・第四話:千急さんと邪悪な檀家さん
「フハハハハーッ!
よくぞ参られた。よくぞ参られた!」
俺と安寧和尚は、檀家の割田(ワルダ)さんのお宅に招かれ食事を頂くことになった。
割田さんはいつも豪快に笑う、闊達な人だ。
「割田様にはいつもお世話になり...」
和尚が丁重に挨拶。俺も失礼のないようにそれに続いた。
「フハハハハーッ!
なに、堅い挨拶はそれぐらいにして、くつろいで下され!
ところで、千急殿。聞きましたぞ。あの傲慢な県知事をとっちめたとか!」
噂とは広まるのが早いものだ。
どうやら虎を(物理的に)お祓いしたことが、もう耳に入ったのか。
俺の偉業はことのほか早く広まるらしい。
「なに、除霊や御祓いも俺らの務めのうち。
割田様も困った事があれば声をかけてくれよな!」
「フハハハハーッ!
頼もしい事ですな!なんとも頼もしい事ですな!」
割田様と談笑していると、食事が運ばれてきた。
なんとも豪華な食事だ。
「それでは召し上がって下され!召し上がって下され!」
「これは大層なご馳走。有難く頂きましょう。」
並んだご馳走の一つ、お椀のふたを取ろうとしたその時、
割田様がそれを止めた。
「おおっと、そのお椀のお吸物は、ふたを取らずに召し上がってくだされ。
フハハハハーッ!」
ふむ? ふたを取らずに食べる?
これは何か手を考えねば。
俺は反射的にスクワットを始める。
「こ、これ千急!やめんか。食事中にはしたないぞ!」
「フハハハハーッ!
良いではないか。なんだか分からぬが、元気があって何より!
元気が一番であるぞ!」
やはり俺はここで閃いた。
筋肉運動はインスピレーションをもたらすのだ!
「見えた!フタをとってはいけないのならば、フタごと叩き割って...」
「まてー!止めんかッ!!」
俺が言いかける途中で和尚が遮ってお椀を取り上げる。
せっかくの俺の見せ場なのに。
「フタを壊すつもりじゃろう!このバカもんが!」
「叩き割るのはだめか?」
「無論じゃ、この筋肉馬鹿!」
「むぅ、では壊さない方法を考えるか。」
そして俺は再びスクワットを始める。
そんなに簡単に閃くのかって?
そこは俺が一休和尚と並び称される男たる所以、
スクワットを再開してすぐに閃いた!
「よし、再び見えた!
こうすればフタもとらず、壊さずに済むっ!」
俺はお椀をふたが付いたままひっくり返し、
ふたではなく"お椀を″とった。
どうなったかって?
お吸物の大半がこぼれたが、フタも取らず壊さずに済んだのだから些細な問題だ。
「…。」
「フハハハハーッ!
そうきたか。フタではなくお椀を取ったか!」
和尚は絶句したが、割田さんは喜んでくれたようだ。
「千急殿、気に入りましたぞ!
この割田、何かあればお主に力を貸しましょうぞ!
宗教戦争をする気になれば、いつでも声を掛けて下され。
傭兵でも、兵器でも、宗教戦争を始める大義名分でも、すぐに用意してしんぜよう!
フハハハハーッ!」
「では、さっそくなのですが」
「ふむ?」
俺は盆に目を向ける。
「雑巾を用意してくれないだろうか。大分こぼれてしまったからな!」
「それはごもっともですな! フハハハハーッ!」
こうして俺は得難い支援者を得た。
和尚がなぜか遠い目をしている様に見えたが、多分気のせいだろう。
※この物語はフィクションで登場人物やエピソードはもちろん架空のものです。