・第五話:虹色ブリッジを封鎖せよ!
人工島の街、ダイバーシティに掛かる橋。それが虹色ブリッジ。
陸路では、この橋がダイバーシティにつながる唯一の道だ。
ちなみにこの街はダイバーたちのメッカであることからこの名が付いた。
多様性があるかどうかは知らない。
その虹色ブリッジで事故が起きた。
橋の上でトラックが炎上。
「あー、まったく。こっちは休みなしなのによぉ。」
当然呼び出し。湾内署 交通課の青山巡査はボヤいた。
年始の暴走族対策のネズミ捕りで大晦日・元旦が潰れたところだ。
休ませろとは言わないが、せめて少しはゆっくりしたい。
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ダイバーシティの名物にダイバーシティタルトがある。
このタルト、檀家さんがお土産に持ってきて以来、
安寧和尚のお気に入りの一つになった。
「これ千急。すまんがダイバーシティに行ってタルトを買ってきてくれんか。」
この様に、時折和尚からタルトとの買い物を頼まれる。
困ったものだが、これぐらいの我がままや嗜好は大目に見よう。
完璧な人間など世にいない。
だからこそ俺たちは仏教とカラテを通して悟りへの道を歩むのだ。
「おう、和尚。ダイバーシティまでひとっ走りしてくるぜ!」
俺は快く返事をする。
「あのな、電車は使うのだぞ。文字通り走りだけで行こうとするのでないぞ!
前の様に二日かけるなんてことをするんでないぞ!」
「ハッハッハッ! 心配性だな、和尚は。
この前は俺の筋肉が走りを求めていただけだぜ!」
そう言いながら颯爽と俺は駆け出した。
そう、いつだって俺は全力だ!
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俺はダイバーシティの手前で立ち往生してしまった。
何故かって?それは...
「あー、お坊さん。ごめんなさいねぇ。
このハシで事故が起きちゃったら、このハシを渡っちゃダメなの。
現在、封鎖中なんですわ。」
なんてこった!
これではダイバーシティに行けない。
タルトが買えないではないか。
きっと安寧和尚の事だ。首を長くして待ちすぎて、胸鎖乳突筋を傷めるに違いない!
※なお、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)とはこちら↓
http://muscle-guide.info/sternocleidomastoideus-html/
今回も一休和尚の如きひらめきで解決するしかねぇ!
「よし、ここで腹筋をしよう!」
「おいお坊さん、突然 何を言っているんだ?意味側からねぇ!」
「腹筋。下腹部の筋肉を伸縮させる事によって上半身を上下させる運動の事だが?」
「腹筋の意味を言っているんじゃねぇ!」
一般人のお巡りさんには、難しい話かもしれないが、
健全な魂は健全な肉体に宿るのだ。
つまり筋肉運動はひらめきを得るための通過儀礼と言える!
そう、そして今回も腹筋中にひらめいた!
やはり俺は一休和尚の再来に違いない!
「そうか、ハシを渡っては行けないのならば、ハシを渡らなければ良い。
つまり、泳げばいいじゃないか!」
「え、ちょっ、お坊さん!?」
「トリャァァァー!」
俺は気合の掛け声と共に海に飛び込み、猛然と泳いだ。
そう、ダイバーシティに向かって。
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青山巡査は信じられない光景を目にした。
やたらとがたいの良い僧侶が突然腹筋しだしたかと思えば、
今度は海に飛び込み猛然と泳ぎだしたではないか。
虹色ブリッジの封鎖は警察の仕事であるとして、
海の方はどうなのだろうか?
少なくとも警察の管轄ではないはずだ。
精神衛生の都合上、そう考えて現実逃避した。
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「おう、和尚! 今戻ったぜ!」
体を動かした後の爽快感もあって、
俺はいつもより大きく声を出した。
「これこれ、千急。おぬし一体何をしておったのだ。
ずぶ濡れではないか。」
「ハッハッハッ、ちょっと一泳ぎしてきてな。
それよりほら、言い付け通りタルトを買ってきたぜ!」
俺は颯爽とタルトを渡す。
「うむ。ご苦労であったのう… って、何じゃこりゃぁ!?」
今回も俺は完璧に任務を果たした。
…タルトが水浸しになったのは些細な問題だ。