・第二話:猛虎、襲来。
仏の道を歩む者。
それは、すべからく困った人を助けるべきだ。
そして、俺と安寧和尚は県庁に来ていた。
目的は県知事に会いに行くため。
県知事は人を困らせる事が大好きともっぱらの噂だが、
今は県知事が困っているらしく、俺たちにお声が掛かったのだ。
困っている人は助ける。
筋肉は鍛える。
これぞ、主人公たる俺の定めだ。
ってなわけで、県知事の前に通されたのだが、
この州知事、開口一番
「はるばるご足労ありがとう。
さっそくだが、この虎が描かれた油絵を見てくれたまえ。」
それは岩に爪を立て、吼える猛虎が描かれていた。
「立派な虎が描かれていますな。これが何か?」
俺にはサッパリわからないが、和尚は絵に感心した模様だ。
きっと価値のある物なのだろうな!
そんな俺たちに県知事は話を切り出す。
「うむ、実はこの油絵、ものの怪か何かが取り憑いていてな。
夜な夜な絵の外に出て暴れて困っているのだよ。
だから和尚の力で祓って欲しいのだ。」
「むむ、それはそれは...」
和尚が言葉を詰らせる程とは、かなり厄介なものの怪に違いない!
そうとなれば、俺の出番だ。
「県知事、和尚。ここは一つ俺に任せなよ!」
「こ、これ。よさんか!
ここをお前に任せると、嫌な予感しかせん!」
心配性の和尚を尻目に、俺はその場で腕立て伏せをはじめた。
健全な魂は健全な肉体に宿るのだ!
「安寧和尚、彼は一体何を...?」
「あ、いや県知事殿。不肖の弟子の気まぐれな行動ゆえ、気にしないで下され。
これ千急、腕立てを止めよ!」
腕立てをしてすぐに、俺は閃いた。
俺は確信した。この瞬間、一休和尚が俺に乗り移ったに違いないと!
「見えた!
絵の外に出て来られて困るなら、二度と絵から出られぬようにすれば良いじゃないか!」
「こ、これ千急! 早まるでない!」
「せいやぁーー!」
掛け声と共に俺のこぶしは虎の油絵を突き破る。
これぞカラテ家ニンジャ僧の神髄だ!
「こ、この馬鹿弟子、やっぱりやりおった…」
「セイッ! ハッ! ヤーッ!」
和尚の期待に応えるように、
二度、三度と俺は正拳突きで油絵に穴をあける。
そんな俺の勇姿を口を大きく開けて見守る県知事。
これはきっと、俺の勇敢な行動に感心しているに違いないな!
「県知事、これでもう安心だ。
流石の虎も頭と体をぶち抜かれては動けまい!
念のため、この絵は寺で預かって祈祷しておくぜ。」
…こうして虎の油絵の事件は無事に解決。
良い事をした後はとても気持ちが良い。
16ビートで読経したい気分だ!
なお、なぜかこの日から1ヶ月の間、俺は県庁に出禁になった。
きっと俺の筋肉に職員の誰かが嫉妬したのだろう。
存在自体が嫉妬の対象になるとは、主人公とは辛いものだな!