証M]などに見直し余地が大きそうです。また、このほか昨年来、当コーナーでも折に触れて取り上げているキナーゼ阻害薬のカルナバイオサイエンス [JQG]、新薬「HF10」やキメラ抗原受容体を活用した免疫遺伝子療法の臨床で注目度が高いタカラバイオ などにがん治療分野で将来的な上値余地が大きいという見方に変化はありません。
●低位材料株も意外性の株高オンパレードに
 このほか、低位材料株物色の流れも健在。11日は日本経済新聞の記事で航空機エンジン部品向け新素材として炭化ケイ素(SiC)繊維が採用されるとの報道を受けて、日本カーボン が一時ストップ高に買われる人気となりました。同銘柄は昨年9月21日の当コラム「“日銀会合後”躍り出る低位株」で取り上げた時点では170円前後に放置されていましたが、そこから段階的に下値を切り上げ、きょうの高値まで8割強の上昇となりました。
 足もと動きの出ている低位株としてはブロードバンドタワー [JQ]、テクノ・セブン [JQ]、光村印刷 、三浦印刷 [東証2]などに妙味が感じられます。いずれも有配銘柄であることはポイントになります。
●トランプ氏“ツイッター砲”の深謀遠慮
 現地時間11日のトランプ次期米大統領の記者会見にマーケットの視線が集まっています。日本時間では12日の深夜、午前1時頃にニューヨークで会見する見通し。現時点ではその内容について知るすべはありませんが、蓋をあけてみて驚愕するような発言が出てくるとは思えず、波乱要素は限定的でしょう。もっとも、高を括って後で呆然とすることも少なくないのが相場であり、特に昨年はそういった場面を筆者自身何度も見せつけられてきました。用心するに越したことはない。保有株の株価水準ではなく、時間軸からの判断でいったんポジションを軽くする売りが悪手になる可能性は低く、その意味で日経平均が年初の急騰後に勢いで上値を追わず、1万9300円近辺で方向感なく漂っている現状は相場の冷静さを反映しているという見方もできます。
 米国の次期大統領がSNSを通じて政策をつぶやくことには、首を傾げざるを得ない部分もあります。マスコミに対して疑心暗鬼となっているという理由があるとすれば、それを解消する作業を優先することが大統領としての責務であり、今のやり方は仮に就任までの期間限定としても、批判する声があって当然という気がします。しかし、ツイッターから小出しに発射されるトランプ砲が、ガス抜きの役割を果たし、ともすれば年末年始に行き過ぎた理想買いの反動に見舞われる可能性があった相場のバランスを保たせているという効果も否定しきれないところではあります。片道通行のわがままな情報発信も、その「毒」を承知で確信犯的な匙(さじ)加減で行っているとするならば、派手な言動とは裏腹に“地味にスゴイ”、悪く言えば老獪なニュータイプの大統領といえるかもしれません。
●資産効果は最強の経済政策
 トランプ氏が掲げるのは強い米国経済をさらに強くして、陽光があまねく天下を照らすごとく、中産階級の隅々にまで景気の強さを肌で感じさせるステージへ突き進むという、アメリカ第一主義という名を借りたポピュリズムの塊のような政策路線です。1月20日の大統領就任後、100日間で立法化を目指す、所得税率引き下げと法人減税。さらに、10年間で1兆ドルという大規模インフラ投資、ドッド・フランク法など金融規制の緩和がその目玉となっているわけですが、実現の度合いは未知数の部分が多く、議会とのねじれ解消だけで、今後の政策実現性に楽観的になれるほど甘くないことは、皆が心に共通して抱いていることでしょう。
 ただし、これを単なる夢物語と斬り捨てることはしないのが株式市場。よく株価は経済に半年程度先行するといわれますが、これはマーケットの予知能力というよりは、株価上昇による資産効果が実勢経済に浮揚効果をもたらすという現実的な背景があるからです。派手な政策アナウンスとその後の情報発信のスタイルも、米国株市場の資産効果に重心を置く不動産王トランプ氏ならではの演出といえる部分が少なからずあると思われます。
●ソフトバンクの政治力が映す先高期待
 ここまでのトランプ相場の一連の流れのなかで、主力株で注目すべき銘柄としては、やはりソフトバンクグループ ということになるでしょう。ツイッター砲を受けた企業が、将軍に馳せ参じるがごとくトランプ氏に無理やり迎合させられる動きが相次いでいます。これは立場上仕方のないところで、自動車セクターでは日本のトヨタ自動車 もその一角。トランプ“口撃”を受けて豊田社長は「今後5年間に米国で100億ドルの投資を行う」方針を表明しています。
 ソフトバンクはトランプ氏が昨年の大統領選に勝利した余韻冷めやらぬなか、いち早く孫正義社長がトランプ・タワーで会談、米国における500億ドル規模の投資を確約しており、これが今後の米国でのビジネスを円滑に進める孫社長ならではの機転を利かした戦略として、株式市場でもポジティブ評価されています。ソフトバンクの昨年12月1ヵ月間の日足チャートは正直、下値リスクを意識させるものでしたが、年明けからそれを覆し、一気に上放れてくるあたりに星の強さを感じます。今後巨大マーケットが形勢されそうなAIと半導体分野における台風の目、国内メガキャリア(大手通信会社)の域を超え、世界的なコングロマリットとしての存在感を海外投資家も感じているのではないでしょうか。

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