なるほど、と思ったコラムより
「なにゆえ米連邦公開市場委員会(FOMC)前夜になると原油は新安値をつけるのか」
イエレン議長は、米ニューヨーク市場の原油先物市場を恨めしく思っていることだろう。
注目イベントFOMC開催前夜、原油先物指標であるWTIは急落し、1バレル43.88ドルで取引を終えた。1月のFOMC開催前夜の26日にも、WTIは44ドル台まで下げている。あたかも、原油市場がイエレン氏に挑むかのごとき現象。
ただでさえ、2%の目標インフレ率からの下振れ傾向は悩ましい。記者団から原油下落の利上げ時期決定への影響を突かれると、イエレン議長は「一時的」と切り捨ててきた。原油価格は投機的変動が激しいとの前提ゆえ、あくまで「コアインフレ率重視」の姿勢。
原油市場に、シェールオイルや石油輸出国機構(OPEC)の価格調整役放棄など、パラダイムシフトが起きていることは明らか。投機マネーはその価格下落圧力を増幅させているだけである。長期的に見ても、40ドルはアンダーシュート(下げすぎ)気味、原油100ドル時代に戻る可能性は極めて低い。
加えて、今回は、ドル高が急進行してドルインデックスも100の大台を一時突破した。ドル高による国内価格下押し効果も無視できない。先週発表された2月の米生産者物価指数も、事前予測の0.3%前後を大きく下回り、マイナス0.5%となった。エネルギー価格下落の影響が、ここでも顕著である。2月の雇用統計こそ大幅改善したが、その後発表された小売り統計、鉱工業生産指数、住宅指標などはさえない結果となっている。
だから「6月の利上げは無理」との観測が台頭してきた。ただし、利上げ時期にこだわるのは、もっぱらヘッジファンドなどの短期マネーだ。週末ニューヨークで会ったウォール街の機関投資家たちのなかで、長期マネーの年金などは、6月だろうが9月だろうが、いずれ利上げになることだけは間違いない、と割り切っている。
彼らにいわせると、FRB幹部による最も明解なコメントは、大物副議長フィッシャー氏による「今年中利上げ」とのほぼ断定的な表現による発言。ニューヨークの投資家がFOMCを見るうえで「patient
忍耐強く」より重要なイエレン氏の一言がある。それが「meeting by meeting
」。FOMC会合ごとに利上げ決断がなされよう、との意味と解釈されている。
その意味は前回2004~2006年にかけての前回の利上げと比較すると分かりやすい。前回は大筋0.25%刻みで、FOMC会合で17回連続して利上げが実行された。一方、今回は会合ごとに、その回は利上げするかいなか決定してゆく、との姿勢が読み取れる。結果的に、2回に1回あるいは、3回に1回と断続的な利上げペースになるかもしれない。利上げ幅も0.25%刻みから、場合によっては0.125%刻みになるかもしれない。昨年のFRB経済見通しの中のFOMC参加者による将来の金利予測の分布状況をドット(点)で示す通称ドット・チャートで、縦軸の単位が一時0.125%まで縮小した経緯がある。
その最新ドット・チャートが今回のFOMC声明文と同時に発表される。長期マネーにとっては気になる情報である。3か月に1回発表されるFRB経済予測の2014年12月発表資料では、FFレート(政策金利)予測が2017-2018年にかけて、3.5%から4.25%程度のレンジに収れんしていた。それが、原油急落長期化、ドル高進行により、今回は下落すると見込まれている。さらにFFレート先物市場などの動向をみると、3%を割り込む可能性もある。
もしそうなれば、3年程度かけて0.00~0.25%の現行レンジから3%まで慎重なペースで上げてゆく、という史上例を見ない低水準でスローペースの「市場にやさしい」利上げとなる。長期マネーの立場では「利上げ、恐るるに足らず」ということになろう。株式市場にとっては追い風。
ただし外国為替市場では、利上げを織り込む形で買われてきたドルが、暫時売られる状況となる可能性をはらむ。FOMCの利上げ戦術は、patientの単語は外すが、FRB経済予測のほうで、株式市場の不安を鎮める、という「合わせ技」である。その場合、痛い目を見るのは、通貨先物市場における投機的ドル買い・ユーロ売りで巨額の利を得てきたヘッジファンド。その場合、ドル円も円高に振れる可能性があり、日本株と円相場のディカプリング(非連動)が試されることになる状況も念頭に置くべきらしい。