久々に晴れた青空の下で､私はでこぼこの足元に気をとられながら歩いていました｡
と､横道からふいっと､二人の小さな男の子が割って入ってきました｡追い越す道幅もないので､私は少し歩みを遅くして､彼らと距離をとりました｡
先頭を歩くまだ声変わり途中の男の子が､後ろの子を振り向いて言いました｡
｢おれ､基本的に､女が好きなんだよな！｣
私は耳を疑いました｡どう見ても声変わりしていないあどけない顔立ちの少年が､
基本的に､女が好き､とは｡
すると､後ろの男の子も､私に背を向けたまま言いました｡
｢おれも｡基本的に女､好きだよ！｣
どうやら二人の間では､基本的に､がﾌﾞｰﾑのようです｡
前の子が､雪の塊を時々蹴散らしながら続けました｡
｢けどさ､おれのお父さんは､お母さんのことは好きじゃないみたいなんだよなｰ｣
ふｰん､と後ろの子も雪を蹴りながら､
｢お母さんは､女じゃないからだよ｣
私はｵｵと声を上げたくなりました｡
お母さんは女じゃないから｡｡｡｡
あまりにきっぱり､しかもなんの邪心もない言い方に､妙な清々しささえ覚えました｡
先頭の男の子も､
｢だよなｰ｣と頷き､遠くから走ってきた白いﾜｺﾞﾝ車を認めて､ﾋﾟｮﾝと跳ね上がりました｡
｢やべ､お母さんだ！｣
車で迎えにきたお母さんは､確かに立派な体格をして､関取の逸ﾉ城に似ていました｡花柄のｴﾌﾟﾛﾝが化粧回しのように見えました｡
｢お帰り｡あんたも乗んなさい､送ってくよ｣
ﾄﾞｽのきいた声で二人をﾄﾞｽｺｲと乗せた逸ﾉ城母さんは､車を手際よくUﾀｰﾝさせ､それでも私に雪の泥をかけないよう配慮しながら､ゆっくり走り去って行きました｡
どこまでも続く一本道に一人取り残された私は､雪にできた自分の影を見てつぶやきました｡
｢私も､基本的には女じゃないかも｡｡｡｡｣
ｱﾎﾟﾛｷｬｯﾌﾟにﾏｽｸ､もやしみたいな髪型に､もさっとした焦げ茶のﾛﾝｸﾞｺｰﾄに黒のﾐﾂｳﾏ長靴しかも大きめﾌﾞｯｶﾌﾞｶ｡
株が上がって利益が出たら､少し女をみがきたくなりました｡恐らく来年に持ち越しでも､女を取り戻せるならよしとしようと思いましたが､施設に着いて祖母や諸先輩のとにかく何がなんでも長生きするぞという姿を目の当たりにしたら､やっぱり健康さえあれば女は二の次でもいい､という考えに変わりました｡
ゆりさん・・・
