｢ﾅﾝﾀﾗ寺はどこだべか､ﾊｧﾊｧｾﾞｨｾﾞｲ｣
ﾅﾝﾀﾗ寺を知っていたのと､私の目的地のｽｰﾊﾟｰと同じ方向だったこともあり､そこまで相合い傘で案内してあげることにしました｡
｢すみません､なんぼあんだ親切だっきゃのｰ｣
｢いえいえそんな｣
｢あんだ､都会の人だべさ､言葉違うもの､どごの人？｣
｢横浜です｣
｢やっぱり～～｡あんだ､学生さん？働いてらの？ わだしの娘､東京さ出てﾁﾝﾀﾗ証券に勤めてらんだよぉ｣
｡｡｡｡ｷﾞｸﾘ｡｡｡｡
｢ﾁ､ﾁﾝﾀﾗ証券｡｡｡｡いいところに､お勤めですね｡｡｡｡｣
｢それが､仕事なかなか大変だと｡苦情いっぱいくるんだと｡ｶﾝﾌﾞ(株)で損ばっかしてどうしてけるんだって｣
わかりますわかります､それなら私だって声を大にして訴えたい｡｡｡
それにしても､と私は自分の運命を呪いたくなりました｡厭だなぁ､避けたいなぁという話題が不思議とまとわりついてくるのです｡よりにもよってお嬢さんがﾁﾝﾀﾗ証券にお勤めだなんて｡ﾁﾝﾀﾗは私が最初に利用した証券会社で手数料だけでも多額の損を｡｡
ｽﾞｱｱｰｰｰｰｽﾞｱｱｰｰｰ｡｡｡｡
ご婦人の強い訛りに感化されてか､雨音まで訛ってしまったような､かなりの降りになってきました｡ご婦人は私に寄り添って､ずっとﾁﾝﾀﾗ証券のお嬢さんを自慢し続けました｡ﾁﾝﾀﾗ証券でいい相手を見つけて結婚将来安泰孫は絶対一姫二太郎｡｡｡｡
｢ところであんだは結婚してらの？｣
聞かねでｹﾛ聞かねでｹﾛ､と心の中で呪文のように唱えいた禁忌wordをご婦人が遂に口にしたとき､ﾊﾞｶ正直にもいいえ､と否定し､
｢着きました！ここがﾅﾝﾀﾗ寺です！｣
私が喜び勇んで叫ぶとご婦人､寺の表札を見て一瞬固まってから､
｢ちょっとねっちゃ､違うっきゃ！わだしのはﾅﾝﾀﾗ寺でなくｶﾝﾀﾗ寺だんだよｰ！｣
参りました困りました！ ﾅﾝﾀﾗ寺をｶﾝﾀﾗ寺と私は完全に聞き違えていたのです｡しかも､そのｶﾝﾀﾗ寺は方角がまるっきり正反対ではありませんか｡｡｡｡
何度も謝る私をご婦人は笑って､
｢いいんだいいんだ､ﾀｸｼｰで行ぐ｡案内してけでありがとう｡わだしばっかに傘さしてけで濡れてまったべさ､堪忍ねｰ｣
と優しくねぎらってくれてﾀｸｼｰに乗り込み､
｢早ぐいい人見つけへの～～｣｡｡｡｡
雨中に消えていくﾀｸｼｰを､申し訳なさ半分､哀しみ半分で見送りながら出た私のため息はしっかり訛って､ﾊｧ～～ではなくﾍｪ～～にすっかり変わっていました｡
ﾐｿｼﾞ ﾀﾞｧ！
