・第一話:主人公たる者。
よう、みんな!元気か!?
俺が誰かって? 自己紹介しよう。
俺は千急。センキュウと読む。
気軽に千急さんって呼んでくれよな!
俺は後にあの高僧、一休宗純に並び称されるであろう僧侶だ。
一休さんと言えば、みんな分かるだろう?
とんち一つで名を馳せ、とんち一つで世界を救ったあの僧侶の事だ。
つーワケで、俺のこと覚えておいてくれよな!
さて、俺は悩んでいた。
悩み、考える事はいいことだ。
脳のシナプスが爆発するからだ。
...そういえば、シナプスって何だ?
うーむ、恐らく筋肉細胞の親戚か何かだろう。
ま、それはともかくだ。
「これ、千急。何を悩んでおる?」
俺が悩んでいると、安寧和尚が声をかけてきた。
安寧和尚、俺の師であり、ここ和羅ッ寺(ワラッテラ)の和尚だ。
筋肉が無いのが欠点だが、頼りになる師匠だ。
「安寧和尚。実は俺の方向性、キャラクターメイクについて考えていたんだ。」
「なぬ?」
安寧和尚の顔が曇る。
当然だ。主人公たる俺の立ち位置は重要。
ひいては物語の方針すら左右する。
和尚が心配してくれるのも無理は無い。
「俺の魅力、即ち筋肉だ。
したがって、俺は筋肉を活かした僧を目指すべきだ。
古の時代に僧兵たる僧侶が薙刀(ナギナタ)を手に活躍したそうだが、
今の時代に薙刀を持てば銃刀法違反!」
「いや、いや、何を言っておる...」
安寧和尚が何か言いかけたが、俺は続ける。
「かといって拳法の道を歩めば少林寺とかぶってキャラがパッとしない...」
「いや、仏門に入ったおぬしは真面目に仏教の道を…」
ここで思い悩んで腐っても仕方ない。これは筋肉で解決するしかなさそうだな!
「健全な魂は健全な肉体に宿ると言う。
スクワットをすれば何か閃くに違いない。
よし、早速やるか!
イチッ! ニィ! サンッ! シィ!…」
「いかん、このゴリラ弟子を早くなんとかせんと...」
俺を暖かく見守ってくれる和尚の横で、俺は猛然とスクワットをする。
スクワットが八十回を超えたあたりだろうか、
体中の筋細胞が俺にインスピレーションを与えた!
「そうか。判ったぞ。ガイジンに愛されるクール・ジャパンこそ我が指針!
ゼン(禅)、カラテ、ニンジャ。これだっ!」
「コラ。まて、まて、まて!」
「禅を極めたカラテ家ニンジャ僧、何てクールな響きだ。まさに俺にぴったりだ。
よし、ぜんは急げ。早速カラテを始めるとしよう、ゼンだけに!」
「空手なんぞする暇があったら仏の言葉を学び仏門に精進せんかい!」
和尚のツッコミはしごくもっともに聞こえる。
しかし、俺は既に答えが見えていた。
「何の問題もない。カラテの道も、仏教の道も行きつく先はただ一つ。
そこは...」
俺は一呼吸おき、世の真理を口にする。
「そこはローマ。
古の賢者はこう言った。『すべての道は、ローマに通ず』と! 」
「その言葉はそういった意味ではないわ、ボケ!」
今日も和尚のツッコミが冴え渡る。
…ところでニンジャはどこに行った?