あおぞら郵船さんのブログ

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「コラム」現在の製薬大手の状況のまとめ 08/7/5


最近、製薬会社の大型買収が相次ぎ、業界全体が非常にダイナミックな動きを見せています。
これ以前の各社の状況とは完全に別物になってきていますので、一度、頭をリセットして考え直さなければならないように思います。
 
◇製薬大手による大型買収
武田薬品:08年2月、アムジェン日本法人(約900億円)・癌などの抗体医薬
         同4月、ミレニアムファーマ(約8,800億円)・癌などの標的薬
エーザイ:07年12月、MGIファーマ(約3,900億円)・癌領域
アステラス:07年11月、アジェンシス(約390億円)・癌などの抗体医薬
第一三共:08年6月、ランバクシー(約4,950億円)・ジェネリック事業
 
製薬各社がこれほどまでに積極的な投資、言い換えれば「青田買い」を決断している背景には、周知の通り、『2010年問題』と呼ばれる相次ぐブロックバスターの特許切れと画期的新薬の枯渇、また、世界的な医療費抑制政策とジェネリック医薬品の推進による市場環境の悪化、さらに、BRICsの急成長やアフリカの貧困問題に対する国際的な動きなどによる米国一極集中の変化などのパラダイム・シフト的な潮流も関係しています。
ある意味、この数十年間でもっとも『面白い』時期と言えるのかもしれませんね。
 
◇製薬各社の2010年問題
○アステラス製薬
・プログラフ:2008年4月、米国特許切れ。2009年、欧州特許切れ。2010年、日本特許切れ。
・ハルナール:2009年10月、米国特許切れ。2010年3月、日本特許切れ。
○武田薬品工業
・タケプロン:2009年11月、米国特許切れ。
・アクトス:2011年1月、米国特許切れ。
○第一三共
・クラビット:2010年12月、米国特許切れ。
○エーザイ
・アリセプト:2010年11月、米国特許切れ。
・パリエット:2013年5月、米国特許切れ。
○ファイザー
・リピトール:2011年6月、米国特許切れ。(6/19にランバクシー社と和解し、2011年11月まで180日間の排他権を与えた。)
 
(参考)日本証券新聞の記事『製薬業界の2010年問題』
 
他方、株式市場の環境としては悪化の一途をたどっています。
今年3月の暴落時には、ドル円相場が1ドル100円割れの1ドル95円台に突入し、1995年12月以来12年ぶりの円高水準なり、原油価格が1バレル110ドルの史上最高値に突入しました。ダウ平均は1万2000ドル割れ、日経平均は一時1万1700円割れまで暴落を喫しました。
原油はこの時点からさらに30%も暴騰し、ダウ平均もこの時点からさらに最安値を更新していますが、日経平均は今の所よく持ちこたえています。
当時、武田薬品が5000円割れの4920円、第一三共が3000円割れの2815円、アステラスが4000円割れの3800円まで暴落し、
トヨタが5000円割れの4830円、ソニーが4000円割れの3960円を付けました。
この時の『未曾有の危機的状況』に比べれば、今はまだ序の口でしょう。むろん、二度とそのような状況を再現して欲しくはありませんが。
・当時の記事
http://ameblo.jp/utasora/entry-10080752614.html

 
さて、製薬各社の状況は大型買収以前と以後とでは全く別物と考えるべきでしょうが、中期計画の見直しに言及している企業は今の所はないようです。
もっとも、第一三共が「2012年度までにジェネリック事業を5,000億円規模にする」と豪語したように、中期計画の練り直しは確実でしょう。
いずれ発表されるであろうその内容の如何によっては、株価の水準も上にも下にも大きく変わってくるだろうと思います。
 
◇製薬大手の中期計画(昨年12月付)
○武田薬品工業
2010年度、医療用医薬品売上1兆4000億円(現在の医療用医薬品の割合は全体の87.6%)、1株益平均7%成長(特損を除く)、ROE現状(16.7%)を維持、配当性向45%。
2015年度、医療用医薬品売上2兆円。
・発表資料
http://www.takeda.co.jp/about-takeda/management-plan/article_63.html

※単体では厳しいが、7/2付けで完全子会社化した米TAP社の売上約3300億円と、4/10付けで買収したミレニアムファーマの売上527億円を合算すれば達成可能な数字。
 
○第一三共
2009年度、売上9600億円、営業利益2400億円、1株益2倍以上、ROE10%以上、DOE5%以上、オルメテック売上2500億円以上、ヘルスケア事業売上580億円・営業利益58億円以上。
2015年度、売上1兆5000億円、営業利益3750億円、海外比率60%以上(現在38.4%)
・発表資料
http://www.daiichisankyo.co.jp/ir/plan/index.html

※単体では厳しいが、6/11に買収したランバクシー社の売上約1,850億円を合算すれば達成可能な数字。
 
○アステラス製薬
2010年度に売上1兆600億円、営業利益2800億円、ROE18%、DOE8%、ベシケア売上1000億円、ハルナール売上830億円、プログラフ売上1700億円。
・発表資料
http://www.astellas.com/jp/ir/library/pdf/mtp2010_j_061004.pdf

※非常に保守的な数字だが、ベシケアの伸び次第と、プログラフ、ハルナールの特許切れに対する後継薬・適応拡大等の対策の成否にかかっている。
 
○エーザイ
2011年度に、売上1兆円、営業利益2000億円、1株益約2倍、ROE16%、DOE8%、配当性向50%。アリセプト売上2750億円、パリエット売上2070億円、現製品群売上7000億円・新製品群売上3000億円。
・発表資料
http://www.eisai.co.jp/news/pdf200608.pdf

※アリセプトとバリエットの2品目だけで全売上の半分を占めており、これらが2010年、2013年にそれぞれ特許切れを迎える事態への対策が不透明。
 
将来的な各社の狙いは、アンメットメディカルニーズ(治療満足度の低い領域)すなわち、癌の撲滅が主戦場と考えられているようです。
第一三共のランバクシーを除く大手各社の大型買収は、いずれも癌領域のバイオベンチャーで、その有する新薬候補が狙いになっていました。
たとえば、昨年12月のアステラスのR&Dミーティングでは、買収したアジェンシス社の抗癌抗体医薬「AGS-16M18」が、腎癌の細胞増殖を61%阻害、肝臓癌の細胞増殖を82%阻害したと発表されました。
まだフェーズ1臨床試験準備段階ですが、これなどは非常に期待できそうです。
・発表資料
http://www.astellas.com/jp/ir/library/pdf/rd2007_1_jp.pdf

 
しかし、いくら癌領域が魅力的な市場であっても、多数の競合他社が参入している中でスタンダードを獲得するのは至難の業でしょう。
早い話、たとえば上のアステラスの「AGS-16M18」が全ての癌に対する特効薬となり得る製品として上市された場合には、武田薬品が投じた9000億円、エーザイが投じた4000億円がどぶに捨てることにもなります。
これが医薬品以外の業界、たとえばパソコン業界などであれば、多少性能が劣っていてもブランド力や価格やデザイン等で何とかすることも可能ですが、人命に直結し、医師と当局の厳正な監視下に置かれる医薬品はそうもいかないでしょう。
 
とはいえ、今すぐに各社の開発中の新薬候補の優劣が決まるわけでもありませんし、株価がどう動くかは大口投資家の需給によって決定されるのみでしょう。
ただし、医薬品の開発には10-15年かかり、10年後の将来を見通した戦略が問われていることは確かです。
武田薬品とエーザイはバイオベンチャーに社運を賭け、第一三共は競争を避けジェネリック市場に参入しました。
さて、「グローバル・カテゴリー・リーダー(複数の専門領域で世界をリードする地位の獲得。具体的には、免疫、泌尿器、感染症、糖尿病、中枢・疼痛、癌の6領域)」を目指しているアステラスは、どう動くのでしょうか。
 
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