先日、大学時代の友人たちの懇親会がありました。卒業後60年近くなり、今は年金が生活を支えているご身分です。
以前は、ゴルフ、旅行、経済といった話が中心でしたが、最近では健康が8割近くを占めています。数年前、7人だったメンバーも昨年一人亡くなり、人工透析を受けているのが一人、病気の奥さんの面倒を見ているのが一人で、元気で楽しい話は出にくい雰囲気です。
出席者A「卒業したら、医者と坊主と弁護士を友人にしろっていうけど、あれは嘘だよ。俺のゴルフ仲間で、友人の大先生に診察してもらったら、胃に小さな腫瘍が見つかったそうだ。早速手術をしたのだが、1年もたたないうちに脳梗塞であの世ゆきだよ。彼は友人を名医だとほめていたけれど、俺にいわせると手術なんかしなければ、もう4~5年は生きていられたのに……」
出席者B「下手に名医にかかるより、やりたいことは、やれるうちにやるのが一番だよ!うまいものを見つけたら食べ、旅行がしたければ旅行をする。明日は分からないんだから。なにしろこのごろは、いい女がいてもぜんぜん、その気が起こらないよ……」
出席者C「最近株が上がって、少しばかり儲かったんだけど、なにに使うのか迷うなぁ~。結局、孫の小遣いと『ふるさと納税』で、宮崎県の霜降り牛肉を楽しみにするくらいかな。それにしても、株はこれからまだまだ上がるというのに、情けないよ……」
出席者D「仕方ないよ、それが人世なんだから。動物の世界だって、生まれて相手を見つけ、子供を生み、育ててしまえば、それで終わりだよ。流行歌にもあるじゃない『秋には枯葉が小枝と分かれ、恋にも終わりがくる』って……」
出席者E「俺も、週3回の透析で医者にゆくだけで、やることといえばテレビと読書で、電気代が月5万円を越えるよ。韓国に友人がいるんだけど、アメリカから突き放され、日本との競争に負け、政治が駄目で、大卒の初任給は日本よりいいというのに、金持ちはみな国を逃げ出したいと思っているようだよ。このままでは、北朝鮮と同化して、テロ国家になるって心配していたよ……」
出席者F(リーダー格)「俺も来月、医大病院で血液検査を受けることになってね。なにやら難しいこといっていたけど、あまりいい感じじゃないよ」
「そんなことから、身辺整理を始めることになってね。やってみたら、いろいろと面白いものがでてきたよ」
「この拾円札、知っているだろ? 戦後まもなく出回ったものだけど、米国という図柄で、菊の紋章が鎖で繋がれているので有名だったらしいよ。それに2枚を重ねると大きさが違うんだ。そのほかにも、学生時代の有名な大学の教授が書いた随筆集なんかたくさん出てきたよ。毎晩のように銀座のバーで酒を飲んでいたと見えて、ママさんとの秘話も載っているよ」
「古いコインもたくさんでてきてね。おじいさんから貰ったもんだけど、マスコットに使えそうだからあげるよ。形見になるかもしれないし……」
一同、2枚の五文銭を手に、複雑な思いを胸に家路につきました。