「株式投資で企業を応援」に騙されるな!
個人投資家のオカネが向かう先
「株式投資で企業を応援」というフレーズは響きが良いですが、本当に応援になっているのでしょうか。個人投資家が株を買ったオカネが向かう先を考えると、答えは見えてきます。
「株を買って企業を応援しよう!」というキャッチフレーズ、響きは良いのですが、証券市場と企業行動の実態はかなり違います。
もちろん、投資は自由な経済活動なので、主義主張を持ち込むのもアリで、当人が納得していれば良いだけのことです。ただ、投資パフォーマンスから見ると、クールで合理的な投資スタンスで相場に臨むほうが良さそうです。
■株を買ったお金はどこへ行く?
「この企業は自分の価値観に合う製品やサービスを提供してくれるから応援したい」
個人投資家は消費者でもあるので、こういった感情は極めて自然といえます。でも「だからこの会社の株式を買おう」というのは、投資の観点から言えばちょっと違うかもしれません。
危機的な状況で株を買ってあげたらどうなる?
例えば、リーマンショック直後の日本中が大変な時期にA社の売上が低迷し、危機的な状況で株価は30円だったとします。これにあなたが100万円投資しても、まず株価はほとんど変わりません。時価総額が小さいマイナーな銘柄なら、31円か32円になるかもしれません。
でもそれで企業を応援したことになるかというと、答えはNO。株価が1円上がっても、資金繰りの助けにもならず、株価に拘わらず不渡りを出せば倒産しますし、明日にも会社更生法適用会社になるかもしれません。相場が低迷している状況では増資は無理なので、あなたのお金は「あなたより前に買って売りたかった投資家を助けた」だけです。
イケイケな市場で株を買ってあげたらどうなる?
では、2013年後半のように「株価が上がって、業績も好調」という時期に、あなたがその会社の株式を買ったらどうなるでしょうか。
今や、日本市場のキープレイヤーは巨額の資金を動かす海外のヘッジファンドや海外の年金といった外国人投資家です。個人投資家の資金では、相場活況時だと株価は一瞬の「ピクッ」にもならないでしょう。
株価が上がっても、増資や転換社債等の株式転換でもない限り、企業に直接お金が入ることはありません。経営者が保有するストックオプションも、日本企業の付与数では株価上昇のおこぼれのホンのちょっとだけです。
ここでも、あなたが応援しようと思った購入代金は、あなたより先にその企業の株式を買って保有していた人か、割高と思って空売りした人の手に渡ります。
個人が株を売買すれば、株式市場全体が盛り上がる?
「株式市場は一部の取引で全体の資産価値が上がる特殊な市場なんだよ。知らないの?」という声もあります。確かに、国内上場企業の時価総額450兆円程度に対して、1日の売買金額は1~2兆程度なので、0.2%~0.4%の資金(200-450倍のレバレッジ)で莫大な資産の価値を変動させていることになります。
でも、株価が上昇してメリット享受する長期保有者は、大株主の創業者(家)、持ち合い株を保有する国内金融機関、欧米の年金や投信、中国・産油国のソブリンファンドなどの外国人投資家です。
「企業応援派」の小口個人既存株主も資産価値上昇のメリットがあるはずですが、なにせ「株式長期保有で応援するので売却はしない」ならいつまで経っても売り時はありません。
「応援できなくなったら売る」なら、だいたい業績悪化を伴っているので売るたびに損をすることになります。また、当該企業の立場からみても、株価上昇で増資して立派な本社ビルを建てるか、M&Aの対価に株式を使って“帝国”を築くことを狙うことはできますが、それ以外の効果はかなり間接的なものとなります。