｢ｳｿ｡ゆき｡｡｡｡？｣
思わず見張った目の中に､屋根や庭木や地面に控えめに施された雪化粧がひんやりと飛び込んできました｡ふぅっと吸い込まれてしまいそうなほど､とても綺麗な風景でした｡
雪を見て綺麗だと思ったのは何年ぶりでしょう｡こちらに来てからは雪と聞くだけでもとにかくうんざりで､積もり始めの時期でさえ､すぐにくるであろう先のﾄﾞｶ雪を思い､ため息しか出たことはありませんでした｡
でも､今はもう４月｡一時的なものだろうという気持ちのゆとりが､ちらちらと降り積もる雪を素直に綺麗と捉えられたのかも知れません｡
ふと､株のことが凍ったままの株漬け樽の頭の上に浮かびました｡余裕資金もなく､毎日家事の合間にﾁｬｰﾄや売上高を気にしながら見ている暮らし｡久々に含み益が出たとしても､いつ売ろうかと悩み､いよいよ売ってから更に上がれば悔やみまくり､売らずに下がれば身悶えするほど悔しがり｡ﾎﾞﾄﾑを信じて買っても更に下がれば遂には顔つきからして阿修羅の如し｡｡｡｡
投資で楽しい思いを滅多にしてこなかったのは､気持ちに余裕が全くなかったせいだと､予期せぬ雪に教えてもらったような気がしました｡余裕を持って投資に臨もう､と思いました｡
しばし雪を堪能してから家に入ると､母が申し訳なさそうに部屋の隅から顔を出し､
｢あのね､ごめんね｡また眼鏡どっかに隠れちゃってね｡｡｡｡｣
私のいない間探し回っていたらしく､部屋の中はあちこちひっかき回され大騒動｡私の株専用電卓が､母の脱ぎ捨てたﾊﾟｼﾞｬﾏのｽﾞﾎﾞﾝの中に同居している始末です｡余裕だゆとりだと自分に言い聞かせてもｷｰっとなりそうになり母の顔をよく見たら､ｷｰっ､とは異なる言葉が私の口から飛び出しました｡
｢｡｡｡｡なぁんだ､眼鏡ちゃんとかけてるじゃん！｣
｢だから｡見つかってすぐﾕﾘｯﾁ来たから片付ける暇がなくってそれで慌ててね｡人の話は最後まで聞いてちょうだいねっうふっ｣
と愛想笑いをし散らかしまくって落ちた卓上ｶﾚﾝﾀﾞｰを拾い上げながら母､
｢花見も近いんだから､雪ももう降るの遠慮してほしいねぇ｡｡｡｣
とぼけたﾌｸﾛｳみたいな声の台詞に､おかあさんこそ眼鏡迷子騒動いいかげん遠慮してくれない？と言いたくなるのをこらえ窓の外に目をやれば､雪はもう降りやんで､あとかたもなく姿を消していました｡更に､午後には私の持ち株の含み益までもが根こそぎ蒸発､含み損の雪だるまがｺﾝﾆﾁﾊ｡｡｡
私の余裕は､また迷子になってしまいました｡
